基本的に物置き

0.前置き

「オリジナルシナリオを作りたい!」

TRPGを遊んでいると一度はそう思ったことがあるのではないでしょうか。
しかし「どこから手を付けていいか分からない!」「最高のクライマックスと導入が浮かんだけど間が書けない!」などと挫折してしまった方も数知れず。
もしかすると、このページを開いている貴方にもそんな経験があるかもしれません。
ですがご安心ください。この講座はシナリオ作成の初めから終わりまでを丁寧に解説しており、一つ一つの課題を順番にこなしていくことで誰でも・気軽に・簡単にオリジナルの短編シナリオを(長編、中編も応用次第で)書きあげられるように作られています。
必要なものはシナリオを書いてみたいという気持ちと、書き留めるための3枚の紙とペンだけ。
一度に書ききれず、読みきれずとも大丈夫。紙さえ取っておけばいつでも続きから始められます。

それでは始めていきましょう。

1.敵を決めよう

シナリオを、つまり物語を書いていく上では、いくつかやり方のパターンがあります。ここではその中から2つを紹介します。
1つ目は直線型。これは単純に、始まりから終わりまでを一直線に書いていくやり方です。
2つ目は逆算型。こちらはまずゴールを決めてしまって、それからスタート地点を決め、ゴールまでの道を辿らせていくやり方です。
今回は後者の逆算型を用いてシナリオを書いていきます。
その理由は二つ。ゴールを最初に決めることでシナリオ執筆に明確な終着点を作るのが一つ。それにより「最終的にどこに着地していいのか分からない」といった混乱を未然に防ぐことが一つです。
どちらも執筆中に見失いがちな点なので、それらを先に潰せるこちらが初めてのシナリオ執筆には向いています。
……と言ってもいきなり「終わりを書いてみろ」と言われても困りますよね。そこで今回は終わりより先に「敵を決める」ことから始めていきましょう。

なぜ敵を決めるのか? そう思った貴方は今まで読んだ物語を思い出してみてください。そこには相当な割合で「敵」がいるはずです。
弱者を食い物にする悪党だったり、踏みにじる外道、相互理解不能の危険人物、やむを得ず戦う悲しき悪役……
愛を巡って争う恋敵や、怒鳴り散らすだけのクソ上司、あるいは互いに高め合うライバル……
それら全てが「敵」です。「倒すことで何かが解決する存在」と言い換えることもできます。

敵を倒すことは人間誰しも持っている競争本能に根ざした、最もありふれた目的の1つです。
彼らは物語に始まりを、目的を、そして終わりをもたらします。
明確な敵が存在することで、彼を倒そうとするという「始まり」が、倒すという「目的」が、そして倒したという「終わり」が生まれるのです。
まず、そんな敵を1人作り出してみましょう。大丈夫、順番を守って進めていけば難しくありません。

2.実際に敵を書いてみよう

最初に決めるのは「敵がどんな力を持っているか」です。
筋力でも財力でも魔力でも霊力でも構いません。ともかく特筆すべき力です。
パッと思いつかない場合は、貴方が今までに触れた作品の中で、一番印象的な悪役を思い出してみてください。
その人物はどんな力を持っていましたか? それを書いてみましょう。

それが出来たら、次に「その力で探索者にどんな危害を加えるか」を決めましょう。
そこから逃れる、あるいは正面切って打ち倒すことが探索者の一番の目的になります。

危害と書くと難しく思えるかもしれませんが、要は「奪う」ことです。
最もありふれた危害は「命を奪う=殺す」ことでしょう。誰だって殺されたくはありません。「生きるための戦い」は原始的で力強い目的です。
「自由」「力」「大切なもの」なども定番ですね。ともかく「奪われたくないもの」を想像し、書き出してみましょう。

ただし、あまりに小規模なもの、または個人的なものは避けた方が無難です。
例えば「スマホのロックを勝手に外し、閲覧履歴を隅から隅まで覗いてくる」敵がいたとします。
確かに嫌ですが、なんだかみみっちく感じますし、倒してもあまり盛り上がりはしないでしょう。
あるいは「町中でハンドルネーム(ネット上の名義)で呼びかけてくる」敵がいたとします。
これは人によっては物凄く嫌がりますが、まったく気にしない人もいます。そうしたものも避けた方がいいでしょう。
これらは少々極端な例ですが、自分にとっては絶対に許せないものが他人にとっても絶対に許せないものとは限らないということです。
万人、あるいは大多数にとって絶対に許せないものをしっかりと書きましょう。

