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家のベッドで、あるいはどこかで眠りに就いた探索者たち。
彼らが目覚めた場所は、どこか木造の住宅のように見える部屋です。
そこはまるで、欧州の酒蔵のようにも感じられるでしょう。
天井からはぼんやりとした明かりが部屋を照らし、薄暗さを緩和しています。
探索者から見てそれぞれ北西、北、北東の方角に一つづつ、紋章の彫られた扉があります。
部屋に目立ったものはなく、ただぽつんと3つの酒樽があるのみです。
樽を調べれば、いずれの樽の中にも真っ赤なワインが入っていると分かります。
ぶどうの芳醇な香りが漂う、良質なワインだと感じるでしょう。
キーパーしか知り得ないことですが、実は、このワインの中にはグラーキの体液が混入されています。
探索者がこれを飲んでしまえば、たちまち血中にグラーキの体液が混ざり、忠実な下僕と化してしまうのです。
医学や化学などを使っても、分析器具が無いのでどうにもならないでしょう。
目の紋章の樽に近寄ると、その上にはくろねこが暢気に寝そべっていることに気づきます。
つんと澄まし顔で天井を見るくろねこは、面白いことにサングラスを掛けています。
彼は一枚の羊皮紙を丸めて、ぱしぱしと手のひらで弄んでいます。
羊皮紙の内容は以下のとおりです。
『制限 時間は 1時間』
『時計は ちゃんと 持ったかな?』
『あんまり 長く 居座ると』
『グサリと 毒を 打たれるよ』
《アイデア》に成功すれば、床がほとんど感じられないような速度で、下にずぶずぶと沈んでいく事に気づきます。
また、《こぶし》か何かで床を破壊すれば、その下に得体のしれない棘があるのが見えるでしょう。
様々な色の入り混じった金属質の棘。探索者はそれを、本能的に触れてはいけないと感じます。
そしてその棘が薄板一枚で区切られ、自らの真下に敷き詰められている恐怖に正気度《0/1d2》を喪失します。
耳の紋章の樽に近寄ると、その上にはみけねこが箱座りでくつろいでいると気づきます。
その耳には愛らしいピンクのリボンが巻かれ、時折「ふわぁ」と欠伸をしているようです。
体の下には羊皮紙が一枚敷かれており、はみ出した部分が探索者の目にも入るでしょう。
羊皮紙を読むことが出来れば、以下の様な内容が書かれていると分かります。
『お暇が あるなら 訪ねよう』
『くろ、みけ、とらの 3部屋を』
『どれも 楽しい お部屋です』
『どこかで 誰かが 待っている?』
『黒目の 部屋か どこかかな』
黒目は『黒+眼鏡、もしくは目の扉の前』ということで、くろねこの事を指しています。
本の紋章の樽。近づけば、その上には伏せをしている一匹のとらねこがいると気づきます。
こちらは人間のように、本を象ったカバンを肩(前足?)がけにしており、それには何かが入っているように見えます。
カバンの中を覗けば、二枚の羊皮紙と4つの砂時計。
砂時計の砂はひっくり返しても戻らず、一定のペースで減少し続けています。
この砂時計は、時間制限を管理するために使用されます。
こちらの羊皮紙には、以下のような内容が書かれています。
『可愛い 可愛い 子猫たち』
『美味しい ワインが 大好物』
『味覚に 自信は お有りかな?』
『勇気を 出して 聞いてみよう』
『「美味しい ワインは どれかなあ?」』
『……ただし みんなで 一度だけ』
この「一度」の部分を調整すれば、難易度を上げ下げする事も可能です。
部屋の外から聞き耳ロールを行えば、『ずるずる』と何かを吸うような音が聞こえます。
この部屋の中には『星の精(基本ルールブック p.170301参照)』が巣食っており、とある少女を晩御飯にしている最中なのです。
その音を聞いた時点から、探索者が別の部屋に行くたびに少女は1d3のダメージを受けます。
当然だが、彼女はHPが0以下になると死亡してしまいます。
彼女が死んでしまうと、正しい道を選ぶ事が困難となってしまうでしょう。
この部屋に入った探索者は、《目星》ロールを行います。
成功にしろ失敗にしろ、ぐったりと床に横たわり、腕や足の傷跡から血を流す少女の姿が目に入るでしょう。
《目星》に成功すると、それに加えて薄ぼんやりとした星の精の輪郭が映ります。
