基本的に物置き

最後のひとは

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0.概要

当シナリオはクトゥルフ神話TRPGに対応しています。
舞台となるのは、兵庫県にある架空の市『弥代市』内にある『夜見野記念病院』。
2人の探索者は高校三年生となり、それぞれの事情を抱えて命の危機へ立ち向かいます。

シナリオの難易度はかなり低め。
時間制限さえ守れれば容易にクリア出来るでしょう。

推奨技能は<対人系の技能(説得、言いくるめなど)>。
加えて<回避><登攀><図書館>の取得が両者に推奨されます。
最後に、探索者には「将来の夢」の設定が必要となります。
これは個々人の生きるモチベーションともなるものですが……?
NPCや自身の探索者に感情移入できる人向けのシナリオです。

1.あらすじ

季節は冬。吐く息が白く曇るようになって来たころ。
2年前に入院した探索者Aと、見舞いに訪れた探索者B。
いつもと違って奇妙な引っかかりを覚えた2人は、いつものように病室で出会います。

引っかかりの原因は、それぞれ別のものでした。
探索者Aは最近奇妙な予感を覚えていました。

(病室の窓から見下ろせるあの木。その最後の一葉が散るとき、自分もまた死ぬ)

それはいくら気分を変えようとも頭から離れず、むしろますます強く、堅固になっていきました。
そしてそれにつれ、まるであの世からのお誘いのように、毎晩不気味な声が聞こえるようになったのです。
「誰か……誰か聞いてくれ……私の声を……私の頼みを……手遅れになる前に」……と。

一方の探索者Bもまた、昨晩奇妙な夢を見ました。
どこか既視感のある、大きな、数枚しか葉の残っていない木。
そしてその根本には老人が静かに立っていました。
老人は真っ直ぐに探索者Bを見つめ、真摯に語りかけます。
「この木は人の命を吸い上げる。そして君の友人も命を吸われている」
「早くこの木の影響を取り除かなければ、彼(彼女)は殺されてしまうだろう」……と。

奇妙な予感と夢は、助けを求めるのにはあまりに貧弱な根拠でした。
けれども不安だけは現実のものとして、ハッキリと2人の心を炙ります。
彼らはこの2つの謎を追い、調査に乗り出すことになります……

2.事態の裏側

魂魄の木。それは死者の蘇生のために使われる呪術です。
ただの木に呪いを掛け、人の命を吸い上げる悪魔の木へと作り変え……
そして吸い上げた生命力で、根本に眠るものを復活させる。

鷲見利治は、ある魔術師の協力のもと、この呪術での復活を目論んでいました。
木の安全が担保でき、多くの人々が訪れ、そして離れていく場所。
自らの建てた病院、その中央に魂魄の木を配置することで、彼は3年後の復活に備えました。

ところが緩やかなペースで進められた復活は、予想外の影響を及ぼします。
根本に眠る鷲見、その意識だけが半覚醒状態となり、目覚めてしまったのです。
肉体を持たない魂には、命への本能的な執着が完全には理解できません。
彼は生前の愚かな行いを悔い、自身の復活を阻止しようと考えました。

彼は何度も何度も繰り返し、外へとメッセージを送り続けました。
しかしなかなか感受性の強いものが現れないまま、時間が過ぎていき……
メッセージが届いたのは、復活が秒読み段階に入ったころのことになりました。

かくして探索者Bへ、その願いは届けられました。
果たして彼らは、無事に自身の復活を阻止出来るのでしょうか……?

◆KP向け補足

探索者を襲う呪い《魂魄の木》にまつわる謎の解明と、それを誰が設置したかという2つの謎を追いかけるシナリオです。
誰が設置したかを正しく判断できると最終決戦で有利になるようにデザインされています。

3.登場人物(+CS)

探索者A(ハンドアウト1)

2年前に難病を患い、入院。それから入院生活を過ごす。
徐々に自由と希望が失われていく生活の中、夢と友人を支えに頑張り続けている。
本来は半年程度で治癒すると思われていたが、今にいたる。
看護師や医師はそんな彼を治してやりたいと願い続けている。
シナリオ中、体を使う技能値や身体的なステータスを反映するロールの成功値は半分になる。

探索者B(ハンドアウト2)

Aの友人。徐々に周囲の関心が薄れていく中、ずっとAのことを思い続けた。
その甲斐があってか、彼は本来院内にしか届かないはずの鷲見の声を聞くことになる。
将来の夢があり、日々そのために必要な技能を磨いている。

鷲見 利治(すみ としはる)、83歳(故人)

『魂魄の木』を植樹し、自身の復活を目論む悪人。
一方で探索者の夢に干渉し、計画を阻止させようとする善人的な行動を起こす。
……罪悪感から「彼の病気が治らないのは自分の呪いのせいに違いない」と早合点してしまっているのだが。
生前は不動産会社を経営。戦後の混乱に乗じ、強引かつエゲツない経営手法で多大な財を成す。
父は戦地で死亡。母が後を追う際に巻き込まれかけたため、強い人間不信がある。
それゆえに絶対的に自己を肯定してくれる存在を求めていた。
誰も信じられなくとも、誰も信じずに生きられる強さが身につくわけではないのだ。

君枝との結婚生活は、彼にとって安らぎをもたらす時間であった。
だが、彼は必要なときにしか彼女を求めなかった。
自覚はないし、認めもしないが優一郎のことは信頼している。

生前関係のあった非合法組織が優一郎に手を出さないように(彼いわく、死中に財産に悪影響が出ないように)魔術師と共謀し組織を壊滅させ、根を絶っている。

高田 君枝(たかだ きみえ)、67歳

利治の元妻。誰にでも別け隔てなく優しい。旧姓は周防(すおう)。
それゆえ利治にも優しく、彼にとっては特別な存在だった。
しかしその博愛の心は、他人に愛してほしいという願望の産物に過ぎない。
誰にでも尽くし、誰をも愛するということは、裏を返せば誰も愛していないのと変わりはない。

30年前、優一郎を残して家を出たときも、彼女は夫や息子にさしたる未練は無かった。
婚姻関係を結んだだけの他人に過ぎなかったからだ。
生きるに十分な遺産を受け継ぎ、周囲に深い尊敬を抱かれながらも、その心が満たされることはない。
それでも彼女は称賛を求め、時々大川に会いに病院を訪れる。

高田 慎太郎(たかだ しんたろう)、72歳(故人)

夜見野病院の元院長。医師の鑑として多数の医師たちから仰がれる好人物。
他人の立場を考えることができるが、それゆえ断ることが苦手。
一見すると利他的な人間にも見えるが、根底には自身を最優先に考える強かさがある。
その内心は他人への恐怖に満ちており、故に何事も完璧にこなそうとする。

代々優秀な医師を排出する過程に生まれた彼は、虐待に近い苛烈な教育の日々を送った。
そこで培われたのは、医師としての素晴らしい能力だけでなく、「自分は絶対に失敗してはならない」という呪いのような前提だった。
決して失敗できず、他者に弱みを見せられない彼は、ストレスのはけ口を自分自身に求めた。
自身を痛めつける分には、誰にも迷惑が掛からず、弱みを握られることもないからだ。

だから彼は結婚した君枝に対しても、自分自身を虐げるのと同じような行為を行っていた。
死にゆく彼が最期に残したのは「自身の悪事は誰にもバレていないのか」という確認の言葉だった。

