基本的に物置き

不思議の国のショゴス

0.はじめに

このシナリオは「クトゥルフ神話TRPG」第六版に対応したものです。
シナリオの舞台は、どこだか分からない不思議の国。
それゆえ、導入に探索者同士の関係性は必要ないでしょう。
プレイ想定時間は、オンラインセッションで8~10時間ほど。オフラインは未想定です。
ただ、高難易度で運用する場合は、時間を多めに取ったほうが良いでしょう。
『集めた情報から、何を推理するか?』が主目的のシナリオとなっております。

全体的に自由度は低め。紫苑の存在もあり、誘導はかなり容易です。
逆に難易度は非常に高めであり、大惨事が起こりやすいシナリオとなっています。
描写の量を増減させることで大幅に難易度が変わるため、KPのお好みに応じて調整すると良いでしょう。

1.あらすじ

ある日、君は不思議な生き物を見かける。
それはなんと、メイド服を着て二足歩行するウサギだった。
君が追いかけると、ウサギはこちらをからかうように、ほぼ同じ速度で逃げていく。
そして夢中になって追いかけてる内に、足元にあった穴に落下してしまう。
落下している間に、徐々に意識が遠くなっていき……

目を覚ますと、そこは見知らぬ喫茶店だった。
おまけに、穴に落ちた筈の自分は、4人掛けテーブルの椅子に行儀よく腰掛けている。
目の前には同じ境遇と思わしき3人の男女(他の探索者)。
ここはどこか? 何故椅子に座っているのか? どうすれば脱出出来るのか?
何はともあれ、まずは情報を集めなければならないだろう……

2.シナリオの背景

事の発端は、とある真面目な医者と、その家族からでした。
真面目な医者の「望月 雄二(もちづき ゆうじ)」は、ある現実に絶望していました。
現代医学に精通した彼でも治せない病気が存在していること。
その病気に罹患し、亡くなったのが妻の「叶絵(かなえ)」であったこと。
そして、現在は……娘の「紫苑(しおん)」が、その病気に罹っていることに。

紫苑が8歳のころ、叶絵は数ヶ月の闘病の甲斐なく死亡しました。
その2年後……紫苑に遺伝していた病気が、その牙を剥きはじめます。
愛する妻を奪われ、娘さえも失いかねない事態となった雄二は、何も出来ない自分に、ただ絶望していました。

そんな彼に目をつけたのは「這いよる混沌」と呼ばれる邪神、ニャルラトテップでした。
「外なる神」と呼ばれる存在のメッセンジャーである彼は、その任務の合間に人間を破滅に追い込む娯楽を愉しんでいたのです。
彼は偶然雄二の事情を知ると、(少なくとも、彼にとっては)非常に愉快な計画を思いつきます。
それは「雄二の行動により、紫苑を殺害させる」というもの。
最愛の娘……唯一残された家族を救おうとする、藁にもすがる思いの父親。
その彼の行動が娘を絶望の淵に追いつめ、そして殺してしまう。
その時、彼はどんな顔をするのだろう? どんな声を上げてくれるのだろう?

ニャルラトテップはやがて、治療法を探し求めていた雄二に接触します。
そして現代医学を、何よりも何も出来ない自身を責め続けていた彼に、甘い言葉で語りかけました。
「人間の医学では娘さんを救うことは出来ない。では、『人間以外』の医学ならどうでしょう?」
「馬鹿馬鹿しいと思われるやもしれませんが……」
「この本に載っているのは、かつて地上を支配していた『古きもの』と呼ばれるものたち」
「その智慧を引き継ぐものを召喚する方法です」
「彼らから話を聞きだすことが出来れば……あるいは」
唐突にもたらされた、あまりにも信じがたい情報。
しかし雄二はそれを受け入れ、『智慧を引き継ぐもの』を喚び出すための計画を、実行に移すことを決めてしまいます。

それから数日後のこと。
紫苑の状態は、刻一刻と悪い方へと変化していました。
腕は凍えたように震え、足は棒きれのように動かず。
大事に抱えていたはずの記憶さえ、日をまたぐごとにどこかに消え落として。

……最早、一刻の猶予も無い。
こうして本の解読に挑んでいる最中にも、紫苑は苦しみ続けている。
いつ命を落としても、おかしくはない。
焦りを抱えつつ、雄二は懸命に解読を続け……やがて、《ショゴスの召喚》と《従属》の呪文を発見します。
そして即座に、呪文を使って《ショゴス》を喚び出すことを決意しました。

雄二は自室のベッドの上の紫苑に「もうすぐ治してあげる」と告げると、
三階の一室に万が一のための鍵を掛け、閉じこもり……《ショゴスの召喚》の呪文を詠唱しました。

……ですが、その呪文には大きな罠が隠されていました。
この呪文に成功すれば、確かにショゴスを喚び出す事が出来る。
しかし……その代償として、術者は全ての精神力を捧げなければならなかったのです。
力を使い果たし気絶した雄二は、ショゴスへの《従属》の呪文を掛ける間もなく、
召喚したショゴスに全身の骨を折り砕かれ、体内に取り込まれて命を落としました。

雄二を取り込んだ後、屋敷を徘徊するショゴスはやがて紫苑の元へと辿り着きます。
押し寄せるショゴスに対し恐怖した彼女は、精神的に耐える余裕などなく……その場で発狂。
恐怖から逃れるために、震える腕を無理やり動かし、床を這いずって逃げだしました。
彼女は混乱と恐怖の渦の中、ただ父親の姿を求めて暖炉のある部屋を目指します。
普段であれば、彼はそこで本を読んでいることが多かったからです。
その父親が真後ろに「いる」ことなどつゆ知らず、紫苑は暖炉の部屋へとなんとか逃げ込みます。
そして後を追うショゴスも、暖炉の部屋へと入室。紫苑を追い詰めました。
……もはや紫苑に逃げ場はありませんでした。
ぱちぱちと燃える、暖炉の中を除いては。

三方を恐怖の化身に囲まれ逃げる場所を無くした彼女は、
その最後の逃げ場へと跳ねるように飛び込みます。 途端に襲いかかる、全身を焼く高熱。酸素不足による混乱。
紫苑はめちゃくちゃに腕を振り回し、苦痛から逃れようと努めました。
暖炉の内壁に指先が当たり、爪が剥がれても、その痛みを感じる間すらなく……
絶望と苦痛の悪夢は、すぐに終わりました。

ショゴスと溶け合った意識の中で、雄二はそれを見ていていました。
焼け爛れた紫苑の死体。それに覆い被さる、玉蟲色をした悪夢のような怪物。
苦悶の表情を浮かべた紫苑が、最愛の娘が、自分と同じように、全身の骨を折り砕かれ、取り込まれていく……
その光景を見下ろしたニャルラトテップは、上機嫌な笑い声を上げていました。

こうして、雄二と紫苑が亡くなった後……
屋敷の近くの地下洞窟に棲みついたショゴスは、欲望のままに周囲の生物を喰らいます。
その中には、「クトーニアン」と呼ばれる怪物すらも含まれていました。
それは巨大な芋虫状の姿を持ち、地下のすみかへと巧みに人をおびき寄せて喰らう、知性を持った存在です。
クトーニアンを喰らったショゴスは、彼を消化するとともに、豊富な養分と知識を得ます。
《人間をおびき寄せる(参照:基本ルールブックp.276)》と《招待(後述)》の呪文を学んだショゴスは、地下を通して各地に「門」を創造し……
そこを対象が通過することで、自身の体の真上に着地……手軽に捕食が出来るように仕向けたのです。