音の発生源に近づくと、真っ赤な何かの輪郭が浮かびあがります。
それはたっぷりと血を吸った星の精の姿です。
脈動し蠢く、大きなゼリー状の塊。
宙に浮き上がった心臓のようなそれは、無数の触手を持っている。
触手の先にはヤツメウナギのような歯を持ち、それが真っ赤に染まっている……
それは床に倒れた少女から触手を離すと、あなたたちに向き合いました。
この得体のしれない怪物を目にした探索者は、正気度を《1/1d10》喪失します。
少女を救うには、星の精の脇をすり抜け、彼女を抱え上げて部屋から連れ出す事が必要です。
DEXでの対抗ロールに成功すれば、星の精の脇をすり抜ける事が出来ます。
気絶している彼女を抱え上げるのは自動で成功するため、もう一度DEXの対抗ロールに成功すれば、無事に元の部屋へ帰る事が出来るでしょう。
これらのロールに失敗すれば、怒りに満ちた星の精から攻撃を受けることになります。
ただし、誰かが囮になるのなら、この対抗ロールは行わずとも構いません。
もちろん、囮は星の精から2回の攻撃を受けるリスクを背負うのですが。
床に倒れていた少女は全身に痛々しい噛み跡があり、先の怪物の攻撃を連想させます。
彼女は気絶していますが、《応急手当》や《医学》に成功すれば目を覚まします。
成功しなかった場合も、中央の部屋へ連れて行き、数十分ほど経てば目を覚ますでしょう。
少女のデータは以下の通りです。
黒猫の少女(ユキ) 外見年齢は7歳程度
STR:2 DEX:17 INT:6 アイデア:30
CON:4 APP:17 POW:6 幸 運:30
SIZ:6 SAN:30
H P:5 M P:6 D B:-1d6
STR:10 DEX:85 INT:30 アイデア:30
CON:20 APP:85 POW:30 幸 運:30
SIZ:30 SAN:30 MOV:8
H P: 5 M P:6 D B:-2 ビルド: -2
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[技能]
忍び歩き隠密:90% 回避:96%
[プロフィール]
年の瀬7歳ごろに見える少女。正体は『黒猫』です。
喋る事は出来ませんが、表情で感情を表現することは可能です。
人間とは思えないほどにすばしっこく、時たま常識では考えられない行動を取ります。
……が、別に取らなくても構いません。ねこは気まぐれなのです。
探索者が何か命令しても、気まぐれに聞くか聞かないかを決めます。
ただし、命を救われた恩義は理解しているため、どうしてもと頼めば確実に聞いてくれるでしょう。
……逆に言えば、ロクに確信も無く『美味しいワインを教えて』と言ってもスルーされてしまいます。
彼女の胸ポケットには財布が入っており、中には小銭が数枚と、健康保険証が入っています。
名前は『真栄原 優希(まえはら ゆき)』となっています。
この『ユキ(優希)』は本当に彼女の名前ですが、漢字や名字は探索者を惑わせるために用意された偽物です。
探索者が保険証の名前の部分を指し、『これは君の名前か』と問えば、彼女は首を横に振ります。
しかし、『優希(ゆき)』という名前なのかと問えば、彼女は首を縦に振るでしょう。
不自然なほどに物がなく、障害物という概念が存在しないような部屋です。
天井は非常に高く、《目星》を行う必要すらなく、奥に一枚の扉があることを視認できます。
この部屋に入った探索者は聞き耳ロールを行います。
成功すれば、ひゅうひゅうと吐き気を催すような笛の音が絶え間なく流れている事に気づくでしょう。
これは『地下の暗黒世界の恐怖』とも称される怪物、『飛行するポリプ(ルールブックp.187297)』が室内を飛び回っているためです。
彼は常にこの音を吹き鳴らし、この音とともに行動します。
腐った朽木を引き抜いたような姿。
宙を飛び回るそれは、翼を持っていませんでした。
得体のしれない、顔と呼べるものがあるのかすらもわからず。
頂点にはたくさんの目玉があり、その下には縦に開けた口と、横に開けた口。
そのどちらからも呼吸を行っているようでした。
そしてそれは、聞き難い…吐き気を催すような、あざ笑う笛の音のような音を、絶え間なく撒き散らしています。