少し脱線しましたが、ここまでで「敵の力」「加える危害」を決めました。
最後に決めるのは「理由」です。敵も人間である以上、行動には理由が伴います。
探索者に加えようとする危害、それを敵が実行する理由を作りましょう。

難しくはありません。「楽しいから」も立派な理由です。理解も共感も不可能な、まさに敵といった感じですね。
「他人の苦しむ顔を見るのが快感」「他人が幸せそうなのが許せない」といった共感不能な具体性を付けてみても面白いでしょう。

少し複雑にするのなら「病気の子供の治療費を稼ぐため」「生贄にしないと世界が滅ぶ」などといったやむを得ない理由を決めてみましょう。
敵もまた一人の人間。ただ巡り合わせで敵となってしまっただけ、しかし倒さなければ奪われるしかない……そんなほろ苦いラストを迎えさせてくれる理由にも鉄板の人気がありますね。
ただしこの場合「別の敵」を出さないようにしましょう。例えば「誰かに人質を取られて仕方なく」が悪事の理由だったとします。
この場合「誰か」が別の敵です。もし貴方の探索者が実際にそんな敵と出会い、そう言われたとします。
すると「じゃあお前と戦うのは止めて、そいつをやっつけてやる!」と怒りの矛先が別の敵に向いてしまいませんか?
割り切ってしっかり倒したとしても、シナリオ中でその別の敵を倒せることは絶対にありません。そうなるとモヤモヤした感じが残ってしまいます。
あまり気分のいいものではないでしょう。

長くなりましたが、1つ1つゆっくりと進めていけば大丈夫です。
それでは実際に紙に書いてみましょう。

◆実際に書いてみよう

1枚目の紙に、敵の力、探索者に加えようとする危害、危害を加えようとする理由について書いてみましょう。

3.敵を「敵キャラ」にしよう

さて、先程までで物語上の敵が完成しました。ただし今の段階では「敵」という単なる舞台装置に過ぎません。
次にすることは、それを「敵」から「敵となった人間」に肉付けしてあげることです。

敵に肉付けするには、人間と感じられるための要素を付け足していくことが必要です。
まずは「名前」。貴方にも私にも、人間には誰しも与えられた名前があります。
貴方の創造した敵にも、まずは与えてあげる名前を考えてみましょう。

名前を付けるのは、なかなか難しいものです。
普通すぎると印象に残らないし、それっぽくしてみると逆に浮いてしまいます。
例えば「卑劣坂 悪男」という名前があるとしましょう。どう思いましたか? 「悪いんだろうな」と思ったかと思います。
それと同時に意図が露骨すぎて、子供っぽさも感じられたのではないでしょうか?
分かりやすさ、印象、覚えやすさという点では良いのかもしれませんが、こういった名前は避けた方が無難です。

一番簡単なのは、敵としての力から連想される漢字を名字に含めることです。
例えば「凄まじい怪力」なら「剛」や「筋」の漢字を。「人間味を感じさせないほどの冷徹さ」なら「冷」や「氷」など。
そうした漢字を元に「漢字+名字」で検索をかけて実在の名字を探してもいいですし、適当に「二文字熟語」+「坂や寺、山などの漢字」で生成しても構いません。
名字というものは意外に幅が広いものです。例えば「竈門」や「不死川」などもれっきとした実在の名字です(流石に数は少ないですが……)。多少の違和感があっても問題はありません。
ただし難しすぎる漢字や読み方は避けた方がいいでしょう。「矯儺禍」という名字があったとして、読めるでしょうか。読めません。印象には残るかもしれませんが、思い出すのも難しくなりますし、テキストセッションで「矯儺禍さん」といちいち変換することを考えるとゾッとしますね。

名前というのは単なるイメージに過ぎず、実際の人間の人格を定義するものではありません。
しかしそうした連想のしやすさが印象や覚えやすさに繋がるのも事実です。創作の上ではその力を借りましょう。

こうした作劇方法ではなく、普通な名前を付けても問題はありません。
こちらの場合はより自然な印象を与えることができます。ただし違和感のある名前かどうかは検討した方がいいでしょう。
2020年の新生児の名前ランキングの1位は「蒼」「陽葵」だそうですが、そういう名前のおじいちゃんおばあちゃんが出てきたら、少し引っかかりますね。
引っかかると「伏線じゃないか?」「何か意味があるのか?」と勘ぐってしまいがちなのも人間の性です。
プレイヤーに挑んでほしいのはシナリオの謎で、偶然生まれた名前の謎ではありません。余計な引っかかりを織り込むのはなるべく避けるべきでしょう。

あれこれ難しく考えてしまうのなら、名前ランキングから適当に取ってくるのも構いません。
ともかく名字と名前を決めて、ついでに性別と年齢も決めて紙に書いてしまいましょう。