鷲見 優一郎(すみ ゆういちろう)、37歳

弥代の郊外に住むお金持ち。小さな印刷会社を経営している。
社員たちには冗談交じりにからかわれることが多いものの、叱責はしっかりと受け入れられるような関係。
父とは正反対の優しく穏やかな性格に育ち、様々な人に慕われる。
そのため、探索者たちが多少非常識なことを言っても受け入れる柔軟さを持っている。
印刷業を営むようになったのは、誰かの意思を形にして伝えることにやりがいを感じるから、らしい。
きつねうどんが好きだが、あげには糖分や脂肪分が多いということで、たまにしか食べさせてもらえない。

鷲見 寛子(すみ ひろこ)、40歳

優一郎の幼馴染で、妻。彼との夫婦仲は良好。
義理の父である利治のことは激しく嫌悪しているが、義理の母である君枝のことは、寛子が父子家庭で育ったことからか、理想の母として神聖視している面がある。
その君枝は内心彼女をうとんでいたのだが、それは詮無きこと。

思考は直情的で大雑把だが、それゆえキッパリと物事を断ずることができ、行動力に富んでいる。
意外と身内にはおおらかで優しい。

大川 夏菜子(おおかわ かなこ)、44歳

探索者Aの担当医。
快癒にこそ至っていないが、2年間ほうぼうに駆け回り、取れる手を探し続けてきた。
立派な医師ではあるが、「誰にでも自由に生きる権利がある」というモットーがあり、患者が満足して最期の時を迎えるためならば多少の規則違反を辞さない面がある。
高田を深く尊敬しており、彼の薫陶を受けたことは彼女の誇りになっている。

長老(松瀬 寅美)、21歳

11歳の頃から頻繁に入退院を繰り返している、通称『長老』。身分上は大学生。
一年のうち半年は病院で過ごすという、すさまじい悪運の持ち主であり、
今回の入院理由は退院当日にスリップした車が突っ込んできたことによる骨折。
その異常なまでの運の悪さは、運を研究するものにとっては非常に興味深いものらしい。
どちらかというと、その回復力の方が目を瞠るものという気もするが。

下の名前で呼ばれるのを嫌がり、自分にも他人にもあだ名を付ける癖がある。
もともとは小学生のころ、少しぽっちゃりしていた彼女が、音節の似ている「ドラミちゃん」というあだ名で呼ばれていたため。
すごくどうでもいい。

浅原 和人(あさはら かずと)、75歳

オカルト好きのおじいさん。特に死後の世界を調べることを好む。元教師。
デイルームの隅っこで、いつも楽しくなさそうにテレビを見ている。
シナリオ進行によっては一度も出てこない可哀想なご老人。

病院の土地の一角は、かつては彼の家だった。
そのためか、看護師に『ここはワシの家じゃったんじゃぞ!』と突っかかり、困らせる姿を目撃されている。
同時に土地を(極めて強引に)買い上げた鷲見について文句も言っていたため、看護師たちは3年前の入院患者に過ぎない鷲見の質問へスラスラ応えられた。
探索者Aは見たことがあるかもしれないが、ボケて自分の家と勘違いしている老人と思っている……かも。

メモを取らせたがる癖があり、探索者たちにもしきりに勧める。
子どもたちから調べる楽しみを奪い、自分から知識を持つ優越感を奪う、インターネットの野郎を目の敵にしている。

琴浦 佳子(ことうら かこ)、25歳

病院で働く看護師。
心優しく芯の強い性格で、他人の欠点より美点を探す強さがある。
しかしそれは、本人曰く「周りは良い人ばかりと思い込みたがる癖」から来ているらしい。
怖い話は苦手。

魔術師、????歳

魂魄の木の呪法を利治に売り渡した張本人。
様々な魔術に正通しており、他者の寿命を見る能力もその一つ。
見た目は今風の若い男性だが、長い長い時間を生きている。
外法に手を染めながらも人間であることに固執し、不合理な選択をすることがある。
もしかすると、彼もまた孤独になることを恐れているのかもしれない。

堂間法師

元ネタは芦屋道満だが、そんな人物を出すとメタ読み深読みが頻発し脱線するため改名した法師。
陰陽道に通じる実際すごい人物だが、情けも容赦もない。
そのため、今に伝わる彼の物語は、美点や活躍だけが強調されたものになっている。

吉島 崇彦(よしじま たかひこ)、53歳

高田の後を引き継いだ院長。外部から招聘された。
彼が後継ぎを選んだ基準は、『魂魄の木』の秘密を守り、自身の名誉を守れるかの2つのみである。
シナリオ中は特に絡まないが、探索者たちが『現院長の名前は?』と思ったときのために一応設定されている。
杓子定規な人物で、割り切りも早く、責任を問われることや、厄介ごとを何より嫌う。
ただ、大勢の人間を診療する上では、1人1人に時間を割きすぎれば余計な混乱を招くのも事実である。
部下の大川もそれは理解しているが、それでも仲は良くない。

4.導入

午前9時、探索者Aが朝の検診や朝食、筋力維持のトレーニングを済ませたころ、探索者Bが病室を訪れます。
面会開始時刻となったばかりの院内は静かで、人影もまばらです。
邪魔が入ることはないので、探索者たちには少しの間、互いの関係に慣れてもらうといいでしょう。

彼らはそれぞれ、以下の情報を持ち合わせています。
キーパーは個別に教え、プレイヤーが情報の共有の体で互いの探索者のキャラクターに親む、会話の時間を取ると良いでしょう。

・[探索者A]自身の病状について

内臓系の疾患。そう極端に珍しい病ではないが、回復が極めて遅く、入院が長引いている。
原因はハッキリしており、手術で完治させることも可能な病ではある。
しかし体力の低下により、体が手術の負荷に耐えられる状態ではないらしい。
担当医の大川は、他に手段がないか様々な医師に尋ねたり、検査を受けさせたりしているが、効果は出ていない。
彼女は体力の低下を和らげるため、なるべく負荷のかからないトレーニングを用意してくれている。

病気が原因かは分からないが、最近は夜中に謎の老人の声が聞こえる。
「誰か……誰か聞いてくれ……私の声を……私の頼みを……手遅れになる前に」と。

・[探索者A]院内の人間について

主に「高田元院長」「大川夏菜子」「松瀬寅美」について。

高田は元院長。感じが良く、治療にも熱心であり、辛いときも励ましてくれた優しい人物。

大川は担当医。治療に熱心で、成果は上がっていないものの、あらゆる手を尽くしてくれている。

松瀬は患者。『長老』なるあだ名を自身で付け、周りに呼ばせているものの、当人は若い女性。
入退院を繰り返しながら非常に長い間病院にいることから、下手な職員より院内の事情には詳しい。

彼女ら以外にも友人はいるが、長期入院の関係上、仲良くなってもすでに退院している方が多い。

・[探索者B]昨夜の夢について

無機質な白い壁に囲まれた空間、中央にはどこかで見覚えのある大きな木。
そして根本に立つ老人の真摯な声を、一字一句すら欠けることなく覚えている。

「人々の命を吸い、眠るものへ捧げる悪魔の木……」
「『魂魄の木』……君の友達もまた、命を吸われている。このままではもう持たない」
「おそらく最後の一葉が散るとき、その命は失われるだろう……」
「私はもう、肉体を動かすことはできない。君に頼るしかないのだ」
「急いでくれ。奴が目覚めるまで、もう間がないのだ……」

・探索の催促

探索者たちがあまりに長く本題に入っていけないようであれば、そのための切っ掛けとして以下のように描写します。

探索者Aは急に意識が遠のくのを感じ、思わずよろめいた。直後、厚いガラス越しに風の音が聞こえた。
窓を見ると、そこには1枚の木の葉が張り付いており、その向こうに大きな木が見えた。
病院の中庭にある、かつて悠然と佇んでいた大木。今は1枚の木の葉を残した、貧相な枯れかけた木。
それは探索者Bに奇妙な既視感を覚えさせる「あの木」だった。