あまりに冒涜的なそれは、君たちの住む正気の世界には、あり得べからざるバケモノでした。
危険極まりないこの怪物を目撃した探索者は、正気度を《1d3/1d20》喪失します。
当然ながら、彼との遭遇は最悪の結果とも言えるでしょう。
ポリプは現在のところ、探索者には興味を持っていません。
しかし、彼とぶつかってしまったり、不注意な行動で彼の行動を引いてしまった場合、荒れ狂う暴風のような彼の攻撃を受けることになります。
彼に目をつけられ、生き残ることが出来るのは非常に稀なケースです。
探索者が室内を行動する場合、《聞き耳》を立てることにより、彼の位置を推察することが出来ます。
この部屋の奥行きだと、探索者が3回の聞き耳に成功すれば、ポリプにぶつかることなく奥の部屋までたどり着けるでしょう。
ただし走って向かう場合、ポリプに確実に気づかれてしまいます。
その場合、ポリプから2回の攻撃を受け、それでも生きていれば奥の部屋までたどり着けます。
……もっとも、帰ってくるときも同じ手順を踏む必要があるのですが。
ポリプの位置を察することが出来なければ、ポリプと接触する可能性があります。
キーパーは2d6をロールし、その結果を秘匿。探索者側も2d6をロールします。
その中の数字が、ポリプと探索者にどれか1つでも一致すれば、不幸な探索者はポリプと接触してしまいます。
不可視状態を解いたポリプは、探索者を八つ裂きにしようとすることでしょう。
無事に奥の部屋へたどり着いた探索者は、おもてなしを受ける権利があります。
そこは穏やかなキッチンのような部屋で、中央に大きなテーブルが1つだけ配置されています。
テーブルクロスの上には、山盛りの魚と玉ねぎのフライ、甘いココアが5人分(探索者の人数+黒猫の分)。
いずれの料理も新しいものらしく、湯気をもうもうと立てているでしょう。
そしてメッセージカード代わりに、一枚の羊皮紙が用意されています。
羊皮紙にはこんな内容が綴られています。
『かわいい黒猫へのおもてなし』
『みんな揃って召し上がれ』
《知識》に成功すれば、猫に玉ねぎやココアを食べさせるのは厳禁だと知っています。
プレイヤーが知っていれば、このロールは行わなくても良いでしょう。
このイベントは、『黒猫』が人間であることのヒントとなっています。
実のところ必須なイベントではなく、人によってはこの部屋を訪れずともクリアは可能です。
この部屋には照明が存在せず、薄暗い地下室のようになっています。
中央の部屋から差し込む明かりを通し、辛うじて見える範囲には、6芒星の形に6つの番号がつけられた本棚が配置されているのが窺えるでしょう。
見える範囲はそれくらいです、奥の部屋への扉があることは伝えないで構いません。
探索者が明かりを点けるか、部屋の奥へ進んで調べた場合のみ、それは発見が可能です。
この部屋には『宇宙からの色(基本ルールブックp.169278)』が巣食っており、獲物を待ち構えています。
部屋に入った後で《アイデア》のロールに成功すれば、床一面が微かに輝く事に気づけるでしょう。
宇宙からの色は、非常に手際良く攻撃を行う怪物です。
探索者が本を読んだり、何かを調べたりする度に、色に攻撃のチャンスが生まれます。
宇宙からの色のPOW(初期値は21105)と探索者のINTで対抗ロールを行い、失敗すれば1d6MPと1d6正気度を吸いあげられてしまうでしょう。
こちらの攻撃で吸収したMPは、宇宙からの色のPOWに一時的に加えられます。
もう一つの攻撃手段として、宇宙からの色のPOWと探索者のMPを比べ、それが1050を上回るごとに、
探索者からSTR・CON・POW・DEX・APPをそれぞれ15ポイント吸収し、HPも1d6吸い上げる、というものがあります。
攻撃するたびに宇宙からの色はますますタフに、攻撃はますます苛烈になっていくことでしょう。
《描写サンプル:宇宙からの色の攻撃》
生ぬるい蒸気のような物が、口の周りを包み込んだ気がしました。
すると君たちは吸い取られるような感覚、焼けつくような感覚をはっきりと認識します。
突如として顔が落ち窪み、肌が老化してヒビが入り、ピキピキと割れた肌から血が滲み、皺が生まれます。
立木が枯れていくのにも似たそれは、貴方たちに自身の末路を想像させるでしょう。