次は職業です。これはその人間の人格イメージに大きく関わってきます。
たとえば「税理士」「弁護士」には賢そうなイメージがありますね。
それは単純に、その職業に求められる資質だからです。賢くなければそれらの職業には就けません。

こちらも敵が持っている力から逆算して付けてもいいでしょう。
その力は社会のためにどう役立てられるか、どう使えばより力を活かせる職業に出来るか……
頭がいいなら頭脳系の職業だろうし、力が強ければ肉体系の職業。初めのうちはそういう風に大雑把に決めてしまいましょう。
じっくり考えるのは、そのやり方に不満を覚えてきてからで大丈夫です。

最後は性格です。これは今まで書いた情報を元に決めましょう。
力、危害を加える理由、名前、職業。色々と決めてきましたね。
それらの情報を持った人間は、どんな性格の持ち主なのか。
そのイメージを書き出してみましょう。

難しい場合はいくつかの選択肢を元に書いてみましょう。
以下に列挙してみます。

①冷静なのか、感情的なのか
②他人に厳しいのか、優しいのか
③押しが強いのか、弱いのか
④他人に敬意があるか、ないか

これらを元に「冷静だが他人に優しく、押しも弱い。しかし他人に敬意はない」といった具合です。
性格診断みたいだと思われたかもしれませんが、まさにそれです。ただし危害や理由から矛盾しないようにしましょう。
例えば「感情的で他人に優しくて押しも弱い、他人に敬意を払う」人間が「個人的な快楽のために探索者を殺そうとする」のは、何か別に理由がなければどう考えてもおかしいですよね。この場合は少なくとも「他人に敬意がない人間」でなければなりません。

それでは実際に書き出してみましょう。

◆実際に書いてみよう

1枚目の紙に敵となるキャラクターの名前、性別、年齢。職業と性格を書き足そう。
探索者たちと同じ形式のステータス(敵としての力と合致するもの)も用意しておこう。

4.結末を考えよう

ここに危害を加えようとする敵キャラが生まれました。そしてシナリオには挑戦する探索者がいます。
探索者の目的は彼が加えようとする危害を逃れることです。となると二人の衝突は避けられません。衝突には必ず終わりがあります。決着、それが結末の場面です。
貴方の作り上げた敵キャラは、どういう手段で探索者に危害を加えようとしますか? それは何をされると失敗しますか? そのために探索者は何をすればいいでしょう?
殴り倒す、特別なアイテムを使う、説得を試みる……その理由は敵キャラや危害の内容によって様々でしょう。
まずはその「倒される条件」を書いてみましょう。

次は、その場所についてです。これは密室など、衆人環視でない場所を推奨します。
例えば探索者を襲う敵が「キヒャァ~ッ! 俺は人を殺すのが三度の飯より好きだぜェ~ッ!」とか叫びながら刃物で襲ってきたとして、返り討ちにする結末を書いたとします。この場合誰が悪いかは明らかです。しかしそれが往来で起きたのなら、社会にはそれを調査し、違法性のない行いかどうかを検証する必要があります。
ダイジェストで圧縮する手もありますが、基本的に面倒なので初めから誰も見ていなかったことにした方がいいです。
襲う側にとっても、探索者を倒した後に日常生活を送る必要があります。あまり警察の厄介にはなりたくないでしょう。

◆実際に書いてみよう

2枚目の紙の1番下に決着のシーンを書いてみましょう。それが物語の結末です。
場所を具体的にイメージできないのなら、そこは後回しにしても構いません。

5.舞台を決めよう

敵キャラと結末を決めたことで、シナリオの終わりが出来上がりました。
次は、シナリオを通しての舞台を決めましょう。これには時代と場所の二種類を決める必要があります。

時代は慣れない内は現代をお勧めします。これは単純にイメージしやすいからです。
シナリオに限らず、物語というのは多くの前提の上で成り立っています。
その世界に何があるか。人々の服装。食事。通信手段。必要なものを買う場所。
現代なら、それらにスッと答えることができます。その中で暮らしているから、肌感覚で分かるからです。
一方、別の時代を設定するのなら、それら(だけに限りません)を一つ一つ前もって決めて置かなければなりません。
これはかなり骨の折れる作業です。なので初めて書く場合はお勧め出来ないのです。

時代の次は場所です。これは探索者たちの探索するところを指します。
長めのシナリオでは色んな場所を行ったり来たりすることもあるのですが、ここでは一つに絞りましょう。
例えば悪霊の棲む家だとか、夜中の学校だとか、深夜の廃駅だとか……つまりは一つの施設で完結させるということです。