……が、あまり成果は上がりませんでした。
懐疑心の強い現代人は、目の前に浮かんだ「大きめにカットされたダイヤモンド」を不審がり、近寄らなかったのです。
そこで知性を持ったショゴスは、「欲望」よりも「好奇心」にアプローチする方法を考えだします。
「現実ではありえなく」「好奇心をそそり」「危険性も感じられない」。
その3つの条件を満たした「新たなエサ」こそが、「メイド服を着たウサギ」の幻覚でした。
それはかつて捕食した「望月紫苑」の記憶から生みだした、1つの成果だったのです。
この幻覚は、日常に退屈した現代人の好奇心を刺激し、彼らをショゴスの元へと導かせました。
かくしてショゴスは、安定した食糧供給手段を確保する事が出来たのです。

……ですが、彼の体の中では、思わぬ副作用が現れていました。
不可思議な方法により、死後にその記憶への干渉を受けた紫苑。
そのことが引き金になったのか……
ショゴスに消化される最中の意識が混濁とした人間は、一つの悪夢を見るようになりました。
紫苑の記憶から生まれた「不思議の国」の悪夢。
リアリティを欠いた、空想上の世界のしあわせな夢でした。

「不思議の国」が生まれてから数カ月後。
不運な探索者は「ウサギ」を追いかけ、ショゴスの真上に落下してしまいます。
そしてそのまま、強烈なショックからショゴスの事を忘れ、悪夢の世界へと囚われてしまったのです。
果たして、彼らは無事に「不思議の国」から脱出し、元の世界へと帰る事が出来るのでしょうか……?

◆呪文《招待》

公式には存在しない呪文です。
《門の創造》によく似ており、こちらはMPの消費のみで《門》を開くことが可能です。
ただし、《門》は一度使われると効力を無くしてしまいます。
この呪文を適用出来る範囲は、当人の目の届く場所に加え、当人が触れたことのある場所が含まれます。
クトーニアンの掘った地下トンネルと記憶は、ショゴスがこの呪文を使うために役立ちました。
呪文の詠唱には、詠唱者が人間の空間認識体系とは違った概念を所持していることが必須となります。

3.登場NPC

望月 雄二(もちづき ゆうじ/享年42)、勤勉で誠実な医者

STR:10 CON:10 SIZ:14 INT:16
POW:08 DEX:14 APP:11 EDU:21
SAN:18 H P:00 D B:00

医学の発展と進歩に情熱を注ぐお医者さんです。
義理人情に厚い好漢でしたが、ニャルラトテップの罠に嵌められ命を落とします。
医者として数々の死を見届けてはいましたが、喪失の苦しみに慣れることは最期までありませんでした。

望月 叶絵(もちづき かなえ/享年36)、暢気で陽気な記者

STR:10 CON:07 SIZ:11 INT:14
POW:12 DEX:13 APP:14 EDU:18
SAN:60 H P:00 D B:00

暢気な性格をしていた、元記者の女性です。
とある遺伝性の病気に罹ったことにより、若いながらも命を落としました。
夫と娘に何かを伝えようと、死の直前になんとか一枚の絵を描き上げます。

望月 紫苑(もちづき しおん/享年10歳)、無垢で無口な少女

STR:05 CON:03 SIZ:09 INT:10
POW:08 DEX:07 APP:15 EDU:06
SAN:17 H P:06 D B:-1d4

ちょっぴり人見知りのきらいがある少女です。
基本的に無口なものの、興味のあるものには多弁になります。
出会って1時間も経てば(あるいは探索者がひょうきんな行動などで好感を得れば)、単なる無邪気な子供のようになるでしょう。

今の彼女は知り得ませんが、死の直前には母と同じように一冊の絵本を描き上げていました。
一人残される父親に、支えとなる何かを遺そうとしていたのです。

自身の境遇に内心疑問を抱いていますが、このままでも良いとも思っています。
何かを切っ掛けに辛い現実に戻ってしまうくらいなら、永遠にしあわせな夢の中でいいのだと。
少なくとも、探索者たちと接するまではそう考えていることでしょう。

前原 誠一(まえはら せいいち/享年55歳)、不遜で不遇な政治家

STR:12 CON:17 SIZ:16 INT:16
POW:16 DEX:13 APP:08 EDU:22
SAN:66 H P:17 D B:+1d4

勤勉で誠実、非の打ち所がないような政治家です。
……「ちょっぴり」名誉欲が強く、自己顕示欲も強く、
ついでに他人への配慮が足りないという些細な欠点を除けばの話ですが。
熱心な愛妻家で、妻と息子を何よりも大事にしていました。
しかし、そこかしこに敵を作り出す性格は、彼を長生きさせることはありませんでした。

現在は「ぬいぐるみ」の体で不思議の国のどこかにいますが、出会うことはないでしょう。
きっと、とってもしあわせ。もう妻と息子のことなんて、何も考えなくてもいいのですから。

古里 由宇(こざと ゆう/享年26歳)、夢見で夢中な医師

STR:11 CON:06 SIZ:08 INT:13
POW:10 DEX:10 APP:14 EDU:18
SAN:50 H P:7 D B:0

暢気な性格のお医者さん。故郷の地域医療に貢献するのが夢。
前原に同行し、脱出のためにこの世界を歩きまわっていました。
……が、体力の低さも相まって途中で消滅してしまいます。
前原に砂時計が0になるとどうなるか、という事をまざまざと見せつけました。
しかし彼の言動は前原に様々な影響を与え、死の際の台詞は、彼が真相に気づく重大なヒントともなりました。
今はぬいぐるみとして、町のお医者さんとなっています。とってもしあわせ。

不思議の国の住人(ぬいぐるみ)、自我の無い人形

見た目はただのぬいぐるみですが、結構よく動きます。
関節も動きますし、口を開けて人と会話をする事も可能です。
ただし、彼らは意思も自我も持ちあわせてはいません。
聞かれたことには正直に答えますが、その他については一切答えないでしょう。
彼らがこの世界の真実について知っているのは、「ここにいれば幸せ」程度の事のみです。
とってもしあわせ。

4.ギミック「木彫の砂時計」

探索者の体の消化具合を示す砂時計です。
が、この砂時計が何を示しているかはプレイヤーに伝えません。
リアルでの1時間程度を目安に、1d2を全員分ロール。その数値分のHPを減算します。
探索者のHPが全員少なければ、CON*5に失敗すれば……などと調整するといいでしょう。
夢の世界でのHPと現実世界でのHPは完全に別の扱いで、このHPの減算は探索者に秘匿されます。
一定割合の減少により、さまざまなバッドイベントが発生します。
砂時計が割れると、所持者の人格が完全に破壊されてしまいます。

なお、誰か一人が死亡すると、この現象は停止します。
足を使えない人間も動けるようになるし、腕の震えも収まります。
お腹が膨れたショゴスが消化活動を抑えたためです。

5割の減少

その探索者は、腕の違和感に気づきます。
腕がぶるぶると震え、まともに力が入らないのです。
文字を書くくらいなら出来るかもしれないが、震えた字になってしまうでしょう。

7割の減少

その探索者は、足の違和感に気づきます。
完全に力が抜け、まるで足がそこに無いかのように動かせないのです。
立ち上がるには誰かの手を借りないといけないでしょう。
助けが無ければ、這いずらないと動くことすら出来ません。