常識では考えられない、この急激な老化現象は、正気度を《1/1d8》喪失させます。
この本の巻末には、一本の純銀のナイフが挟まっています。
本を読んだ探索者は《刀身を清める(ルールブックp.273252)》の呪文を獲得し、1d3正気度を失います。
呪文のためには15POWと1d4正気度に加え、SIZ1050分の動物の血が必要です。
探索者たちがナイフで自身を傷つければ、SIZ15=1ダメージ換算でそれを捻出出来るでしょう。
また、NPCのねこたちから血を得る手段もあります。
もっとも、意思に反すれば彼らは非協力的になりますが。
そうして得た聖刀を振るえば、『色』にダメージを与えることが出来るでしょう。
……ただし彼らがどこにいるか視認し、上手に攻撃できればの話ですが。
そして宇宙からの色には、そもそも『体力』という概念すら存在しないのですが。
この本には、《セイレーンの歌声(ルールブックp.267※第7版には存在しない呪文なので、発動コストは《犠牲者を魅了する(ルールブックp.242)のものを代用とします)》)》の呪文が記載されています。
呪文の使い手が歌うようにして詠唱を行えば、POWの対抗ロールに失敗したものは、詠唱者のことを自身が求める全てだと思い込んでしまうのです。
呪文の効果が発揮されれば、『色』もまた、詠唱者のことを自分の求めるすべてだと信じてしまうでしょう。
それはそれは素晴らしい『エサ』だと。これにより、仲間に向くはずだった攻撃は、すべてその人物に向かいます。
この呪文は他の部屋でも使うことの出来る優秀な呪文です。
使用した探索者を嬲り殺しにする代わり、怪物たちは他の探索者を見逃してくれるのですから。
古ぼけたこの本の巻末には、火打ち石が入っています。
本を読んだ探索者は《炎の精の召喚/従属(ルールブックp.283245)》の呪文を習得します。
まるで星が流れるように、どこからともなく炎の精を出現させる呪文です。
この呪文を使うには、篝火あるいはその他の炎が必要ですが、火花程度でも構いません。
炎の精が現れると、特に命令を下さずとも、部屋は突如として真夏の日の下のような明るさになります。
宇宙からの色は恐怖し、たちまち地面に染みこんで、避難してしまうでしょう。
とある無名の研究者の記した、隕石から生まれた謎の存在との戦いの記録です。
……宇宙の果てからやってきた、生命力を喰う怪物。
地球という餌場を見つけ、我々がそうしてきたように先住民たちの命を喰らう。
それが地球に還元される事は無く、喰い終わると宇宙に帰っていく。
自然法則の違う世界から来た彼らには、あらゆる攻撃手段は通用しない。
水中や溜池など、暗くて涼しい水場に潜むことが多いため、電流での攻撃を用いた事もあるが、無駄に終わった。
一時的な足止めに過ぎなかったのだ。
強い磁場を生み出す事で彼らを閉じ込めることが出来るらしいが、
それも一時しのぎの手段であるゆえ、やはり適当なエサをやって帰ってもらうのが一番だろう。
《目星》を使えば、この部屋の隅に磁場発生装置を見つけられるでしょう。
もっとも、それを破壊しても、色は目の前のエサをまず喰らおうとするでしょうが。
そして自らを拘束する枷から放たれた『色』は、中央の部屋までも溢れ出ることが可能となります。
未開の湿地の調査へ向かった探索隊が出会った、不思議な生物についての回顧録です。
……きらきらとした微かな輝きのそれは、我々には視認することが出来なかった。
我々はただ、迂闊にそこに近寄った不運を呪う事しか無かったのだ。
錯乱した隊員たちが暴れ回り、ある者は自身の体に火を灯し、怪物から逃れようとした。
またある者は水の中に飛び込み、その場から逃れようとした。
今こうして我々が生還出来たのは、どちらかの選択が怪物を追い払う手段として機能したからだろう。
犠牲となった彼らに感謝し、この本を終わる。
『泉に潜むもの』と呼ばれる存在に際する記録です。
イギリス、セヴァンの谷の湖底に棲むのは、グラーキと呼ばれる存在である。
死者の教団を率いる彼は、日々新たな教団員を探し求めている。
彼は自身の体液を摂取させる事により、新たな不死者を創りだすのだ。
決してそれを飲んではならない。
決してそれを摂取してはならない。