5.院内の探索について

院内は基本的に自由に歩き回れます。
スマートフォンは院内でも使用出来ます。LINEのようなメッセージアプリや、電話、メールで別行動中も交信出来るようにすると良いでしょう。

目立った探索場所は「デイルーム」「探索者Aの病室」「松瀬の病室」「ナースステーション」「コンビニ」「中庭」「院内図書館」程度でしょう。
デイルームは患者と家族や他の患者のコミュニケーションのために用意された部屋で、大きなテレビや椅子、電子レンジや自販機、テレビカード販売機などが用意されています。
探索者Aの病室は導入の舞台となる狭い部屋。松瀬の病室には松瀬がおり、ナースステーションには看護師たちが待機しています。
コンビニはコンビニです。必要そうなものがあれば、購入できるか計らってあげると良いでしょう。

・中庭について

魂魄の木のある中庭は、「回」の字の中央のように外から隔離された空間です。
各所の窓から中を覗くことは出来ますが、入り口は施錠されており立ち入ることができません。
これは関係者に尋ねれば管理上の都合だと教えてもらえます。
さらに突っ込めば、古株そうな関係者から「木の保全は管理義務として定められている」と教えてもらえるでしょう。
病院設立の際に、多額の出資をした匿名の人物が、そういう契約を取り決めたのだそうです。
以来、寄付への感謝の気持ちもあり、しっかりと管理を行っているそうです。

しかし探索者がよく見てみると、あまり汚れていない造花が木の周りに植えられていると気づきます。
これについて尋ねると、琴浦という看護師がそれを植えたのだと教えてもらえます。

・院内図書館について

院内図書館は、かなり大量の本を所蔵する立派な図書館です。
そのため、探索者Aが院内図書館で本を探した場合と、探索者Bが院外の市立図書館で本を探した場合の、得られる情報は同じです。

・[探索者A]院内の演出イベント

探索者Aは大病を患っているため、以下のように探索中も体調の変化を描写し、プレイヤーが実感できるようにすることを推奨します。
ただしそれはさほど重篤なものではなく、彼自身も命には関わらないと感じられる程度のものに留めた方が良いでしょう。
(テストプレイの際、プレイヤーが過剰に体調を心配して身動きが取れなくなることがあったため、軽めに)

・廊下で立ちくらみを起こし、手すりに寄り掛かる。
・デイルームのテレビの映像がボヤけ、近づいても良く見えない。
・一時的に偏頭痛が起こり、看護師に休憩させられる(探索者B側の処理が忙しい時などに)。
・眠気が徐々に酷くなり、会話中に居眠りしてしまう。
・(探索終了時)ふらつきが酷くなり、その場で倒れてしまう。

6.常時得られる情報

以下の情報は、様々な箇所で手に入れることが可能です。
当シナリオは中盤に探索者が別れて行動することになるため、そのときにどちらか一方が調べものをするように仕向けると良いでしょう。
(探索者同士がそれぞれ別の人物と会話する状況が続くと、それらの人物を操るキーパーの脳が混乱し、大変なことになります)

・「命を吸う木」についての民話

院内図書館、あるいは普通の図書館に行って<図書館>をすれば入手可能です。
浅原に話しかけることで、より詳細な情報を得ることも出来ます。

(兵庫県、弥代市に伝わる民話)
はるか昔、ある地主が亡くなる間際に大きな木を植えた。
そして彼の死後、異変が起こり始めた。
家人たちが急に体が弱くなり、次々に亡くなっていったのだ。
大きな木も呼応するように枯れ始め、人々は富豪の呪いであると噂した。

困り果てた生き残りの家人は、旅の法師に相談を持ちかけた。
すると法師は、大きな木に呪いが掛けられていると断じた。
このまま放っておけば、呪いは家人全員の命を啜りとるのだと。
逃れたいのならば、呪いの触媒である葉を散らし、術式を崩壊させるしかないのだと。

それを聞いたとたん家人は家から飛び出し、最期の力を振り絞って木に登ろうとした。
だが、彼が木へしがみついたとたん、恐ろしいことが起こった。
木の根元がぼこぼこと膨れ上がったかと思うと、そこから醜悪な怪物が現れたのだ。
怪物は恐ろしい力と素早さを持ち、家人はまたたく間に殺されてしまった。
法師の手によって怪物は討たれたが、結局家人は誰一人として生き残らなかった。

さらに法師について調べた場合、彼が「堂間法師」と呼ばれる人物であると分かります。
有能だが強欲で好色、非道を厭わない人物であり、強大な霊力を自在に操っていたのだとか。
法師に関する話の特色として、この霊力で霊魂を自在に使役していたことが窺えます。
時には悪霊を成仏させ、時には取り憑かせることで脅迫の種に使い、果ては奴隷のように使役したのだと。
都に現れた悪霊を祓ったとされる大立ち回りでは、大量の霊魂を悪霊にぶつけて対消滅させ、ついに悪霊を祓ったのだとか。

・鷲見利治について

ある程度人から話を聞いてまわると、木に関わる人物として彼の名が浮かび上がるでしょう。
彼についてインターネットなどで調査した場合、不動産業者だったことが分かります。
「弥代の暴君」「辣腕の悪爺」「冷徹な地上げ屋」など不名誉な異名は枚挙にいとまがないほど。
「寝たきりの親ごと家族を強制立ち退きさせた」「一方的な都合で融資の約束を反故に」「ポストが赤いのもS氏が原因」などなど、極めて悪名高い人物だったようです。
彼には息子がいますが、会社は別人によって受け継がれているようです。
会社の方を当たることもできますが、コンタクトは極めて難しい上に、特に有益な情報は手に入らないでしょう。

重要なのは息子の方です。彼の名前は看護師たちに尋ねるか、弥代市在住の「鷲見」について調べれば手に入ります。
マイナー気味な名字であることが功を奏したのでしょう。

また、優一郎の名前を調べると、SNSアカウントがヒットし、彼は病院から少し離れた町で「白原印刷」なる会社を経営していると分かります。
ホームページには会社の電話番号も載っているので、上手く口実を工面すれば、彼と会うことが出来るでしょう。
<目星>に成功すれば、アカウントのフォロー先に会社や印刷業界に関連するものだけでなく、オカルトニュースサイトが混じっていると気づきます。
これは単に知人に勧められてフォローしたものですが、プレイヤーに「彼に対しオカルト的な話ができるかも」と思ってもらう役には立つかもしれません。

7.夜見野病院の人々

探索に有用な人名のリストは、探索者Aが事前に持っています。
基本的には彼女らをあたり情報を集めることになるでしょう。

A.琴浦佳子の情報

佳子はシナリオ当日も勤務しており、あちこちでその姿を見かけることが出来ます。
調べ物をしていると話すと、快く協力してくれるでしょう。忙しいのに。

・魂魄の木について

深い情報は持っていませんが、彼女は木の世話をしたり、周囲に造花を植えたりと色々しています。
なぜ造花なのかというと、彼女は鷲見の死後、弔いのために(看護師たちの伝言ゲームの結果、彼女は鷲見が木を植えたと思いこんでいます)木の周囲に花を植えたものの、何故かどの花もすぐに枯れてしまうそうです。
木の印象については、不思議な感じがすると語ります。一見枯れかけているものの、近づくとなんとなく力強さを感じると教えてもらえます。
彼女は中庭の鍵を所有していますが、通してくれるように頼んでも、やんわりと断られます。
対人技能や無理強いにより許可を取ることは一応可能ですが、鍵を取りに行こうとするところで他の看護師に見咎められ、結局入ることはできません。