9割の減少

その探索者は、記憶の違和感に気づきます。
ここの外の世界の記憶が、すっぽりと抜け落ちているのです。
全ての技能ロールが初期値に戻ります。

10割の減少

その探索者は、《夢の世界で》死亡します。
体が地面にずぶずぶと吸い込まれて行き、恐ろしい映像を幻視するのです。
いくつもの穴の開いた天井、自身を飲み込む《玉蟲色の悪夢》など。
これは、探索者の本当の体が見ている光景です。
キーパーは探索者の死亡時、最期の言葉を遺させてあげると良いでしょう。
残った探索者へのヒントとしても機能するからです。
完全に飲み込まれると、夢の世界での体は跡形もなく消えてしまう。
他の探索者が現実世界へと脱出出来たなら、彼に《応急手当》を使う事が出来るかもしれません。
《応急手当》や《医学》に成功しさえすれば、問題なく蘇生します。

死亡した探索者は《1d6/1d20》の正気度を喪失。
さらに固定で《5》正気度を喪失します。

5.導入

珈琲の香りと、やかんから湯気の湧く「シュンシュン」という音の聞こえる喫茶店で、探索者たちは目覚めます。
彼らはそれぞれ顔を向かい合わせる状態で座席に着いているため、自己紹介はそこで済ませてもらうといいでしょう。
自己紹介を終えた辺りで、ポケットの中に木彫の砂時計がある事に気づきます。

砂時計は、上下に分かれたガラスの管の中に薄紅色の砂が入っているタイプのものです。
何分を測るものかは不明ですが、ひっくり返しても砂が逆戻りする様子は見られません。
それどころか、ひっくり返した状態では砂が上に昇るという不可思議な動きをするのです。
《目星》で調べた場合、刻印や余計な装飾は一切されていないことに気づきます。

名もない喫茶店にて

さて、自己紹介と砂時計の調査を済ませた探索者は、取り敢えず周囲を見渡すことでしょう。
そこは前述の通り、コーヒーのいい香りが漂う、のどかな喫茶店です。
レンガ造りの壁と、暖かみのある木彫のテーブルが数点配置されています。
厨房はダイニングキッチンのように客席から見える構造になっており、そこには今は誰もいません(メイドのうさぎは注文を取りに出たところだからです)。
さらに壁際には窓、入り口近くには木製のラック、そして出口らしきドアがあるのが目に入ります。

探索者に上記の情報を伝えたところで、彼らの元へ誰かが……何かが近づいて来ます。
それは地上で探索者を誘っていた、メイド服を着た、ひざ下ほどの身長のウサギのぬいぐるみです。
ただし、そのことを尋ねても彼女は「探索者とは会ったことが無い」と証言します。
この「不思議の国の」ウサギと地上の「ショゴスの幻覚の」ウサギには、紫苑の記憶がモチーフであること以外、共通点が無いためです。
彼女を《目星》や《博物学》などで調べた場合、材質自体は一般的なものだと分かります。

なお、彼女のような「不思議の国の」住人たち(紫苑を除く)に《心理学》を使ってしまった場合、
成功すると「喜怒哀楽」の「喜」以外を抜かしてしまったような歪で虚ろな精神を感じ取り、正気度を《1/1d3》喪失します。

他に調べられる場所を上げていくと、窓の外には穏やかな陽射しの差し込む森が広がっています。
こちらは《芸術》などに成功すれば、風光明媚ではあるものの自然の厳しさを欠いた、不自然な美しさをしていると感じます。

出口は予想を裏切り、普通に出ることが可能です。
しかし、どこかも分からない森の中を、あてもなく彷徨う気にはならないでしょう。
GPSも通じず、地図も無く、土地勘も無ければ迷うのがオチです。

並べられた本

入口近くのラックには、表紙が見えるような形で本が並べられています。
パッと見たラインナップは、新聞・週刊誌・奇妙な表紙のハードカバーの3冊です。

新聞

真新しい新聞の日付は「1999年11月14日」で、鮮やかなカラー写真が紙面を彩っています。
こちらには「新聞社名」が記載されておらず、どこの新聞かは不明です。
内容については、特に説明することはありません。
重要なのは、15年前の新聞が綺麗なままで現存するということです。

週刊誌

週刊誌も新しいもので、こちらは「2012年10月3週号」のようです。
見出しには「緊急速報! 無党派議員・前原誠一失踪か!?」という赤の大文字が記載されています。
内容は「妻と息子を失い、失意のどん底にあった政治家が失踪したらしい」というものです。
この手の週刊誌に付き物の、根拠の薄そうな噂話なども載っています。
噂話は「クリーンな政治家だったため、裏金工作を拒否して政府に消された」といった内容です。
《アイデア》に成功すれば、前半以外は全く無根拠で馬鹿馬鹿しいものだと気づくでしょう。

ハードカバーの本

最後の一冊、ハードカバーの本はあまりに特徴的な表紙をしています。
タイトルは「わが町の歴史」。縁は金色に装丁され、表紙の中央には著者の「前原 誠一」のドヤ顔がアップで写っています。
それはそれは衝動的に破り捨てたくなるほどに素敵な顔だと感じるでしょう。
一度見たら忘れられないような、無駄に強烈な印象を誇っています。
内容については、口下手で不器用ながらも、確かな政治への熱意を語っているものだと分かります。

《アイデア》に成功するか、「出版社名はないか」と尋ねられた場合、この本にも出版社名が無いことが分かります。
この世界における「本」は、犠牲となった人々の記憶が本の形を取って現れたものに過ぎません。
なので出版社を介す必要はなく、出版社名が載っていないのです。
《幸運》の半分に成功するか、《法律》ロールに成功した探索者は、現実世界でこの本を読んだことがあるでしょう。
その際、現実世界で読んだ時とは細部の内容が少しだけ変わっていると気づきます。
より包み隠さず、より粗削りで熱意をさらけ出したような内容となっているのです。
これは、「本」の生成に編集者が関わらなかったことにより起こった現象です。

この本を読むことは、前原誠一への初めての接触となります。
キーパーはできるだけ、彼にいい印象を与えるようにすると良いでしょう。
終盤にて、彼を信頼出来るかどうかは探索者の生死を左右します。

6.記憶のない少女

探索をひと通り終えた後で、探索者はある事に気づきます。
壁際のテーブル。その下で小さな女の子が、椅子を並べた上に眠っているのです。
おそらく身長の関係で、今まで見えなかったのでしょう。

彼女の名前は望月 紫苑。この世界の根幹に関わる、重要な人物です。
だだしその記憶は失われており、傍から見ればちょっと人見知りするだけの少女にしか見えません。
彼女に《心理学》を使った場合、人見知りであることを察することが出来ます。

彼女が今知っているのは、この喫茶店と町の存在について程度です。
また、彼女も探索者同様に「砂時計」を所持していますが、その砂はすべて落ちきっています。
彼女の体は、もうショゴスの中に完全に溶け込んでしまったのです。

7.町への道中にて

元の世界に帰る方法を探し、探索者は町へ向かうことになります。
この際、喫茶店でお会計をしようとした場合、
「お代は結構ですよ? ここは喫茶店ですから」
「お金は必要ありませんから。だって、ここは喫茶店ですもの」
……などとワケの分からない理屈で、支払いを拒否されます。

紫苑もここでお金を払ったことはなく、それを不思議に思ったこともありません。
探索者がお金を払わくていいことに疑問を呈するのを見ると、ウサギと揃って「変なの」と首を傾げます。
『お店でお金を払うもの』という知識はあるものの、「『別にいい』と言われれば払わなくてもいいだろう」と、そのあたりで思考が停止しているのです。
探索者が『お店が維持できないだろ?』などと最もな理屈を述べれば、彼女は「そういえば、確かに。考えたこともなかった」と頷きます。