場所の決め方は、作りたいシナリオの雰囲気や、前述の結末部分から逆算します。
例えば結末部分が「家に憑いた悪霊を除霊する」のであれば、その家が冒険の場所となりますし、「襲ってきた殺人鬼を倒す」のであれば、殺人鬼が襲いたくなるような人気のない場所が適当です。
ともかく、結末の場所と同じ施設になるように意識して書いてみましょう。

6.舞台をチェックしよう

舞台が出来たら、それが以下の条件を満たしているか確認してみましょう。

①必然性がある
②雰囲気がある
③孤立した場所である

1の必然性とは、敵キャラとその動機から見て、行動を起こすのに自然な場所かどうかを指します。
例えば敵キャラが探索者を殺害して、死体を持ち帰るのが目的だとします。
それを白昼堂々、都会の交差点で行ったらどうなるでしょうか。捕まります。
自宅から遠く離れた夜の街角で行ったらどうでしょうか。持ち帰るのが大変です。
敵キャラの視点に立って、どこで事を起こすのが一番合理的かを考えてみましょう。

2の雰囲気があるとは、作りたいシナリオの雰囲気を指します。
例えばこの世に未練を残す悪霊が、じわじわと探索者を呪い殺そうとするシナリオを作ろうとしたとします。
悪霊にとっては場所がどこであっても構わないので、必然性はどこでもクリアしています。
しかしその場所が営業中のパチンコ店の中だとか、休日のにぎやかな遊園地だったりしたらどうでしょう。
探索者はともかく、それを操るプレイヤーは怖さを感じにくくなります。
少なくとも提供したい「じわじわと来る怖さ」は見込めないでしょう。

3の孤立した場所かどうかは、探索者自身の動機を決めるのに重要です。
もし貴方が殺人鬼の標的となったとします。どうしますか? ……当然警察に駆け込むでしょう。
後のことは警察がやってくれます。素人の貴方が出来ることは特にありません。それで話は終わりです。
何かやろうと思ったとしても、護衛対象にふらふら動き回られては警察も困るでしょう。

ではそこが孤立した場所……電波も通じず、街からも遠く離れた山の中だったとします。
この場合、貴方は自分で自分の身を守らなければなりません。誰も助けてくれないからです。
貴方の行動が誰かに迷惑を掛けることもありませんし、逆に行動しなければ死んでしまいます。
平たく言えば、貴方自身が行動することが最適解になっています。

決めた場所がこれらに反するようであれば、訂正しながら書いてみましょう。

◆実際に書いてみよう

2枚目の紙の最上段に舞台を書いてみましょう。
もし前項でラストシーンの舞台がなかったのなら、それを書き足しましょう。

7.スタート地点を決めよう

舞台を設定したことで、シナリオ像が具体的になってきました。
「どこそこを舞台に、危害を加えようとする敵キャラを探索者が倒す」……
世に「あらすじ」と言われるものは十分出来上がりました。
あとはより具体的に作り込み、シナリオとしての形に仕上げていきましょう。

次に決めるのはシナリオ開始時の探索者の位置。スタート地点です。
スタート地点に大切なのはプレイヤーの興味を引くこと。
用意した舞台の中から「ここはどこだろう?」「何があるんだろう?」と想像力が掻き立てられそうな地点を選びましょう。

また、探索者の視点からの「探索へ向かう動機」をしっかりセットするのも大切です。
たとえば探索者が突然得体のしれない連中に拉致され、狭い部屋の中に閉じ込められたとします。
この時、探索者はどうしたいと思うでしょうか? 積極的に探索に向かおうとするか、あるいは犯人が何か要求してくるのを待つか……どちらも正しい選択です。ですが探索に向かってもらわないと、シナリオの流れが少しグダってしまいます。
ではここで、そいつらが「ククク……これで生贄がクックック……」「クックック拷問……」とか言っていたとしましょう。
どう考えてもヤバいですね。これが探索に向かう動機「命を守るために逃げる」をセットするということです。

何か謎めいたアイテムを置いておくことで好奇心をくすぐる、というやり方もあります。
たとえば謎の箱が落ちていて、パスワードのロックが掛かっているとします。そしてスタート地点には鍵のかかった扉が。
中に入っているのは何でしょう? 扉を開く鍵? それとも……? 鍵のかかった扉は外につながっているのでしょうか? それとも何か危険な存在が封印されていたり……?
いずれにせよパスワードを手に入れなければ謎の答えは手に入りません。
この場合は「謎を解く」ことが探索の動機として浮かび上がってきます。