・高田、鷲見について

高田は元院長。看護師になりたての自分にも親切で、落ちこんでいるときは励ましてくれたのだとか。
一方、働きすぎなところもあり、それを他の看護師には心配されていました。現在は故人。
引退後は「ロートルがあれこれ口出しするものじゃない」と病院には訪れなかったそうです。

鷲見は元患者。傲慢で怒りっぽいが、寂しがりで人を信じられないところもあったそうです。
他の看護師が少し距離を置く中、あれこれ世話を焼く佳子に「何が目的だ」と突っかかったことも。
この際、自分が次の日に死ぬことが分かっていたような言動をしており、佳子はそれが印象に残っているそうです。

また、彼には日記を書く習慣があったらしく、佳子は命令口調で頼まれて、コンビニでノートを買ってきたことがあるとか。
ただし、その時のノートは本人の意向により焼却されてしまったため、今から内容を探ることは不可能です。

・彼らの関係について

高田と鷲見、正反対の2人の間には、なにか他人には入れないような妙な雰囲気が漂っていたのだとか。
それが何かは分かりませんが、彼女はぼんやりと「敵意」や「恐怖」を感じたのだそうです。
どちらがどちらに、かまでは分かりませんが。

・鷲見優一郎について

あまり印象に残っていないが、優しそうな人だったと語ります。
彼女は会っていませんが、奥さんが他の看護師を捕まえて何やら愚痴攻めにしていたとも教えてもらえるでしょう。

B.松瀬寅美(長老)の情報

松瀬の病室は、当然ながら探索者Aの病室と似通った構造の部屋です。
彼女は前回の退院当日、病院の前で車にぶつかられ右足を骨折しており、ギプスをはめて寝そべっています。
入院の雰囲気を出すため、探索者Aのリハビリについて話題にしても良いでしょう。

気さくな性格の松瀬は探索者Bにも当然好意的で、快く情報を教えてくれます。
彼女も魂魄の木については知らない一方、院内の人名については詳しいです。
他の場所で情報を集めてくれば、色々と教えてくれるでしょう。

・魂魄の木について

あれは病院の設立当初から立っている、誰かが寄贈した歴史ある木なのだそうです。
中庭には入ることができません。看護師さんとか、病院の人がお世話してるのでしょう。

・[追加情報]オカルト的な詳細を話した場合

彼女には分からないものの、デイルームにいつもいる浅見さんなら知ってるかもしれない、と教えてもらえます。
アイデアINTロール成功で、デイルームに行った際に隅っこに老人がいたことを思い出せます)

・高田、鷲見について

高田は元院長。いつも優しく決して怒らない人物だったと証言します。
入院ばかりだった彼女を気遣い、彼女が今は考えられないほどに荒れていたときも、真摯に向き合ってくれたそうです。
「誰にでも善い心と悪い心がある。怒りを抑えられなかったからといって自分を恥じることはない」という言葉を今も覚えているのだとか。
ただ、常にあまりに完璧だった高田のことを、彼女は今になって「どこで悪い心をさらけ出していたのだろう」と不思議がってもいます。

鷲見は元患者。非常に怒りっぽく、自室から出てくることも無かったと証言します。
彼の入院初日に話しかけてみたものの、不運が移るだの、欠陥品のような女だの散々に罵倒されたそうです。
その上で、彼は「貴様もコンなんとかの……」とも言い掛け、誤魔化したと記憶していますが、コンなんとかが何かはハッキリと覚えてはいません。
と、上記のような関係のため、彼女は鷲見のことは詳しくは知りません。ただ、彼の息子を見かけたことがあり、正反対の性格で驚いたことがあったとか。

高田と鷲見の関係も、彼女はあまり知りません。
看護師さんなら知ってるかも、と彼女は言います。

C.大川夏菜子の情報

彼女に会いたい場合、看護師に言伝てを頼んだ上で昼休みを待つか、夕方の検診を待つ必要があります。
なお、今日の彼女はいつもよりさらに忙しなく働いています。
理由を尋ねると、恩師の奥さんに久々に会うため、時間を作りたいからだと彼女は教えてくれます。

・魂魄の木について

中庭の木については、赴任当初からあったのを知る程度です。
これにより人体に悪影響などが出ていないかと聞いても、そういうデータは無いと彼女は証言します。
木の呪いは、それほどまでに弱々しい効力しか及ぼさないのです。

・高田、鷲見について

高田は元院長であり、彼女の師匠です。医師としての心構えも授けてくれた。
「常に心を砕き、患者に寄り添いなさい。強い言葉や態度で人を傷つけ、それで誰よりも傷ついているのは患者自身なのだから」と。

鷲見は元患者。入院時点で病が進行しており、手術でどうにかなるレベルでは無かったようです。
事実、彼は一週間も持たずに亡くなりました。
ただ、彼と接した大川は妙な印象を受けたと語ります。
苛立ち怒って他人を遠ざける一方で、何か達観しているような、自身の死を絶対と捉えていないような雰囲気があったのだとか。

・高田と鷲見の関係について

高田と鷲見の間に妙な雰囲気があったことは、彼女も感じています。
ただ、それについて高田に尋ねようとした時、声を荒げて遮られたのだそうです。
彼女は長年高田と接していましたが、怒りの色が見えたのはそれが初めてなのだとか。
それがどうしてかは気になっていたものの、あまり突っ込むのも僭越だと思い、最期まで知ることはありませんでした。

E.看護師たちの情報

一般の看護師たちが持っている情報です。

・魂魄の木について

彼女らは魂魄の木については知らないものの、中庭の木については知っています。
今でこそ枯れかけの木ですが、昔は悠然とした佇まいで心を落ち着かせてくれたのだそうです。
しかし、この木を植えたのが誰なのかは釈然としません。
看護師たちは、病院の設立に携わった匿名の出資者がその本人だと考えています。
彼は病院の建設に掛かる多額の費用を負担してくれたのだそうです。
しかしそれほど大口の寄付をしたにも関わらず、資料にもその名は残されていません。

探索者たちが興味を示すと、彼女らの1人が候補として「鷲見利治」という人物の名をあげます。
しかし……他の看護師はそれに対し懐疑的な反応を見せます。
鷲見は3年前に入院していた富豪の患者で、現在は故人です。しかし性格に難があり、彼が慈善のために寄付をしたなどと言うのは考えられないと、看護師たちはオブラートでがんじがらめにしながら教えてくれます。
(仮にも患者を、それも故人を悪く言わないようにしているのです)

気になるのは、尊敬されていた高田元院長と何かしらの因縁があるようだったことです。
看護師たちは、院長先生が病院を建てるために、彼に借金をしたのではないか、と考えています。
彼女らは姦しく(探索者が割って入れぬほどに)、借金なら借金で建てたと言えばいい、名目上寄付にしたのは何故だ、きっと表沙汰にできない事情があったのだろう、例えば元院長の腕を見込んで、違法な手術をさせたとか……
そんな風に話題が逸れたところで、看護師たちの内側から自制の声が上がり、話はここで中断されます。

鷲見についてもっと聞きたいと言うと、彼に多く関わったという看護師「琴浦佳子」を紹介されます。

・高田、鷲見について

高田は元院長です。探索者Aにも彼との面識はあるでしょう。
勤勉で誠実、品行方正な人物であり、気配りの行き届く、誰からも慕われる人物だったそうです。
一方、働きすぎで自分を顧みないこともあり、看護師たちには心配もされていたのだとか。
引退後は「ロートルがあれこれ口出しするものじゃない」と病院には訪れなかったそうです。

探索者が彼の現状を尋ねると、看護師たちは辛そうに「ご自宅で亡くなられた」と教えてくれます。
その悲しそうな姿は、彼がどれだけ慕われていたのかを何よりも雄弁に伝えてくれるでしょう。