ウサギは絶対に代金を受けとらないというわけではなく、無理に代金を支払えば彼女は受け取ります。
これといっていいことはありませんが。

町へ向かうための最も簡単な方法は、紫苑に案内してもらうことです。
彼女は町と喫茶店を何度も往復しているため、頼めば町まで連れて行ってもらえます。
からんころん、とベルを鳴らして喫茶店のドアを開けると、外には風光明媚な森が広がっています。
鳥たちの鳴き声と小川の優しいせせらぎの音が聞こえ、混乱しがちな心を落ち着かせてくれるでしょう。

ただし、《目星》などで森を調べた場合、鳴き声は聞こえてくるものの、鳥の姿が一羽も見当たらないことに気づきます。
また、川も透き通った水が流れているものの、一匹の魚も虫もいないと分かります。

町への道中、紫苑は探索者たちへと話題を振って来ます。
探索者が先に『お金を払うこと』でもめていれば、そのことについて触れてからにすると、自然に会話へ入れるでしょう。
彼女の振る主な話題は、《将来の夢》や《職業》などについてです。
探索者たちが話してあげると、彼女は感心したり、興味を持ってみたりと楽しそうに話を聞きます。
しかし、紫苑自身に夢はないか、と尋ねると、少し困ったような表情で「今は幸せだから、それでいいんじゃないかな」と返されます。
けれども、その胸の内には現状への不満が募っています。
彼女自身、今のままでいることに悩みはあるのです。

8.「しあわせ」な町

数十分の道程を終えると、どこかおとぎ話を連想させるような、穏やかでのどかな町に辿り着きます。
古ぼけた欧風の、煙突の生えた屋根を持った家屋が立ち並び、路地では数人の住人が世間話をしている。

話を聞けそうな住人を探せば、世間話をしているぬいぐるみを見つけます。
彼女らは、「この町で一番の物知りなら本屋だ」「怪我をしたら医者に掛かるといい」などと教えてくれます。
それ以外の情報は、他のぬいぐるみと同一です。

探索者がすでに四肢の機能を失っている場合、医局に訪れたいと言い出すでしょう。
そうで無い場合は、紫苑が足をひねって転んでしまう……などとして、町を出る前に訪れさせておくことを推奨します。
いずれ四肢の機能を失うイベントが発生すれば、ここで用意しておいたものが役に立つことになるでしょう。

医局に勤めている医師は理性を持ったぬいぐるみで、彼もまた砂の落ちきった砂時計を所持しています。
彼の正体は前原と行動を共にしていた医師、その成れの果てです。
そのため、前原について尋ねれば、彼の人格についても色々と教えてくれるでしょう。
「ちょっと困った所もあるが、優しさと情熱を持ったおじさん」というのが彼の前原に対する評価です。
また、彼とは一緒に本屋に行ったよ、などとも教えてくれます。

探索者が四肢の機能を失っていたり、紫苑が足を捻ったりしている場合、医師に相談することになるでしょう。
彼は心配そうに症状について質問した後、念のためにと松葉杖や車椅子などを進めてくれます。
この時点では過剰な反応にも思えますが、彼には「この症状が後々どうなるか」、微かに記憶が残っているのです。
松葉杖や車椅子を調べた探索者は、これらの品物が他のものよりも精緻にできていると感じます。
世界を構成するベースとなった紫苑の記憶に、強く残っているからです。

さて、探索者たちの質問に医師が適度に答えたところで、次のイベントが発生します。
突如として、パリンと砂時計の割れる音が響き……
医師も他のぬいぐるみと同じように、淡白な反応を返すだけの存在になってしまうのです。

この様子を見た探索者は《アイデア》を行い、成功すれば、
「自分も砂時計が割れれば、彼のようになってしまうのでは?」という恐怖に駆られるでしょう。
恐怖に駆られた探索者は《1/1d4》、そうでない探索者も《0/1d2》の正気度を喪失します。

9.本屋での接触

ストーブの上には、沸騰したやかん。
古びた本屋特有の空気の満ちる空間には、山ほどの本が並べられています。
それらはどれも状態は良く、新品のようにピカピカに見えるでしょう。

探索者がもしも喫茶店で「わが町の歴史」を見つけていなければ、ここで見つけます。
なにせ、あまりに目立つ表紙なので、本を調べようとすれば、腹立たしいことに否応にも目に入ってしまうのです。

《図書館》で陳列された本を調べて行った場合、並べられている本は、探索者のうちの誰もが見たことのない本だとわかります。
それらは圧倒的なリアリティに満ちた本が大多数で、そのいずれにも「出版社名」が記載されていません(その理由は7の「ハードカバーの本」を参照)。
また、「9割」まで砂時計が落ちている探索者がいれば、彼の記憶が本として出現しています。

本屋と会話した場合、探索者が何を求めて話すにしろ、彼は「魔女に会えばいい。それで全て解決する」と答えます。
曰く、「魔女」は紫苑に瓜二つの姿をしており、ホウキを持って空を飛び回り、「しあわせになる魔法」を掛けるのだとか。
そして彼女は、町外れのお屋敷に住んでいるらしいと教えてくれ、地図も書いてくれます。

前原誠一について尋ねた場合、彼も本屋に訪れ、魔女の事を聞いて帰ったと語ります。
その後は町の外へと向かったこと以外は分からないが、
「おそらく魔女の屋敷に行って、外の世界に帰してくれるように頼んだのだろう」とのことです。
また、彼がここに来た時は「お医者さんと二人だった」のだとか。

さて、この世界に登場するぬいぐるみたちは、「しあわせ」という言葉を好んで使います。
その中でも特に本屋は、その言葉を繰り返す傾向があります。
その事について、探索者が疑問に思って追求すると、感情の起伏を見せなかった本屋は突如豹変し、胸の内で怒りが膨れ上がっているかのように攻撃的な口調となります。
彼は探索者たちや紫苑をなじり、「ここでの生活は間違いなくしあわせ」「住人は何も考える必要は無い」「永遠にしあわせだけを感じていればいい」などと出張するのです。

紫苑が探索者と仲良くしていれば、彼女は自身の境遇に疑問を覚えているため、本屋の言動に反発します。
すると、本屋の答えに「ごぼごぼ」と言った、喉奥で何かが煮えているような低音が混ざり始めることに気づくでしょう。
……何かがおかしいと思った時には、もう手遅れです。

本屋の体は裂け、中から玉蟲色をした粘液質のバケモノが現れ、無数の緑色の眼球で全員を見据えます。
そして、紫苑に「何故否定する。お前が望んだからこうなったのだろう?」と一言だけ告げ……
それだけ言うと、元の本屋の姿に戻ります。
もう彼はその時の事を覚えておらず、異様な反発を行うこともありません。
本屋の豹変と粘液質の怪物を目撃した探索者は、《1/1d6》の正気度を喪失します。

紫苑の決意

本屋の豹変後、外に出た紫苑は、自身の出自、境遇を知りたいと言い始めます。
今までに見てきた光景と、探索者と出会ってから見た光景があまりに違うからです。
薄っぺらいこの街の「しあわせ」と、探索者の経験から生まれた「幸せ」という言葉は明らかに重みが違っています。
彼女は記憶を得たい、自身の記憶を取り戻したいと訴えます。
どんな人生を歩んできたのか、どんな親がいたのか。姉妹や兄弟はいたのか……と。

探索者が了承すれば、彼女は「私に瓜二つ」と評された「魔女」に会いたいと言い出します。
探索者が断れば、彼女は一人で魔女の屋敷に向かう事になるでしょう。
もっとも彼女は足も遅い上、どの道他の手がかりも無いので、探索者たちも彼女に同行する事になると思われますが。