プレイヤーも人間です。序盤にそんな死なないだろうとメタを読んでガンガン動くプレイヤーもいれば、存在しないデストラップを警戒して待ちに入るプレイヤーもいます。
何かしたくても何もすることがない、というのは結構なストレスです。シナリオに理想的な流れがあるのなら、そちらに自然と足が向くように誘導してあげましょう。

8.スタート地点に招待しよう

次は用意したスタート地点に探索者を招待しましょう。
これがいわゆるシナリオのあらすじになります。
件のスタート地点には探索者たちはどうして訪れるのでしょう?
何の目的もなしに知らない場所に来るほど現代人は暇ではありません。
自分が探索者だったとして、その場所を自然に訪れる理由を考えてみましょう。

例えば山の中や森の中なら、アクティビティの最中に迷い込んでしまった。
突然の大雨の中、殺人鬼の住まう館に不運な人々が迷い込んでしまう……などというのは定番です。
目に見えて危険なスポットなら、誰かに調査の依頼を受けたり、動画投稿のネタにしようとして。
こういう場合は探索者の動機が自動でセットされるので、スタート地点の動機は少なめにした方がいいでしょう(押し付けがましくなるので)。

◆実際に書いてみよう

2枚目の紙の「舞台」の次に、スタート地点とそこに探索者たちが訪れる切っ掛けを書いてみましょう。

9.間を考えよう

これでシナリオの「始まり」と「終わり」、そして進行の舞台が出来上がりました。
が、これからが本題。シナリオの大部分を占める「過程」の部分を書いていかなければなりません。
この「過程」は慣れていなければいないほど難しく、シナリオ執筆を志した方の8割はこの部分をどうやって埋めるかが思いつかずに頓挫したとも言われています(予測値)。
ですがご安心ください。そういう方のためにこの講座は用意されています。

過程の書き方は長い線を引くのに似ています。
何の目安もなしに一筆で綺麗な線を引こうとすると、脳内イメージとは全然違う、あちこちにブレたヨレヨレの線が書き上がりますよね。その理由は? 慣れていないから。そう思うかもしれません。
では慣れた方ならどうでしょう。Pixivなどには大勢の絵描きさんがいます。しかしそういう方々でも一筆で綺麗な線を引くのは難しいそうです。そのためのテクニックが、線を何度も筆を分けて引くこと。つまり短い何本の線を繋げることで、綺麗な一本の線を引いているのです。
過程の書き方にも同じことが言えます。つまり長い線を一筆で描こうとしないように、短い過程をいくつも作り、それをつなげて大きな過程を作り出すのです。

ここではまず、書かなければならない大きな過程について考えてみましょう。
大きな過程に必要なのは、始まりと終わりを繋ぐものです。
これは今回のシナリオでは「終わりの場面で敵を倒すために何をしなければならないのか」。
これを短く区切ることで、短い過程を作り出すことが出来ます。

例えば「悪霊の群れに襲われるが、彼らを鎮めていた慰霊碑を直して沈静化する」シナリオを書いたとします。
この場合「慰霊碑を直すために何をするか」が大きな過程となります。
探索者たちは、この慰霊碑をどう修繕するかとシナリオ中に頭を捻ることになるでしょう。

ですがもし、スタート地点に慰霊碑と修理機材があったとしたらどうでしょう。
探索者はあまりにも露骨な壊れた慰霊碑をあまりにも露骨な修理機材を以って修理し、そこで悪霊は沈静化。シナリオは終了。ハッピーエンドです。
おそらくプレイヤーの感想は「は?」の一語で済むことでしょう。これではいけませんね。

そこで「慰霊碑を直す」ためには「修理機材を取りに行く」という小さな障害を越える必要があるように書き加えてみましょう。
これで一直線だった大きな過程に、短い区切りが生まれ、二本の線になりました。
これで歯ごたえがあるシナリオになったでしょうか。いえ、少し手間が増えただけですね。
なのでここに新たな手順を加えましょう。例えば「修理機材のある部屋には鍵が掛かっている」→「鍵を手に入れるには別の部屋にある碑文の暗号を解かなければならない」→「暗号のヒントが別の部屋にある本棚の中に隠されている」……などなど。
こうした短い区切りを繰り返し越えていくことで、プレイヤーは最後の「慰霊碑を直し、悪霊を鎮める」という大きな過程の結末に達成感を覚えられる、そういう仕掛けになっているのです。