鷲見については、前述のような印象を抱いているようです。

・鷲見優一郎について

探索者たちが優一郎について尋ねた場合、あまり印象に残っていないと分かります。
一方、息子さんの奥さんについては記憶に新しく、利治への愚痴をたっぷり30分はこぼされたと教えてもらえます。
「よほど誰かに聞いてほしかったんでしょうね。分かるわ、その気持ち」と熟年の看護師は語ります。
何か思うところがあるようです。少なくともシナリオにまったく関係のないところで。

F.浅原一人の情報

魂魄の木について長老に尋ね、オカルト話だと打ち明けた場合、彼の名を教えてもらえます。
そうでない場合、この偏屈な老人と関わる機会は無いでしょう。
彼は魂魄の木について、常時調べられる情報以上のことを教えてくれます。
ただ、それには少なからず探索者たちが興味を持っている=魂魄の木についての情報を持っている必要があります。

・魂魄の木について

この地域に伝わるマイナーな物語である。
数回「教育的に正しく」なるよう改変が加えられ、そのバージョンは図書館にも置かれている。
そこまでは調べたと話すと、浅原は「インターネットの野郎には到底載っていないだろう情報」と前置きした上で以下のことを教えてくれます。

旅の法師は堂間法師と呼ばれる人物であり、霊を操る術に長けていた。
木の呪いの真の目的は、命を取り込むことによる蘇生だった。
怪物の正体は地主であり、不完全な状態で……今風にいわば『ゾンビ』となって……木への攻撃を阻止しようとしたのだ。
堂間法師は容赦なく彼を殲滅した。屋敷にこびりつく霊、すなわち家人の霊を無理やり呼び出し、怪物へと特攻させたのだ。
怪物を動かす生の力に対し、法師は家人の霊という死の力をぶつけた。相反するエネルギーは対消滅を起こし、怪物は大きく弱体化した。
それでも脅威は残ったが、場数を踏んでいた法師が上回ったというわけだ。

霊について尋ねると、浅原は「儂が血と汗と足で稼いだ真の価値がある情報」と前置きした上で以下のように教えてくれます。
外界から隔離された地、人気が少なくなる夜。呪いや怨恨などの曰くがある場所に霊は現れる。
霊に会いたくないのなら、決して恐れを表に出さず、その名も呼ばないことだ。
強い感情は霊の力の源であり、生者が名を呼べば因縁が生まれ、霊が姿を現わすだろう、と。

探索者たちが法師の術を使いたい、といった場合、10~20年は修行をしなければ無理、と言われます。
意思に反して無理やり何かをさせるのは、相当高度な術なのだそうです。
ただ、浅原はそもそもそんな術を身に着けてどうする、と尋ねます。
初対面の自分に話を聞かせてもらうにも術が必要だったのか? と。
霊には意思がある。それを尊重すれば願いを聞いてくれるのではないか? と。

彼の話に対し好意的な反応を取った場合、気を良くした彼は「薀蓄」も教えてくれます。
原点には誤植があって、幽霊となった家人の名が並べられていた箇所に、死んだ金持ちの名も記されていたのだとか。
魂魄の木が死者を蘇らせるのなら、それは金持ちであることが自然でしょう。
それならば、金持ちのゾンビと霊が同時に存在することになってしまう。それは妙な話だと。
この話は実際は、現実に起きている……「鷲見の死体と鷲見の魂が別個に存在している」事実に繋がります。

8.院外の調査

院外の情報は、探索者Bしか得ることが出来ません。
このことは予めプレイヤーにも伝えておき、互いに役割分担してもらいながら進行すると良いでしょう。
院内の調査も2人居た方が効率的に進められますが、あまりに滞在が長いと逆に不利になってしまいます。
調査場所は主に白原印刷となります……というかそれがほぼ全てです。
探索者が望むなら、図書館などに行っても構いませんが、情報量は院内図書館と差はありません。

A.白原印刷での出会い

白原印刷は、夜見野病院から電車で3駅ほど離れた「菜々潟」駅に行き、そこから古めの家屋が立ち並んだ狭い路地を20分ほど歩けばたどり着くことが出来ます。
外観は平たく言えば、田舎の中小企業といった風情です。1階は駐車場となっており、印刷物を運搬する車が並んでいるのが外からでも見えます。
2階以降がオフィスや作業場となっていますが、きちんとアポイントを取っていなければ入ることは出来ません。
電話やSNSアカウントから連絡したり、直接出向いて交渉したり、と連絡方法は様々です。
社長の優一郎は人の良さから、社会科見学や興味があったなどの理由でも会ってくれますが、
深く突っ込んだ話を聞くには、「魂魄の木」や「利治に興味がある」といった事柄を伝えなければなりません。

・優一郎への対人技能

話を先に進めるには「魂魄の木(または魂魄)」という単語を口に出すか、<信用>ロールの成功が必要です。
成功した場合、優一郎は勝手に父の言っていた魂魄の使者と勘違いし、話を進めてくれます。
それを否定しても、優一郎はその正直さを気に入ったといい、便宜を図ってくれます。

日記を手に入れるためには、<言いくるめ><魅惑>(肉体的な魅力ではなく、情に訴えかけるような使いみちです)ないし<説得>の成功が必要です。
どうしても必要、というものではありませんが、持っていると心強いものではあるでしょう。
ですがこのロールは、探索者が1人しかいないため、失敗のリカバリーが難しくなっています。
キーパーはプレイヤーが望むなら、新たな証拠を提示することで再度ロール出来ることにしても良いでしょう。
優一郎は父を良く理解しており、その行いが他人を害する可能性がある、と理解しています。
そのため、事実が分からないことで苦しむ人がいる、好奇心だけで動いているわけではない、と信じてもらえれば、協力を得ることができるでしょう。

・謎の男について

優一郎は父の見舞いに行った際、「『魂魄の木』という暗号を知る人間が来れば便宜を図ってやれ」と言付かっています。
探索者が「魂魄の木」という単語を出せば協力してくれるのは、そのためです。
ただし、彼はそれを探索者に伝えた際、「もっとも僕は別の人だと思ってたんだけど……」と漏らします。

奇妙な言動に対し突っ込むと、彼は父の病室に訪れていた謎の男性の話をしてくれます。
見た目は長髪の若い男性だったものの、どこか異様な雰囲気を漂わせ、彼の周囲だけ空気が淀んでいるようにも見えた……のだそうです。
彼は優一郎と入れ違いに病室を出たため、話をすることは出来ませんでした。
が、別れ際に利治へ「面白い運勢の奴がいる。とびきり不幸な奴がね。会ってくるよ」とか言っていたそうです。
……面白い運勢とは、ひっきりなしに入院する女性、松瀬寅美のことを指しています。
院内にいる探索者Aにこのことを伝えれば、探索先を広げることが出来るかもしれません。

・高田と利治について

優一郎は高田に対しては、少し話した程度の仲に過ぎません。
ですが、彼の奇妙な言動が今も脳裏にこびり付いているようです。
会話の際、少し無理のある流れで彼はこう尋ねたのだそうです。
「鷲見さんは、お母さんがいないそうですね。でも、幸せだったでしょう?」
幸せだったと正直に答えると、高田は安堵した様子だったそうです。

2人の間に何かあったのか、と尋ねても優一郎はそれ以上のことは知りません。

利治については他の人間(特に妻)とは違い、少し同情している面があります。

・利治の日記

利治の日記は事態の確信に関わる重要な品です。
琴浦と話ができていれば、これの存在に感づけるでしょう。

見せてくれることになった場合、優一郎は自宅へとそれを取りに行きます。
探索者は同行しても構いませんが、特にメリットはありません。

彼の日記には、魂魄の呪術について記載されています。
そして高田と利治をつなぐ女性、君枝の情報も記載されています。
日記の日付けは飛び飛びで、内容の濃淡にも差が大きく出ています。
1週間のうち4、5日書かれていることもあれば、1年間何も書かれていないこともあるなど、当人の備忘録といった意味合いが強いのでしょう。