もし、探索者が彼女を疑ったり、彼女から離れたいと思えば、単純に走って距離を引き離せばいいでしょう。
DEX6の紫苑を引き離すのは、大人なら誰でも出来るような事です。
それが困難であれば、攻撃しても良いしょう。耐久力の低い彼女は、適当に2~3発殴れば死んでしまいます。

もっとも……彼女は魔女の屋敷に大きく関係する、最重要人物です。
彼女からの情報を失えばどうなるかは想像に難くないでしょう。

10.魔女の屋敷へ

魔女の屋敷へは、町を出て十数分ほどの距離があります。
屋敷の外観は、屋敷までの距離を半分ほど歩けば遠目からも視認出来るような、大きくて立派なものです。
建物はまだそこそこ新しいのか、綺麗な外観をしています。
ショゴスに呑まれた当時の記憶から生成されたため、時間が停止しているからです。
敷地は鉄柵で囲まれており、正門から入ることが推奨されます。
《目星》で屋敷の外観を調べれば、鉄柵の奥行きからして、屋敷の奥にもう一つ建物があると考えられるでしょう。

屋敷の近くで《聞き耳》を行えば、屋敷の奥から何かがうねうねと轟くような音を聞き取ります。
そしてその音に紛れ、冒涜的な響きを持った「テケリ・リ! テケリ・リ!」という声をも。
この声を聞いた探索者は、《アイデア》をロールします。
成功すれば、これをどこかで聞いたような気がすると感じるでしょう。
探索者の本当の体はショゴスに飲まれている最中で、ショゴスの上に落ちた際に、その声を聞いていたからです。

◆添付資料・魔女の屋敷地図

写真素材は足成さんのもの、 フォントはるりいろフォントを使用させて頂いています。
※クリックで大きくなりますが、1500*1000と暴力的な画像サイズです。ご注意ください。

11.魔女の屋敷1F

1階には3つの部屋と、2階に登るための階段があります。
1階の奥に進むためには、2つの部屋のどちらかを通るか、玄関の正面にあるドアを《鍵開け》することが必要です。
奥には2階に登るための階段と、さらに奥へと通じる扉があります。

左奥の扉の先は、広々としたリビングです。
柔らかそうなソファと観葉植物が飾られています。
ソファの上には新聞が無造作に放られています。
新聞の内容は、喫茶店にあるものと同一です。

右奥の扉の先は、こちらもやはり広々とした内装をしています。
大きなテーブルセットに加え、3つの椅子が並べられており、テーブルの上には特に食べ物は置かれていません。
椅子を調べた場合、その内の一つが子ども用のものであることに気づきます。
残りの2つは大人用のものですが、片方はしばらく使われた痕跡が残っていません。
冷蔵庫には逆に、色々と食べ物が保管されています。ただし、賞味期限は載っていないようです。
こちらを《電気系の技能》で調べた場合、コンセントには電気が通っていないのに、家電がきちんと作動していると分かります。

両方の扉の先には裏口への扉を有する通路があり、その扉の反対方面には応接室へと通じる扉があります。
裏口の扉を開くことは、現時点では自殺行為以外の何者でもありません。
探索者が裏口へ無警戒に進もうとした場合、《聞き耳》を振ってみるように進めるといいでしょう。
成功すれば、入り口と同じく「テケリ・リ」の声が聞こえることが分かります。
違いは距離だけで、こちらの方がずっと声の主と距離が近くなっています。

応接室は意外にも殺風景な内装となっています。
紫苑の治療法を模索するため、余計な家財道具は処分してしまったからです。
安っぽい机とソファーを《目星》で調べて回ると、財布が落ちていることに気づきます。
財布の落とし主は前原で、彼の身分証が中には入っているようです。
なお、流石に身分証の証明写真は例のドヤ顔ではありません。
身分証の内容を調べると、住所と名前、戸籍情報以外のほとんどの内容が消えてしまっていると分かります。
住所の方も、兵庫県弥代市夜見野町……以降の内容は消えてしまっています。
彼の記憶の中には、まだ愛する町と妻子のことは残されているようです。ついでに例の本も。

魔女の肖像

登り階段へと続く通路。
応接間側のドアを開けた、その正面。壁には一枚の肖像画が掛かっています。
近くに寄ってみると、それは「望月紫苑」の肖像画であることが分かるでしょう。
《芸術》で絵画を調べれば、絵の具の古さからそれが4年くらい前のものであり、またあまり上手でないことが分かります。
情熱と愛情こそ感じるものの、これは明らかに素人の作品です。
額縁を調べれば、作品のタイトルは「最愛の娘」と名札があるのが分かるでしょう。
この肖像画は、紫苑の母の叶絵によって描き遺されたものです。

さて、探索者たちとともに肖像画を見た途端、紫苑の様子が変わります。
能面のような無表情になり、目から光が無くなり……
「そうだ……ここは」「2階……」などと呟くと、幽鬼のようにふらふらと、2階への階段を登ってしまいます。
この際、止めようとして彼女に触れたものは、以下の光景を幻視します。

絵本の散らばる床、ぬいぐるみの並べられた棚。
それらの全てを飲み込んで、玉蟲色の何かがベッドの上の「自分」に迫る。
震える腕を無理やり奮い、動かない足を引きずり……
「自分」は腕を無理やり動かすと、ベッドの上から転がり落ちます。
そして力の入らない腕で必死に床を引っかき、どこかを目指して這いずります。

「お父さん……お父さん! どこ、どこなの……!」

……探索者の脳裏に、どこかの光景が映る。
大きな、温かい火を灯す暖炉のある部屋。
そこで本を読んでいる、柔和な笑みを浮かべた中年の男性の姿。

これは紫苑との接触によって発生した、記憶の混線のような現象であり、幻視したのは彼女の死の直前の光景です。
雷に打たれたかのように停止した探索者がハッと気づくと、いつの間にか紫苑はいなくなっています。

12.紫苑と紫苑

2階に上がった探索者たちの感心事は、ひとまずはいなくなった紫苑になるでしょう。
彼女はドアを開けたままにして移動したため、足取りを追うのは用意です。
後を追って暖炉の部屋に入ると、紫苑は虚ろな目で暖炉の中をぼうっと見つめています。
探索者たちが暖炉の中を覗くと、ごうごうと炎の燃える暖炉の中で、何かが燃えていることに気づきます。
《目星》で更に詳しく調べれば、それが人間の子どもくらいの大きさだと分かります。

「なんだ……そういう事だったんだ」
「……ふふ、私は、もう……」

紫苑はそれだけ呟くと、部屋の壁へ近づき……すり抜けて消えてしまいます。
明らかに人外の、異常な力を行使した彼女に対し、困惑と恐怖が同時に浮かぶでしょう。
探索者たちは正気度を《1/1d3》喪失します。

暖炉の側には火かき棒が置かれており、中身を掻き出すことは容易です。
探索者たちが勇気を出して中身を出せば、中から出てきたものが「望月 紫苑」であったことに気づきます。
顔は無残に焼けただれ、爪は剥がれ、グロテスクな焼け跡が露出しています。
これが「紫苑」だと言うのも、服の焼け残りから辛うじて推測出来るに過ぎないでしょう。
紫苑とは先ほどまで一緒に行動していた。けれども、彼女の死体はここにあり、紫苑は壁をすり抜けて去っていった……
明らかに理不尽で、整合性が取れない事態に際し、探索者たちの正気は大きく揺さぶられます。
探索者たちは《1d3/1d8》を喪失し、さらにここから非常に困った事態に直面することになります。