それでは早速、実際に過程を書いてみましょう。短編シナリオなら必要な過程は4つほどです。
まずは大きな過程を終えるのに必要な「小さな障害」を1つ書き、その「小さな障害」を取り除くために……というように4つの障害を繋げて書いてみましょう。
さらにその「小さな障害」の解決に必要な技能値を考え、ダイスロールの成功パターンと失敗パターンを書いておきましょう。
この時、失敗した場合でも別の技能値でのロールだったり、最悪何か代償(肉体的損傷、時間進行、正気度etc……)を払うことで突破出来るようにしておきましょう。
今回のような小規模なシナリオでは、一つの技能ロールの失敗が取り返しのつかないものになりがちです。しかしそうすると難しすぎたり、大味すぎる感じになったりします。
かといってダイスロールに失敗してもすぐにやり直してよし、だと緊張感がありません。
失敗には適切な代償を設け、一度一度のダイスロールを緊張感を覚えつつ楽しめるようにしましょう。

◆実際に書いてみよう

2枚目の紙に4つの「小さな障害」を順番に書き加えましょう。ただし、それら1つ1つの間に余白を残しておくこと。

10.一度全体を見渡そう

だんだんとシナリオらしくなってきましたね。
ここで一度、シナリオを起承転結の流れに照らし合わせてみてみましょう。

起:探索者はスタート地点を訪れる
承:敵キャラが危害を加えようとする(大きな障害)。それを回避するために小さな障害をクリアしていく
転:
結:敵キャラを倒し、エピローグへ

大まかな流れは出来ているのですが、起承転結の「転」が足りていません。
「転」とは物語が予想外の方向に進んだり、新たな事実が浮かびあがったりする場面です。
実のところ、ここで「転」がなくてもシナリオとして成り立ってはいます。
気の合う仲間たちと遊べばそれなりに楽しめることでしょう。
しかし、せっかくシナリオを書くのならより面白く仕上げたいですよね。

これから「転」を作り、シナリオに書き足してみましょう。

11.山場を作ろう

転とは物語の山場です。ざっくり言ってしまえば「予想外のことが起こる」ことを指します。
そのシナリオ上の必要性は「危機感を覚えさせ、最後まで気を抜かせない」ことにあります。
成功か失敗か最後まで確定させられないことで、最後までヒヤヒヤしたスリリングな展開が生まれるのです。
ゲームで例を上げるなら「第二形態」です。倒したと思ったボスが動き出し、新たな形態に変化して……というのを一度は経験されたと思います。
第一形態を盤石に乗り越えたプレイヤーでも、第二形態の攻撃はさらに苛烈。余裕で勝てると思っていたのに、気づけば回復アイテムが底をついている。しかしそんな激戦を制したときの達成感はまたひとしおです。
このように適切な転を用意することで、そのシナリオは一筋縄では行かないものだと印象付けられ、達成感を味わわせることが出来るのです。

ただし「仲間だと思っていたキャラが裏切る」「集めていたアイテムが実は偽物」と言ったように今までの探索者の成果を否定するような転を起こすのは避けた方がいいでしょう。
確かにこれらも予想外ではありますが、探索者がクリアのために積み上げていた努力をフイにする行為でもあります。
そうなると「クリアのために努力し、その努力が勝利という形で報われる」という繋がりの喜びがなくなってしまいます。
たとえクリア出来たところで、それまでの探索が無駄だったという事実に変わりはないのです。

また、転には予兆もまた必要です。これはいわば伏線です。
「もう倒せる準備が整っているはずなのに、なぜか敵はそれを知って余裕を見せている」などと言うことがあれば「まだ何かあるのか」と予感させることができるでしょう。
「敵についての資料の中に、現在の敵の姿と相反する記述がある」などというのも王道です。
とにかく、その転が起こる前提で作中世界が動いていることを示しておきましょう。

今回は敵キャラとの決着の場面に「転」を付け足し、より味わいのある戦いにしてみましょう。
必要なのは「倒すための手段」が「それだけでは足りなくなる」理由。そして「その障害を取り除く」ために必要な手段です。
つい先程やったこととやるべきことは同じです。考えるのが少し難しいかもしれませんが、すでに4つも障害を作れた貴方なら大丈夫。じっくり取り組んでみましょう。

◆実際に書いてみよう

2枚目の紙、敵キャラとの決着の場面に予想外の事態が起き、それを乗り越えるという小さな障害を足しましょう。
さらにその前の中に伏線(その展開を予感させる情報)を足してみましょう。

12.シナリオの流れを確認しよう

ここまで長い間お疲れさまでした。
それではここでシナリオの流れを起承転結に照らし合わせてみましょう。

起:探索者はスタート地点を訪れる
承:敵キャラが危害を加えようとする(大きな障害)。それを回避するために小さな障害をクリアしていく
転:敵キャラとの決着を付けようとする。しかし予想外の事態が起こる。苦戦しながらも何とか倒す
結:敵キャラを倒し、エピローグへ