@28年前のこと
「ようやくあの女を見つけ出した。無論、高田と一緒だった」
「尊敬を集めるお医者さまとは、随分立派な暮らしをしていたものよ。寝取り男が聖人面とは笑わせる」
「だがまあ、良い。奴にはあの女の本性を暴いた功績もある」
「せいぜい利用させてもらうとしよう」

@3年ほど前のこと
「そろそろ寿命の時期が来た。あの男の言葉どおりなら、私の死は2週間後のことだろう」
「面倒だが、そろそろ計画を実行に移さねばならないだろう。用意は十分だ」
「奴は所詮、私の思い通りだ。いくらでも言うことを聞く」
「名誉とやらを失うのが、それほどまでに恐ろしいか。哀れなものだ」

@翌日
「計画に必要なのは、あの魔術師より買った液体と、私の骨の粉」
「あとはこの体が朽ちたのち、高田に骨粉と共に埋めさせればよい」
「そうすれば、あの木は魂魄の木へと生まれ変わり、私もいずれ蘇る」
「魂魄の木はゆるやかに生気を吸い上げ、私は往年の覇気を取り戻すのだ」
「実に素晴らしい。歓迎すべき結果だ。だから一時的な死を恐れることはない。恐れることはないのだ」

最後の方の文字は、少しだけ震えていた。

9.謎の男の足跡

時間的に、探索者Aがこの情報を追うことになるでしょう。
彼については松瀬に尋ねるのが1番早いですが、看護師の1人も「松瀬さんの病室に乗り込んだイケメンセールスマンを叩き出した」と記憶しています。
これについて松瀬に尋ねれば、彼女は3年前に出会った不審な男のことを教えてくれます。

髪が長くって顔もかっこいいけど、どうしようもなく胡散臭い。
お金とか自分のためなら何だってしそうな、到底信用出来ない雰囲気の持ち主。
……というのが(概ね的確な)松瀬の彼に対する評価です。

男は「その捻じくれに捻じくれた運勢を変える手段があるよ。魔術の力が」などと語りかけてきたものの、
松瀬は「痛い人」と断じてまったく取り合わず、説明途中で看護師に見つかり放り出されてしまったそうです。
彼は痕跡として名刺を残していました。松瀬はそれをスマホで撮影しており、探索者が頼めば(若干遡るのに手間取りながらも)見せてくれます。

名刺には「あなたに必要なもの、なんでもご用意いたします。貰えるものさえ貰えれば」という文章。
そして異様に長いランダムな英数字の列……間に「@」が入っていなければ意味不明な文章と解釈してしまいそうなメールアドレスだけが記載されており、
名刺と呼ぶことすら躊躇われるほどに胡散臭さを漂わせています。
そもそも名前すら載っていないのです……ただしそこに込められた力は間違いなく本物です。
頑張ってアドレスを入力し送信すると、エラーメッセージが返信されてくるのですが……
直後、すぐ側に誰かの気配を感じるとともに、耳元で囁くような若い男の声が響きます。
「0時に。君の病室で。お友達も一緒にね。……大丈夫、間に合うよ」……と。
無論、振り向いてもそこには誰もいません。

10.余暇の過ごし方

ここまでの情報を追っていれば、プレイヤーは生還のための情報への道を把握しているでしょう。
彼らがすべきことは、魔術師と接触し、魂魄の木を取り除くための手段を得ることです。
ですが、そのためには0時まで院内に留まらなければなりません。
ここまでの探索が終了し、君枝と会う約束が取り付けられていない、または時間を使いすぎた場合は、ここで探索者Aが過労によって倒れてしまい、病室へ強制的に送り戻されます。
それらの条件がクリア出来ていれば、次項の会話が終了した後に探索者Aは倒れてしまいます。
探索者Bは看護師や大川と交渉して起きるまで見守ること(結局0時まで居座るのですが……)を許可してもらうか、こっそり病室に忍び込んで0時まで待機する必要があります。

前者の場合、看護師は探索者Aに心労が掛からないよう、探索者Bを帰らせようとします。
一方、大川はリスクは承知の上で、生きる気力を取り戻させるためにも、探索者Bをなるべく側に居させてあげた方がいいと出張します。
2人の意見は対立しますが、探索者Aの身を案じているのは同じです。
<信用>や<説得>で彼女らを説得することが可能です。

後者の場合、DEX*5で看護師たちの目を避けて忍び込むか、松瀬や浅原に協力を仰ぎ、そちらの病室に隠れることになります。
その場合は、やはり<信用>や<説得>が必要となるでしょう。ただし、こちらは<言いくるめ>でも行うことが可能です。

11.君枝の追憶

大川と約束していれば、または彼女が夕方誰かと会う約束をしていると聞いており、その後を追えば、彼女らの会話に同席することが可能です。
(探索者Aが倒れていた場合は、大川は約束を取りやめます)
院内にある喫茶店が彼女らの約束の場所です。普段はすでに営業を終了しているのですが、大川の友人である支配人が特別に店を開けてくれています。
君枝は探索者たちが同席することに戸惑うものの、探索者Aが患者だと分かると落ち着きます。高田を、つまりは自分を称賛しに来たのではないかと考えたのです。
ただし彼女は、探索者たちが鷲見と高田との関係に感づいていると分かると、大川を退席させます。
自分の虚像が維持できないことを嫌がっているのです。

大川がいなくなると、君枝は終始落ち着いた様子で探索者たちの疑問へ答えます。

・鷲見と高田との関係

君枝は鷲見と結婚し、優一郎を出産。その後に高田と逃亡しました。
が、鷲見は執念深く彼女の居場所を探り当てます。
連れ戻してくれるのか、と彼女は期待したのですが、彼は不可解な行動に出ます。
匿名で多額の出資をして病院を設立し、その院長に高田を任命したのです。
そして君枝に関しては、もはや興味を失っていたとのこと。

彼はそのころ既に魔術師と会い、魂魄の秘儀を手に入れていました。
自身が永遠の命を得るための準備として、そのような行動に及んだのです。

・鷲見との関係

「他人を信じられない、心の弱い人」
それが彼女の鷲見への評価でした。
2人は不動産会社の社長と社員という関係でしたが、誰からも恐れられる鷲見に君枝が優しく接し続けたことで好意を持たれ、最終的に結婚に至ります。
君枝は鷲見が自分を誰よりも強く求め、愛してくれるという点に惹かれました。
しかし鷲見は、婚姻関係を結んだことで関係が永続的になったと考えたのか、徐々に彼女を蔑ろにするようになります。
彼女は満たされない欲望のはけ口として、息子の優一郎を猫可愛がりするようになりました。
が、彼が寛子と仲良くなり、自分の元から巣立ち始めるのを感じると、彼への興味も薄れていくことになります。
その時に出会ったのが、彼女の主治医だった高田でした。

・高田との関係

彼女は優一郎が9歳の時、彼らを捨てて高田の元へ行きました。
それはただ、自分を満足させてくれなかったから、という利己的な動機に過ぎません。
しかし彼女にとっては、自分の存在意義を左右する、他の何よりも重要なことだったのです。