丁度この死体を認識したタイミングで、キーパーは《砂時計》のロールを行い、通常通りのHPの減算を行います。
さらに、この場面から突然《砂時計》ロールの頻度が増え、5分に1度のロールが発生します。
そろそろ空腹に耐えかねたショゴスが、消火活動を活発化させたことによる現象です。

この場面から、死亡した探索者は、記憶の戻った紫苑と共に書斎で待機する事になります。
キーパーが望むならば、その探索者には紫苑との会話により、特別な情報を与えてもいいでしょう。
なお、死亡した探索者が書斎で待機している事実は、他の探索者へは秘匿することを推奨します。

紫苑の死体は《医学》や《目星》によって調べることが可能です。
《医学》によって調べた場合、死体が死後まもない状態であること。
手足、特に足の筋肉の衰えが激しく、半分寝たきりのような状態にあったのだろうと考察します。
《目星》の場合、死体の腕の注射痕と、暖炉の中に引っ掻いたような形の血の痕を見つけます。

13.魔女の屋敷2F

夫妻の部屋にはあまり物はなく、一人用のベッドに、サイドテーブルが備え付けられています。
本棚にはいろんな本が詰め込まれています。ジャンルは時代・歴史小説が多いようです。
これらの本には「出版社名」が記載されています。

紫苑の部屋には、絵本が散らばる床、ぬいぐるみの並べられた棚などがあり、
一見すると、どこにでもあるような女の子の部屋に見えるでしょう。
ですが、ベッドの脇には点滴があり、サイドテーブルの上には薬瓶が並んでいます。
薬瓶を《医学》もしくは《薬学》で調べれば、それらが強力な鎮痛剤であり、
もはや手の施しようがない患者の苦しみを取り除くため、使用されるものだと分かります。
本棚を《図書館》で調べれば、どこにでもあるような一般的な絵本の中に、一冊見知らぬ本が混じっていると気づきます。
背表紙に書かれたタイトルは「魔女と魔法の指輪」。
絵本の大まかな内容は、「病気の少女が魔法の指輪を貰い、魔女となって動物の町の住人たちを幸せにする魔法を使う」というものです。
魔女はやがて自身の病気を治すために魔法を使おうとしますが、それはどうしても叶いませんでした。
彼女自身も死の直前に気づいたことですが、例え病気を患っていても、自身を想って懸命に看護を続けてくれる人が側におり、彼女は十分に幸せだと感じていたからです。
紫苑はこの絵本を通じ、父親への感謝の気持ちを遺そうと考えていたようです。
……しかし、この本の一部。「魔女が何度も自分の病気を治そうと試みるも、叶わない」の箇所は、ニャルラトテップによって利用されることになったのですが。

倉庫には暖炉のための薪や買い置きの缶詰などの食料品が置かれています。
生の野菜なども混じっていますが、経年劣化や変質が見られないことから、最近買われたものだと考えられます。
ここには様々な品物が混在しています。探索者が「何かがここにないか」と提案した場合、
それがあるかどうか《幸運》によって判定しても構わないでしょう。

14.魔女の屋敷3F

この階にも4つの部屋が存在していますが、一番目を引くのは大きな窓でしょう。
階段を登り、回って北の方角を向くと、窓が大きく開け放たれているのが目に入ります。
これは探索者たちよりも前にここを訪れた、前原誠一が行ったことです。
窓辺から外を見下ろせば、奥にある「離れ」の建物の上で蠢いているショゴスを目撃することになるでしょう。

他の4つの部屋については、書斎はこの時点では鍵が掛かっており、入ることが出来ません。
《鍵開け》を試みても、そのための道具がぐずぐずに崩れて壊れるだけに終わってしまいます。
記憶を取り戻した紫苑が、特殊な力によってロックを掛けているのです。
紫苑が記憶を取り戻していなければ、誰も鍵を掛けていないため、書斎の扉は開いています。

空の部屋は部屋というより、ドアを開けると瓦礫の山があった、という表現の方が相応しく思えるでしょう。
天井や床は何かすさまじい力で叩き潰されたのか、隙間だらけになってしまっており、そこから空や下の階が覗けるほどです。
瓦礫の山を《目星》で捜索すると、色あせたカンバスや絵筆などが見つかります。
紫苑の母、叶絵が使用していたものですが、彼女が亡くなってからは手付かずの状態だったようです。
また、瓦礫の山を漁ろうと中に入った場合、玉蟲色の、粘着質の何かが一部の瓦礫に付着していると気づきます。
それはうねうねと生き物のように蠢き、まるでナマコのようにも見えるでしょう。
このショゴスの破片に迂闊に触れた探索者は、触れた部位を取り込まれてしまいます。
STR12との対抗に失敗すれば、そのままその部位を食いちぎられてしまうでしょう。

無色の部屋は過去に《ショゴスの召喚》の呪文を唱える際、使用された部屋です。
内装は不自然なほどに何もなく、空の部屋への壁が無残に叩き潰されているのが見える程度です。
床を調べた場合、まるで溶かされたかのようにピカピカに磨かれていると気づきます。
ショゴスが這いずったことにより、床が溶けてしまっているのです。

叶絵の部屋は書斎と対になる、望月叶絵の私室だった部屋です。
彼女が亡くなってから2年も経っているため、ほとんど何も残ってはいませんが……
進行上や展開上に必要な品物がある場合、気取られない程度に「ここに置いてあった」ことにしても良いでしょう。

15.二人の真相

探索者がひと通り屋敷を調べ終えたところで、「ガチャリ」という音がどこからか聞こえます。
これは書斎の鍵が開いた音です。

部屋の中には、天井まで届くほどの大きさの本棚があり、森のように並べられた本棚の前には小さな執務机。
そして、それに負けないほどに小さな「彼女」が行儀よく椅子に座って待っています。
望月紫苑と、彼女に抱きかかえられた、死亡した探索者のぬいぐるみです。
探索者は彼女たちから、この怪異の真相を聞かされる事になります。

望月紫苑の真相

この世界は、「玉蟲色の悪夢(ショゴス)」の見る夢の中であること。
父親の召喚した玉蟲色の悪夢は、召喚者である父親と紫苑を喰らい、去っていったこと。
そして、彼女の記憶を元に生み出されたのが……この世界だということ。
玉蟲色の悪夢は、他人の夢に干渉する能力を持っています。
おそらく探索者たちが「喋るウサギ」を見た時から、夢の世界へ引きこまれていたのでしょう。
このままでは探索者たちも、町で見たぬいぐるみたちのようになってしまいます。
が、しかしこれは玉蟲色の悪夢を倒すチャンスでもある、とも彼女は説明します。

曰く、この夢の住人には、2種類のタイプが存在している。
紫苑や探索者、玉蟲色の悪夢のような、自分の意識を持ち、この世界に干渉出来る存在。
もう一つは、町のぬいぐるみたちのような、意識も自我も失った、ただの「NPC」。
RPGの「村人」のように、いつまでもいつまでも、決められた役目を繰り返すだけの存在。
探索者が干渉しなければ、「何も壊せず、作れない」そんな存在だ。

ここまでを紫苑は説明するが、説明の最中にいくらかの「たぶん」の前置詞。
そして、「この世界の事を全てわかっているわけじゃないけど……」という断りが入ります。

その上で、彼女は「玉蟲色の悪夢を打ち倒し、この世界を終わらせて欲しい」と探索者に依頼します。
そのための手段として、彼女は一冊のノートを執務机から取り出し、手渡します。
魂(MP)の無い彼女には詠唱出来ない、《玉蟲色の悪夢の退散》の呪文が記載されたノートです。
ノートにはそのほかにも、雄二の殴り書きが遺されています。