物語に必要な要素がしっかり盛り込まれたシナリオが出来上がりました!
しかし油断は禁物です。貴方の書いたシナリオを初めから終わりまで読んで、正しい流れになっているか確認してみましょう。
正しい流れとは、矛盾があるかだけでなく、理解できる内容になっているかも含まれます。
例えば「敵キャラと遭遇し、あるアイテムが弱点だと分かる」イベントの前に「あるアイテムを探す」イベントがあれば、明らかにおかしいですよね。
しかしシナリオ執筆者には、シナリオ上に存在する全ての情報が頭に入っています。なのでそれが無意識に前提となり、傍から読むと意味不明な記述が生まれてしまうのです。
今回の講座は初めから順に書いていったのでそうしたことは起こりづらいのですが、それでも実際に起こってしまうことはあります。しっかり確認してみましょう。シナリオ制作もあと少しです。これまでの苦労がどれだけの成果を上げたのか、確認するつもりで眺めてみましょう。

また、もしシナリオを査読してくれる友人がいるのなら、その方にも依頼してもらいましょう。人間一人で見られる範囲には限度があります。
もし浮いている、流れのおかしな場面があったら正しい位置に直しましょう。

13.マップを作ろう

最後に、舞台となる場所のマップを作りましょう。
マップは部屋単位で区切ることで分かりやすくなります。
例えば、スタート地点が一部屋。小さな障害1が一部屋。2で、3でさらに一部屋づつ。最後に決着の場面で一部屋……と。
こうすることでキーパーは進行がやりやすくなりますし、プレイヤーは自分が今どこにいるのか、何をしているのかを理解しやすくなります。

マップの書き方ですが、特に元となる施設がない場合は、スタート地点の部屋に東西南北の扉があり、そこから各障害の部屋へ……という(よくある)構成でも構いません。
駅舎や廃校など、元となる施設がある場合は、それらの見取り図を検索し、それを元に地図を起こして、そこに各障害を配置してみましょう。
(1年の教室に障害1、図書室に資料があり、校長室は決戦の場所に、など)

ただしそういうものを使う場合は、無理に全ての部屋を見て回れるようにしないようにしましょう。
理由は単純に、プレイヤーが全ての部屋を探索したいと思ってしまうためです。
鍵を掛けておくと鍵を探されてしまうので「役立ちそうなものはない」と明言してしまうか、地図の段階で削除するかのどちらかを取りましょう。
もし「ここ××なのに○○がないなんておかしい!」と言われても「存在するけど、便宜上地図には載せていません。部屋が多すぎると混乱しますので」などと事情を伝えて我慢してもらいましょう。
ただし、プレイヤーが必要なアイテムを求めたり、その部屋でなければ出来ない作戦を立案したようなら、地図にはなくともその部屋に行けたことにしてもいいでしょう。

◆実際に書いてみよう

3枚目の紙にマップを書いてみましょう。図を書くとより分かりやすくなります。
四角形で囲んだ部屋名を線で繋ぐだけでも構わないので、やってみましょう。

14.テストプレイをしよう

シナリオを書き上げ、チェックも済ませたのなら、最終工程のテストプレイを行います。
テストプレイするのはシナリオ作成者とは別人でなければなりません。他人に遊ばせるものは、他人の目が入らなければ完成させられないのです。
また、その際は「これはテスト段階のシナリオだよ」と明言しておき「何か疑問や質問があればドンドン聞いてほしい」ことは伝えておくといいでしょう。
これはもしプレイヤーがシナリオ中に何か欠陥を見つけたとしても、それが意図的なものかそうでないかは判別が出来ないためです。
例えば敵キャラの名前を1度書き直していて、2パターンの名前があったとします。
当然シナリオ中に出てくる名前も書き直したのですが、もし一箇所に古い名前が残っていた場合、プレイヤー目線では「本来の敵の他に新しい敵が増えた」ように見えてしまいます。
また、何か特別な武器で敵キャラを倒すシナリオを書いたとします。この時、この武器の特別性や有効性が上手く伝わらないと、プレイヤーは「こんな武器だけで倒せるの?」と考えてしまい、何もない場所をくまなく探し回ってでも他に武器を見つけようとしたりして、無駄に時間がかかってしまいます。
書き手にとっては「とても重要な失言」が読み手にとっては「何気なく聞き流せる一言」なんてこともよくある事態です。