しかし、逃亡先で分かったことは、高田は彼女の理想の人物では無かったことでした。
高田はむしろ、彼女の鏡のようでした。自分を愛し、必要としてくれることだけを求め、そうでないと分かれば簡単に見捨ててしまう、利己的で弱い、愚かな人間。
彼女らの表向きの振る舞いは、自分が他人に求めることの裏返しでした。だからこそ彼らは互いの仮面に恋し、極めて強く惹かれ合ったのです。
高田もすぐにそれを理解します。そして、今や彼女は「不倫」という自身の弱みを握る唯一の人間であることにも。

高田には、君枝が逃げるはずがないことが分かっていました。
けれども彼女を信じきれるほどの強さもありませんでした。
次第に高田は、苛立ちをぶつけ、虐げ続けることで、彼女が逃げられないことを再確認するようになりました。
君枝が長い袖をまくると、そこには複数の切り傷の痕や打撲痕、やけどの痕が残されていました。
完璧に処置をしても、なお消えることのない傷の跡が。

ですが彼女は、高田の罪を告発する気はさらさら無いと言います。
名誉ある偉大な医師を甲斐甲斐しく支え続けた優しい妻。理想の夫婦。
憐れまれるなど以ての外。誰もに羨まれる理想的な未亡人でありたいと思っているのです。
探索者たちの疑問に答えたのは、そう強く求められたからに過ぎません。

・高田の遺言

高田の真実の姿に戸惑っていると、君枝は彼の遺言を教えてくれます。
「鷲見は、約束を……守られたのか……私の名、誉、は」
うわ言のようにつぶやく彼は、君枝が頷いたのを見ると、満足したように息を引き取ったそうです。
最期の瞬間まで自分が他人にどう見られているか、それしか頭に無かったのだと、彼女は自嘲げに言います。
魂魄の木が残り、患者たちの命を吸い上げていると知っていながらも、彼は悔いを遺さなかった。その意図は明白です。

12.魔術師との邂逅

倒れていた探索者Aは、23時半ごろになると目覚めます。
その10分後、2人が情報を共有していると、足音が近づいてくるのが聞こえます。
現れたのは大川です。疲れた様子の彼女は、探索者たちに静かに語りかけます。
(隠れていたり、寝たフリをしている場合も同様に語りかけます)

2人が院内を歩き回っていると聞いた時、純粋に嬉しかったということ。
本来はそれが当たり前なのに、自分が治してあげられないせいで出来なかったことを申し訳なく思っていること。
高田のような立派な医師ならば、探索者Aを治してあげられたかもしれない、と未熟さを悔いていること。
そして機会さえあれば、探索者Aに生きる力が戻りさえすれば、必ず手術を行い、助けてみせるという決意を。

それだけ伝えると、大川は去っていきます。
(必須ではないため、進行が押していればカットしてしまっても構わないイベントです)

魔術師が現れるのは、その数十分後の午前0時。
部屋中の電子機器から雑音が響き、動作不能となると、いつの間にか長髪の若い男が病室に現れます。
彼が「名刺を渡した覚えがない」と笑いながらカーテンを開くと、月が真っ赤に染まっています。
明らかに日常とは異質な空間にいると察し、異常な体験をした探索者たちは正気度を<1/1d3>喪失します。

彼はまるで罪悪感など覚えていないかのように、探索者たちの魂魄の木に対する疑問に答えます。
多額の金と引き換えに、鷲見に魂魄の秘儀を売ったこと。彼が自らの蘇生のためだけにこの病院を用意したこと。
それらのほとんどは、探索者がこれまで得た情報の再確認に終わるでしょう。
……しかし、探索者が「そのせいで探索者Aの命が奪われそうになっている」と話すと、彼はとても聴き逃がせないことを語ります。
探索者Aの死の原因は、魂魄の木ではないと言い出すのです。

確かに魂魄の木は、死者を蘇生するという超常的な効力を持つ魔術です。
しかし彼が用いるそれは、伝承の中のものとは大きく異なっていたのです。

堂間法師が対峙した『魂魄の木』のように、家人を次々と病に走らせ、強引に命を奪う……
そんな木の噂が広まれば、どうなるでしょう? 大半の野次馬は恐れ、楽しむに留まりますが、現代においてもなお存在する、霊力を持つ人間が聞きつけてしまえば、そこで終わりです。
情報化が進んだ現代社会では、そのような魔術を使用するのはリスクが高すぎるのです。
だから発見の可能性を減らすためにも、魔術師は魂魄の木を改良します。広く浅く。細く長く。
吸い上げる生命力の総量が変わらずとも、1人1人への影響が誤差の範囲にとどまれば……まして病人の集まる施設であれば……多少の体調不良者が出ようが、大した騒ぎを起こすことはないのです。

そしてそれは、残酷な事実を意味していました。
魂魄の木をなくせば、探索者Aの命は救われる。その前提が破綻してしまうのです。
そもそも魂魄の木は彼の命を脅かしてなどいない。彼の死は単なる自然の摂理に過ぎないのだと。

しかし魔術師は言います。それは智慧がないゆえの結論だと。
彼の持つ魔具があれば、この状況下でも解決策を見出だせると。
彼は3つの小瓶を取り出します。その1つは異星の蛾の鱗粉。これを彼は無償で譲ってくれます。
この粉を飲めば、他者から存在を感知されにくくなる。
中庭へ忍び込んで騒ぎを起こそうとも、普通の人間に邪魔はされなくなるだろうと。

そして残る2つは、異星の林檎の樹液です。
薄っすらと茶褐色を帯びたそれは、生命力を蓄える性質を持っています。
魂魄の木は、その葉を媒介に生命力を吸い集め、溜まり切った時に根に生命力を流し込み、葉が抜け落ちるという性質を持っています。 この葉が不正に抜き取られた場合、蓄えた生命力はすぐに霧散してしまいます。しかしこの小瓶に入れれば、生命力が霧散する前に保持することが出来ます。
それを探索者Aに飲ませれば、少なからず寿命を延ばせるだろうというのです。
さらに、これを魂魄の木の力で動く屍鬼に振りかければ、人間で言うと血液が凝固するような作用を引き起こし、身体機能をしばらく(3ラウンドほど)麻痺させることが可能なのだそうです。
あとは探索者Bが木に登って、葉を抜くことで鷲見を始末し、小瓶に入れたそれを地上の探索者Aに飲ませるだけだと彼は言います。

しかし当然ながら、彼はそれをタダでは渡してくれません。
対価として求めたのは、探索者Bの未来。そのために必要な才能です。
そしてそれを対価としても、伸ばせる寿命は10年だけ。
魔術師によれば「ありがちな例えだけど、穴の開いたバケツに水を入れるようなもの」だと言います。
彼の提案を飲む場合、夢に必要な技能値(探索者のプロフィールに記載されているもの)を合計50差し出さなければなりません。

ただ、彼は明示しないものの、探索者たちはより困難な道を進むことも可能です。
すなわち樹液を使うことなく、探索者Aが弱った体にムチを打ち木に登り、葉をちぎってすぐに飲み込むという荒業を取るのです。
その場合、彼は憮然としながらも、手出しはせずに去っていきます。
その様子はどこか嬉しそうにも見えますが、その意味は彼以外には分かることのないことでしょう。

いずれにせよ、魔術師は取引が済むと去っていきます。

13.中庭の決戦

中庭に入るための鍵は、件の小瓶を使えばナースステーションから簡単に回収することが出来ます。
中へ入ると、木の根元がぼこぼこと音を立てて膨れ上がり、そこから醜悪な姿をした屍鬼が現れます。
老いた顔と子供の顔を継ぎ接ぎして作り出したような奇怪な顔立ち。右目の下は筋繊維がむき出しになり、喉元はごっそりと肉が抉られており、太い血管のような食道が丸見えになっています。
そして何より……心臓部に大穴の空いたそれは、日常の世界には有り得べからざる怪物です。
探索者たちは魂魄の屍鬼との遭遇により、正気度を<1/1d8>喪失します。