「最愛の娘の、人並みの幸せを望んだ」
「ただそれだけだったのに。たったそれだけだったというのに」
「神は、それすらも与えてくれなかった」
「無慈悲に願いを踏みにじり、私と紫苑から、妻を……叶絵を奪った」
「そして今、紫苑までも命を奪われようとしている」
「ならば、私は喜んで外法に手を染めよう」
「この身が地獄に落ちようと構うものか」
「娘を外に出してやりたい。学校に行って、友達と一緒に遊んで……」
「それだけだ。それだけ出来さえすれば」
「紫苑に何一つ与えられなかった不甲斐ない父親でも、そのくらいは……」

雄二のノートはラテン語と日本語で、同じような内容が記載されています。
彼が翻訳作業を行っていたためです。
日本語の部分を読むだけでも、《玉蟲色の悪夢の退散》の呪文を取得することが可能です。

《玉蟲色の悪夢(ショゴス)の退散》は1d6正気度、すべてのMPを消費して発動する呪文です(MPに関しては秘匿)。
コストとして支払ったMPとショゴスのMPを対抗させ、勝利すればショゴスを退散させる効果を発揮します。
これは協力して唱える事の出来る呪文であり、複数人のMPを合算することも可能です。

15分ほどを使い《ラテン語》の文章を更に調べた場合、翻訳されていない部分には以下の情報が記載されていると分かります。

「この呪文を詠唱する場合、精神力を全て使い果たしてしまう事に注意しなければならない」
「もし、それをカバーする手段を持たずに召喚を行えば、ショゴスを制御することが出来ないからだ」

ノートを渡し終えると、自身の記憶を取り戻した紫苑は、生前の願いが叶った事を探索者たちに告げます。
普通の女の子みたいに、町に出て、友達と遊んで、お喋りをする。
ベッドに臥せっていた彼女には、決してかなわなかった願い。
探索者たちと出会い、町に行き、会話を楽しむ……それだけのことが本当に幸せだった、と。

全ての情報を渡し終えると、役目を終えた紫苑の体がだんだんと透けていきます。
これは彼女の細胞がショゴスの体内から、完全に消え始めているために起きた現象です。
探索者との別れの挨拶を終えた後、うっすらと輪郭だけを残し、紫苑の体は、消滅……することはありません。
代わりに、砂時計の割れる「パリン」という音が、その場の全員の耳に響きます。
輪郭から蘇り、再び実体を取り戻した紫苑は、そこに残っています。
うつろな目で微笑み、探索者に笑いかけます。しかし記憶も自我も、彼女にはもうありません。

前原誠一の真相

残された探索者は、書斎の本棚に《目星》を行うことが可能です。
成功した場合、棚の足元くらいの高さの回りに、数冊の本が散らばっているのを見つけます。
そして、その代わりに……例の「わが町の歴史」が押し込まれているのです。
真面目な医学書や学術書に混じったそれは、完全に浮いてしまっています。

こちらは前原が持ち歩いていた、今や遺品となった書籍です。
よってこの本には出版社名が残されており、読んだことのある探索者がいれば、その記憶と同一の内容だとも分かります。
ぱらぱらとページをめくると、最初のページに文字が書かれている事に気づくでしょう。
震えるような、かじかんだ手で書かれたような文字です。

「なんという事だ。私は初めから間違えていた」
「この世界も、この空間も、全てはまやかしに過ぎないのだ」
「もう外のこともほとんど思い出せない」
「友人も消えてしまったが、今ならまだ助けられるかもしれない」
「今から間に合うかは分からないが、脱出方法を発見した」
「誰かがこの世界に引きずりこまれる事を考え、この手段を書き残す」

「……まず、3階の窓を大きく開け放て」
「そして、深呼吸して意識を研ぎ澄まし……」
飛び降りて、死ね

《精神分析》などで調べれば、これは正常な、真剣な心で書かれたのだろうと推測出来ます。
前原が書き遺した記述。彼は古里の死後、たった一人で情報を集めて、この場まで辿り着いたのです。
そして彼は集めた断片的な情報から、この世界の真実までをも突き止めました。
しかし無情にもタイムリミットが迫り、外の世界の記憶も消え(9割の消化による状態)、
手はかじかんで(5割の消化による状態)乱れた字しか書けず……
足も動かない(7割の消化による状態)ため、足元程度の高さに本を入れるのが精一杯だったのです。
……ちなみに書斎の鍵は彼が持っていましたが、死体と一緒に消滅してしまったようです。

16.最期の選択肢

ここまで来た探索者には、2つのルートが提示されます。
前原の遺書を信じ、窓から飛び降りるか。
紫苑の遺言を信じ、ショゴスに《退散》の呪文を掛けるか。

……正解はそのどちらでもあり、どちらでもありません。
前原の言うとおりに窓から飛び降り、この世界の外にいる本物のショゴスに、紫苑の言うとおり《退散》の呪文を掛ける。
それこそが探索者の助かるための、唯一のルートなのです。

この真相に気づくためには、情報の取捨選択と、ありえない可能性の排除が基本です。
全ての情報が開示されていた場合、探索者は以下の情報を得ていることになります。

望月紫苑は信用に足る(彼女に同情していれば、信じたい)人物。
前原誠一は誠実で、本人と直接対面したことは無いものの、信用に足る人物。
ここから導き出されるのは、「彼女らの情報はどちらも正しい」という事実です。
しかし、一見すると彼女らの情報は矛盾を起こしています。
紫苑は「玉蟲色の悪夢を打ち倒す」事で現実に戻れると説き、
前原は「屋敷の3階から飛び降りる=自殺する」事で現実に戻れると書き遺しました。

お互いが正しい前提で考えると、「紫苑たちが解放されるのは玉蟲色の悪夢を倒した場合のみ」。
つまり、《玉蟲色の悪夢を打ち倒せば、探索者も紫苑も解放される》。
《自殺を行えば、探索者たちは現実に帰還する》という事です。
前原は紫苑と出会っていないため、「彼のみが現実に帰還できる方法」を書いたのだろう、と。
ですが、実際には前原は現実に帰還出来ていないと考えられます。
もし彼が帰還に成功したのなら、少なからずニュースになるはずだからです。

では、何故前原は帰還出来なかったのか? その謎の答えは彼の遺した本自体に隠されています。
彼の本は、「足元程度の高さ」に配置されていました。
そしてメッセージは「震えるような文字で」書かれていました。
つまり、彼は……死の直前。「砂時計の減少による症状」を起こしていたのです。
彼が自身の死を予感できたのもそのためでした。
自身の脱出方法を試す事が間に合わなかった。だから死体は見つからなかったのです。
これらにより、「前原誠一の情報は真実であるが、その脱出手段は試されてすらいない」事が分かります。

次に、紫苑の情報。彼女の言っている事は、部分的には真実です。
具体的に言えば、「2種類のタイプ」「記憶を元にこの世界が生まれた」の部分です。
しかし、それ以外の部分は彼女の推測に過ぎません。
自信のなさ気な口ぶりからも、それは伺えます。
これらにより、「紫苑の情報を全て鵜呑みにするのは危険」という事がわかるでしょう。