無意識に出来た欠陥を何か意味のある情報と勘違いされたり、お互いに意思疎通が上手く行かないままシナリオが終わってしまう、というのはよくある失敗のパターンです。
変に意地を張らず、互いにコミュニケーションをとりながら進めていきましょう。
こうしたテストプレイの回数はだいたい3回程度行うことをお勧めします。

また、テストプレイの際の注意点ですが、参加したプレイヤーの意見が絶対間違いないものだとは思い込まないようにしましょう。
ここを履き違えると、シナリオは出来損ないの粘土細工みたいに前提的な形になってしまいます。
書き手というのは真面目ですから(こんな長い講座に真面目に取り組むほどに!)、せっかく相手が時間を使って、せっかく意見してくれたものだから、一切無駄なく反映しないと失礼とか考えてしまいがちです。
しかし、考えてみてください。真剣にシナリオ執筆に取り組んだ自分も間違いを犯すのです。プレイヤーが真剣に指摘してくれたからといって、それが絶対とは限りません。
受け取った指摘は真摯に受け止め、それが正しいと思えるのなら、そこで初めて修正を加えましょう。
ただし、自分は間違っていると思った指摘でも、複数回、複数人に言われるようならもう一度考えてみたほうがいいでしょう。

◆実際に挑戦してみよう

テストプレイをしてもらいましょう。
その時、プレイヤーに「情報が伝わっていたか」「伝わりやすかったか」「難易度は適正だったか」「物足りない点、気になった点はなかったか」を聞き、しっかりとメモしておきましょう。
メモした内容を元にシナリオに手を加えるか、しっかり考えてみましょう。
ただし手を加える場合でも、元のシナリオはコピーなりなんなりして残しておくことをお勧めします。

15.完成

テストプレイが済み、適切な修正を加えたら……おめでとうございます。貴方のオリジナルシナリオの完成です!
完成したシナリオをどう扱うかは自由ですが、額縁に飾っておくよりはいつでも遊べるようにまとめておいた方がいいでしょう。
Pixivやシナリオ配布サイトに公開するのもお薦めです。ただし、一つ注意点があります。それは投稿シナリオに対し、反応がもらえなくてもめげないこと。何のコネクションもなしにシナリオをポンと置いても、あまり反応はもらえません。
これを書いてる人もシナリオを公開しはじめてから7年くらい経っていますが、中には公開したのに1度も感想をもらえなかったものもあります。そんなものです。
テストプレイの時にプレイヤーに喜んでもらえたのなら、まずその感想を誇りにし、大切にしましょう。
必要以上にくよくよしたり「面白いなら誰かが絶対反応してくれるはずだし、つまり反応してもらえないこのシナリオは駄作! 無価値! どうしようもない! アーッ!」などと思い込みで落ち込むのは時間の無駄ですし、何より辛いです。

シナリオ作りは慣れです。なんだってそうですが、回数をこなせば自然と上達します。
成功して喜び、失敗して悲しみ、なぜそうなったかを考え、また書き、喜び、悲しむことで成長していくのです。
つまり失敗とは成功のためのサイクルの一部に過ぎません。反省するのは大切なことですが、そこに囚われすぎないようにしましょう。それは「雲ひとつない青空以外は悪天候」とか考えるようなものです。たとえ一筋でも太陽の光が差し込んでいるのなら、それを信じましょう。

今回は短編シナリオを扱いましたが、中編や長編のシナリオも基本的には同じです。
大きな過程を、短く区切って繋げていく。違うのはスケールだけです。短編では一つクリアで全て解決だったものが、長編では問題の一つを解決しただけになる。それだけのことです。
好きな長編漫画を一つ思い出してみてください。「何々編」と分類できる塊がたくさんあるはずです。その何々編が短編に該当しています。
つまり短編をたくさん作れば長編を書くことが出来ます。そして貴方は短編を書き上げました。ここまでの課題をこなしたあなたにはもう、長編を書くことへの挑戦が出来るようになっているのです。
無論「面白い長編」「長いのにダレない長編」「無駄のない長編」を書くにはまだ経験値が必要かもしれませんが、貴方はもうその入口に立ち、門をくぐり抜けているのです。

シナリオを書くのは大変で、苦労も多く、時には失敗し、非難されることもあります。
しかしその分、ともに卓を囲んだ仲間と盛り上がったり、公開したシナリオを楽しめたと感想をいただけることは無常の喜びです。
この講座を終えた貴方は、一本のシナリオを書き上げた立派なシナリオ書きです。貴方がこれからもシナリオを書き続けるのか、それとも止めてしまうのかは私には分かりませんが、それだけは事実です。
シナリオを書いたことで貴方のTRPG生活が豊かなものになったのなら、望外の喜びです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。