もし摂取してしまえば、待つのは永遠の地獄。
グラーキの奴隷としての、永遠の隷属なのだ。
この本を読んだ者は、正気度を《1/1d3》失い、さらに《クトゥルフ神話》を3%得ます。
さらに《アイデア》に成功することにより、あの部屋に何故3本のワイン樽があったのかに気づけるでしょう。
あの樽の中には偽物が混ざっており、その中にはきっと、グラーキの体液が含まれているということに。
この事に気づいた探索者は、正気度をさらに《1d2/1d4》失います。
本の部屋の奥は、丸いコルクのテーブルと一冊の本のみで構成された簡素な部屋になっています。
テーブルの上に載せられているのは、『黒猫の白ワイン』と題されたハードカバーの本です。
質の良い葡萄と、そこから生産されるワインが銘産のとある村。
人と猫が仲良く暮らしている事でも有名なその村に、ある時大きな災厄が振りかかる。
最初にその事に気づいたのは、一匹の黒猫だった。一本の葡萄の木の近くで、彼女は息絶えていた。
口には一粒の葡萄が含まれ、半分歯の食い込んだそれからは、血のような果汁が滴り落ちていた。
その隣には、一匹の渡り鳥が崩れ落ちていた。嘴を開けてみると、そこにも一粒の葡萄。
村人たちは理解した。誰かが葡萄の木に毒を含ませたのだ。
犯人は隣村の住人だった。痩せた土地に住み、質の悪い作物しか生産せず、改善策を講じることも怠ってはいたものの、彼らは一人前の嫉妬心を持ちあわせていた。
ゆえに、質の良い葡萄の木を滅茶苦茶にし、憂さ晴らしをしようと企んだのだ。
彼らの計画は成功し、毒を含まされた葡萄の木は次々と枯れて行き、果実を啄む鳥たちも命を落としていった。
猫たちは痩せ、村人は貧困に喘ぎ、行商人たちは質の良いワインを買い求められずに困り果てた。
村人たちは相談し、■■■の女神へと救いを求める事にした。
供物を用い、猫たちと入念な打ち合わせを行い、■■は無事に成功。
隣村は壊滅し、大量の肥やしを得た土地は命を吹き返し始めた。
以来、その土地のワインには、猫たちへの感謝を示すラベルを貼る決まりになった。
犠牲となった一匹の黒猫。彼女のラベルの白ワインは今もなお、人々に愛され続けている。
元ネタは『ツェラー・シュヴァルツェ・カッツ』という実在の白ワイン。
……なのですが、伝承的にはほとんど関係がありません。
この本の文面は、『黒猫』が『彼女=メス』であることのヒントになっています。
探索者へは秘匿されることですが、『■■■』『■■』の中にはそれぞれ『猫たち』『召喚』が入ります。
猫の女神『バースト』の力により、隣村は壊滅してしまったのです。
探索者が選ぶべきなのは、『黒猫の選んだワイン』です。
しかしその黒猫とは、単純に中央の部屋にいた『黒猫』を示したものではありません。
『黒猫』とは、目の紋章の部屋で見つけた少女の事を指しているのです。
その答えを導き出すためには、危険を冒しての探索の成果が非常に役に立ちます。
探索者が得られる情報は以下の通りです。
『目の紋章の部屋』:少女がいた。彼女については正体が不明である。
『耳の紋章の部屋』:『黒猫へのおもてなし』が用意されている。しかし、猫には食べられない品物である。
『本の紋章の部屋』:『黒猫の選ぶワイン』がどうやら正解らしい。また、『黒猫』は『彼女』である。
それらの条件に当てはめ、検討すると……
『くろねこ』:黒猫ですが、オスなので除外されます。また、『おもてなし』を受けられません。黒いけど。
『みけねこ』:メスですが、『おもてなし』を受けられません。そもそも黒くないし。
『とらねこ』:メスですが、『おもてなし』を受けられないのは同様です。こっちも黒くないし。
『少女』:メス……というよりは女性で、『おもてなし』を受けることが可能です。黒くは見えませんが、本当の姿を隠しているのなら……
3匹のねこは、それぞれ自身のいた樽が正解のように振る舞います。
ですが、それらはすべてニセモノで、ねこはグラーキの体液が混入された事を知りません。
本物の樽への道を出現させるには、目の前の樽を決められた順番で動かす事が必要です。
この順番どおりに樽を動かすことは、少女にしか不可能です。運任せで正解を選ぶ事は出来ないのです。
ただし、不慮の事故で少女が死んでしまう事もあるでしょう。