そして、最後は探索者が今まで得た情報から。
自身の記憶が空白になっている期間……「ウサギのメイドを追いかけて穴に落ちてから、喫茶店に現れるまで」を考えるのです。
彼らは自身の記憶にない、「テケリ・リの声」「玉蟲色の悪夢の姿」をどこかで見たように感じていました。
それらを見る事が可能だったのは、よほど数奇な人生を辿っていない限り、「空白だった期間」以外にはありえません。
夢の中で突然「夢の中についての」記憶を失う、というのはあまりに不自然だからです。
よって、「喋るウサギを見た時から夢の中だった」という紫苑の言葉は間違いだと導き出せます。

さて。では何故、探索者たちは夢の世界にいるのでしょうか?
それは、彼らが紫苑と同じ目に遭った……つまり、「現実世界でショゴスに飲み込まれているから」以外にはありえません。
これらを統合すると、
「前原誠一の脱出手段を取り、現実世界に帰還する」
「望月紫苑の呪文を使い、現実世界のショゴスを退散させる」
それが唯一の方法であり、手段であると分かります。

この場面に入ると、砂時計の進行が再開されます。
ショゴスが消化活動を再開し、最早一刻の猶予も無いのです。
探索者は「離れ」に行くか、それともこの場で「脱出策」を試すか、どちらかを選択しなければなりません。
もし探索者が「離れ」で正解ルートに気づいた場合は、3階に戻るまでに、1階につき1度の《砂時計の進行》ロールを行います。
前原の遺言が「死ね」と言っているのだと判断出来れば、1階の台所に行って包丁で割腹する。
2階の暖炉の部屋に行き、火かき棒で頭を割る……などの手段も取れるでしょう。

飛び降りを試みるルートの場合、窓の外の景色は、あまり見ない方がいいだろう。
ただし、「前原誠一」の遺体が外には見当たらないこと。
ここから飛び降りても「離れ」のショゴスにぶつからない事は教えておく必要があります。
「ショゴスを見ないように窓の外を観察する」などと提案されれば、それを受けるといいでしょう。

ここから飛び降りた探索者は、「夢の中でのHP」に24の固定ダメージを受けて死亡します。
また、死の体験によって5ポイントの正気度を喪失します(一時的狂気は発生しません)。
かくして夢から脱出した探索者のその後は、後述にて。

ショゴスの退散を試みるルートの場合、離れ小屋へは1階の裏口から向かえます。
離れ小屋は3m程度の高さの木造の建物で、ショゴスはそれに覆いかぶさるようにして蠢いています。
が、離れ小屋が壊れる様子も、探索者に襲いかかってくる様子もありません。
3階には、ショゴスにより破壊された、彼の暴力性を表すような空の部屋があるにも関わらず。
もちろんそれは、このショゴスが「NPC」に過ぎないからです。
この場所で《退散》を唱えた場合、即座に「ハッピーエンド」に移行します。

選択の先にあるもの

前述の選択肢において、夢の中での《退散》を試みた探索者たちが迎えるエンディング。

目が醒めると、そこはどこかの民家でした。
あなたたちは、そのことに何ら違和感を覚えません。
自分の体にも、違和感を覚えません。
毛糸と生地の腕、編み込まれた足。
砂の落ちきった砂時計。
根拠の無い多幸感が全身に満ち溢れていました。
うつろな目をした彼女が、探索者たちの前にいました。
無感情な笑顔で、彼女は笑いました。

「これからずっと一緒だね。ずっとずぅっと、しあわせだね!」

《不思議の国のショゴス―ハッピーエンド》

こちらへ進んだ探索者は全員ロストし、二度と解放されることはありません。

17.選択の先にあるもの

さて、無事に正しい選択肢を選べた探索者たちが目を醒ますと、まず映るのは穴の開いた天井です。
そして、背中を包み込むような不快な感触……食虫植物の体内に飲み込まれたような錯覚を味わいます。
じゅるじゅると音を立てて蠢く、玉蟲色の悪夢。音を立てて飲み込まれていく、自身の肉体。
冒涜的な声が、探索者の鼓膜を揺さぶります。その耳の中に、玉蟲色の悪夢が侵入していきます。
じわり、じわりと。……自らを食い殺すために。
「テケリ・リ!」「テケリ・リ!」と嘲笑う声が、背後から自身を覆い尽くすかのように響きます。
恐るべき「玉蟲色の悪夢」……「ショゴス」の存在を認識した探索者たちは、正気度《1d6/1d20》を喪失します。

さて、ここからは戦闘の形式で処理を行います。
DEX順に行動が可能で、全員1度だけ行動を取ることが可能です。
呪文を唱える探索者は、呪文を唱える事を宣言し……
ラウンド終了前に、彼らのMPを合計した数値で対抗ロールを行います。

夢の中で体がぬいぐるみ化していた探索者は、意識不明の重体です。
《応急手当》か《医学》に成功しなければ、1d3ラウンド後に死亡してしまうでしょう。
もちろん、呪文を唱える探索者は《応急手当》《医学》を同時に使用出来ません。

ショゴスを《退散》させる事に失敗した場合、またはラウンド終了時、ショゴスは全員を飲み込んでしまいます。
飲み込まれた探索者に待つのは、死のみです。

ショゴスの《退散》に成功した場合、空中に裂け目が現れ、ショゴスはそこに飲み込まれて行きます。
全身を覆う緑の眼球が静かに割れ、そこから発光する球体が浮かび、洞窟の天井に当って消えていく。
裂け目はゆっくりと閉じ、洞窟には静けさだけが残ります。

完全にショゴスと裂け目が消滅した事を確認すると、呪文を唱えた探索者たちは意識を手放します。
……腰が抜けた。そう表現するのが最も近いでしょうか。
恐怖が去った事の安堵。呪文を使用した事による喪失。日常への帰還の実感。
様々な感情がないまぜになり、自然と安らぎの中に意識は消えていきます。

18.紫苑の花束

目が覚めると、そこは木陰でした。
起きていた探索者が洞窟の外へ彼らを運んだのか、あるいは誰かが運びだしたのか……
穏やかな木漏れ日が優しく探索者たちを揺り起こします。

木陰から見渡すと、そこは花畑。
薄紫色の一重の花が、探索者たちを祝福するかのように一面に咲き誇っています。
……実際はショゴスに溜まっていた死体の養分が、《退散》の際に吐き出されて起きた現象なのですが……そこはまあ、黙っておいた方がいいでしょう。
錆びた鉄柵から、ここがあの屋敷の跡地であると推測出来ます。

起き上がった探索者たちが自分の周囲を見ると、ぬいぐるみが落ちている事に気づきます。
クリスマスツリーの下にプレゼントを置くかのように、そのぬいぐるみにはアクセサリーが付いています。
「シオン」という花のアクセサリーです。

穏やかな陽光を浴び、爽やかな空気を吸い込み。
生きていることの喜びを噛み締めながら、シナリオはここで終了します。
それはきっと、生きている間にしか味わえない、誰にも平等に与えられた「幸せ」なのでしょう。

《不思議の国のショゴス―ハッピーエンド》

生還した探索者は2d8+4の正気度を回復します。
正しい道に進めるよう、懸命に推理に参加した探索者には、さらに3ポイントの回復。
紫苑と仲良くしていた探索者は、さらに1d4ポイントを回復する事が出来ます。

また、探索者たちは「シオンの花飾り」を獲得します。
この花の花言葉は『追憶』『遠方の人を思う』『忘れない』など。
ちなみにAF的な効果はまったく無いようです。

19.終わりに

危険な生物の登場数は少ないくせに、難易度は極悪。
さらにはヒロイックな気分を煽るくせに、その通りに進むと即死。
非常に悪趣味なシナリオとなっております。
当初はただのタイトルオチなシナリオだったはずが、一体どうしてこうなったのでしょうか。
これもきっとニャルラトテップの思し召しなのでしょう。

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