屍鬼は探索者たちへの殺意をむき出しにし、食い殺すために襲いかかろうとします。
この時、適当な情報を集めていれば、この場で夢の老人の魂を呼び出すため、名を呼ぶことが可能です。
この際、候補となるのは鷲見か高田、どちらか1人でしょう。
どちらの名を呼ぶにせよ、自らと関わりの深い名が呼ばれたことに反応し、屍鬼は一旦その場で行動を止めます。

鷲見の名を呼ぶことができれば、鷲見の魂が薄っすらとした半透明の姿で現れ、自身の体と相対します。
彼は自身を「鷲見利治の良心」と説き、体へ愚かな行いを止めるように諭します。
無論、彼が聞き入れることはありません。「言うに事欠いて、良心とは」と笑うと、魂を無視して探索者たちに襲いかかろうとします。
すると魂は「やはり耳を持たんか」と零すと、探索者たちにせめてもの償いに助力すると告げ、肉体と衝突します。
交錯の瞬間、青白い閃光が中庭に満たされたかと思うと、そこには荒く呼吸する肉体だけが残されます。
彼は大きく弱体化しており、探索者たちが付け入る隙を生み出します。

高田を呼んでしまった場合、彼は事態の隠蔽のために屍鬼へ力を貸すことになります。
ただ、彼もまた肉体を失ったことで恐怖心が少なからず麻痺しています。<説得>ロールに成功すれば、思いとどまってくれるでしょう。
味方になってもくれず、そのまま消えてしまいますが。

いずれにせよ、探索者たちは一方が屍鬼の注意を引き、もう一方が木に登ることになるでしょう。

屍鬼は理性が弱く、短絡的な怒りによって簡単に誘導することが可能です。
その場合、「探索者の<登攀>→屍鬼の攻撃→もう一方の探索者の<回避>」という形でループすることになるでしょう。
この際、探索者Aが<登攀>を行う場合は、リハビリが功を奏したのか、それとも死を目前にして火事場の馬鹿力が出たのか、ロール後に10%づつ、本来の技能値と同値まで成功率に補正が掛かります。
<登攀>に成功し、葉を引きちぎることができればエンディングへ移行します。

異星の林檎の樹液を手に入れていれば、話はより楽に進めることが可能です。
<DEX*5>の判定に成功すれば、樹液を手のひらに取り、屍鬼に振りかけることが可能です。
たとえ少量でも樹液が体にかかれば、屍鬼は一時的に動きを止めます。
その後に残りの樹液をぶち撒ければ、3ラウンドの間、屍鬼の動きを止め続けられます。

こちらの場合も、どちらかが<登攀>に成功し、葉を引きちぎればエンディングへ移行します。

・魂魄の屍鬼のステータス

STR:28(12) DEX:23(7) INT:6
CON:35(11) POW:28(10) EDU:22
SIZ:15
STR:140(60) DEX:115(35) INT:30
CON:165(55) POW:140(50) EDU:94
SIZ:75 MOV:9(7) D B:+2d6(+1d4) ビルド:3(1)

()内のステータスは、鷲見の魂による弱体化が成功した場合。
魂魄の屍鬼は1ラウンドに2回の攻撃を行うことが出来るが、その能力も失われる。
高田が彼に協力した場合、屍鬼の攻撃回数は3回となる。

[攻撃手段]
噛みつき:85%、1d4ダメージ+@

@以降、1ラウンドごとに出血による1ダメージを受ける。
 この効果は重複せず、<応急手当><医学>を行う(成功、失敗を問わない)、または戦闘が終了すれば効果を失う。

[備考]
魂魄の木により生気を得た、動く死体(屍鬼)。
復活の直前は多大な生気が集まっているため、一時的な興奮状態に陥っており、判断力が鈍くなっている。
鷲見の性格上、この欠点は平時にはあまり現れないが、戦闘に入ると異常な攻撃性が顕となる。
探索者たちは回避に専念を宣言することで、そのラウンドの間2回の回避を行うことが出来る。
ただし、1度しか攻撃が発生しないことが明らかである場合、それは<回避>に+20の補正を掛ける(上限は95)ことで行われる。

14.エンディング

葉を引きちぎると、屍鬼は崩れ落ちます。
そして苦しみ悶えると、青白い光とともに鷲見の魂が現れます。
探索者たちが彼と出会っていない場合は、彼は自身が夢を通じて呼んだのだと説明します。

魂は屍鬼を諭そうとします。自分はもう死んだ人間なのだ。
静かに逝くのが正しい終わり方なのだ。肉体を失ってようやく、そのことに気づけたのだ、と。
しかし屍鬼は魂を糾弾します。それはただの綺麗事だ。お前は気づいてなどいない。
肉体を失ったことで生きることへの執着を失い、優先順位が変わっただけなのだ。
自分は肉体の。お前は精神の充足を求め、こいつらを良いように利用しただけなのだ、と。

屍鬼の顔はぐずぐずと崩れ去り、肉体は急速に風化していきます。
やがて子供の顔だけが残ると、彼は崩れかけた指先を月へと伸ばそうとし、呟きます。
「いやだ、僕はまだ何も手に入れていない」……と。
そしてそれすらも塵へと変わり、造花の上に降り積もると、風に飛ばされて消え失せます。

屍鬼の消滅後も、魂は残ります。
彼は最期に肉体が投げかけた言葉を気に病んでいるようです。
善意を持てたなどと思うのは、おこがましいことだったのか、と。
それに対し探索者たちがどう答えるのかは自由です。
最終的に魂は、探索者や自分が不幸にしてしまった人々、そして誰かの幸せを祈る言葉をつぶやこうとして、消滅していきます。

……翌日。正午、探索者Aの病室で2人と大川は話をしていました。
大川は次のように語ります。体調が急激に改善したこと。そして様子見はいるが、この体力なら手術を受けられる可能性があること。
ただし術後の経過は辛く、険しいものになるだろう。それでも手術を受けてくれるか、と。
それに対し探索者が答えたところで、シナリオは終了します。
探索者たちは1d6ポイントの正気度に加え、鷲見の幽霊を呼び出せていれば、+2ポイントを固定で獲得します。

・結びのポエム

魂魄の木にまつわる事件は、こうして幕を下ろした。
今はもう中庭にあるのは、ただの枯れた木にすぎない。
その裏にあった闇に思いを馳せるものは、もうほとんど残っていない。
調査の果てに、君たちがたどり着いた、救いを求め続けた老人たちの真実。
それは多くの人にとっては顧みることのない事柄に過ぎない。
鷲見は純粋な悪党であり、高田は高潔な医師であり、君枝は献身的な妻である。
表層的な理解こそが大多数にとっての真実で、そこには内面の善意も悪意も関わりはしない。
彼らの生み出した結果だけが全てであり、そこに基づいて世界は回っていくのだ。

それは君たちが戦いの果てに掴み取った希望……最後の一葉も同じだ。
不可能だった手術を可能にした、生命力の漲る木の葉。
それは看護師たちや大川のような、人の命を救いたいという純粋な願いから生まれたものではない。
一人の老人の無様な足掻きが生み出した、惨めな悪意の産物なのだから。

15.終わりに

相当久しぶりに書いたシナリオです。
コンセプトは2人がそれぞれ別行動するシナリオ……だったのです。
だったのですが。最終的に中盤長めの別行動をする、くらいに落ち着きました。
やはり実際にやってみると、キーパーの負担がすごく大きかったのです。
また、プレイヤー側も情報量が多いため、しっかり情報を共有できるよう、メモなどを用意しておくと良いでしょう。
何かありましたら、twitterやweb拍手からお送りください。