その場合の選択肢については後述します。
3つの部屋全てを巡った……『この樽たちの中に正解は無い』と確信した探索者は《目星》で壁を調べることが可能です。
扉の隠された壁は少し薄くなっているため、《こぶし》や《キック》で簡単に破壊する事が出来るでしょう。
ただし、この方法の場合、壁の裏側に隠されたグラーキの毒棘を攻撃してしまう可能性が30%あります。
毒棘を攻撃すれば、たちまち7d3ポイントのダメージが発生し、たいていその探索者は死んでしまうでしょう。
もし耐えられたとしても、体内を巡る毒に昏倒し、動けなくなってしまいます。
もしも最初の場面で探索者が『壁を調べる』と言い出した場合ですが、
『壊れた壁の一部から毒棘が覗いている』などの情報を伝え、3つの部屋の探索に向かうように勧めると良いでしょう。
この方法も、グラーキの怒りを買うという面では奨励されるものではありません。
ですが、かの神格を怒らせるという事は、彼の勧誘対象から外されるということでもあります。
ワイン樽を全て破壊すると、壁という壁から部屋を埋め尽くすように毒棘が迫り出し、探索者を串刺しにしてしまいます。
全身の血液が沸騰するような苦痛と共に、探索者の意識は現実世界に帰るでしょう。
グラーキは探索者に対し、『お前たちなどはいらない』と告げたのです。
ただし、この方法で生還する場合、POW*5のロールに成功しなければなりません。
失敗した場合、その探索者は死の苦痛により精神が崩壊してしまい、廃人として生還することになります。
少女が決められた順番で樽を動かすと、探索者たちの背後……目、耳、本の部屋の対面に扉が現れます。
中には芳醇なぶどうの香りが満ちていて、中央には一つの樽。
高貴な黒猫の紋章の彫られたそれは、優雅に佇んでいるようにすら見えるでしょう。
入っているワインは、透き通るような白ワイン。
このワインを飲めば、探索者は天にも昇るような心地を味わい、夢から目覚めることになります。
死亡した探索者も現世で目覚めることが可能で(夢の中とは言え、死を体感した事により正気度を固定で5ポイント喪失します)、
目覚めた探索者の隣には、黒猫の紋章の入った白ワインのボトルが置かれています。
1d6+3正気度と『黒猫の白ワイン』のボトルを得て、シナリオは終了します。
飲むと即座にHPを3ポイント回復させることが可能です。
ただし、代償としてPOWを15ポイント喪失させてしまいます。
対象が気絶しているなら傷口に振りかけても構いません。
1度使うと、中身は駄目になってしまいます。
そうなれば、いくら中身が残っていようと、ただの不味いワインに過ぎません。
芳醇な香りの美味しいワイン。
それを飲んだ人間は、グラーキの体液をたっぷりと吸収します。
生きている人間が飲めば、たちまちその精神と肉体はグラーキの忠実な下僕へと変化してしまうのです。
彼らの血液には、本体ほどでは無いものの、グラーキに対する親しみと忠誠を生み出させる作用があります。
さらに、下僕は『門の創造』の呪文を獲得します。行き先はもちろん、イギリスのセヴァンです。
夢から目覚め、新たな使命に目覚めた探索者たちの枕元には、一本のワインボトルが置かれています。
親愛なるグラーキからのプレゼント。彼の友人を増やすための貴重な一本です。
下僕は『親愛なるグラーキ』の『友人』を増やすため、知人を誘ってワインを飲みたがるかもしれません。
ワインボトルを破壊することは探索者には不可能で、もしもそんな行為に及ぼうとすれば、即座にセヴァンのグラーキと精神を同化させられてしまいます。
探索者の尊厳を守るために、キーパーは彼らが自殺することを許可してあげても良いでしょう。
ただし、ワインボトルはその場に残ります。彼らの友人や知人が、不審なそれをどうするか?
それは誰にも分かりません。
分かりやすい危険と困難に満ちたシナリオです。
道中で結末でみな帰れぬ人となってしまう可能性も多々あるでしょう。
その分、達成感のあるシナリオだとは思っています。
何かありましたら、ツイッターまたはWeb拍手よりお寄せください。
全滅してしまった場合、誰も目覚めることは出来ません。
契約拒否を表明出来るものがいないため、夢の世界から解放されないのです。