不浄の苗床
0.このページについて
シナリオもどき『不浄の苗床』の公開ページです。
当サイトの他のシナリオと同じ形式で書かれていますが、こちらは時間の都合でテストプレイが済んでいない不完全な品です。
そのため実際に回すことも可能かもですが、小説みたいに読み物として読まれることをオススメします。
また、自由度が低くNPCが目立つシナリオなので、その辺りが苦手な方にも推奨されないです。
1.シナリオ概要
1920年代の冬のアメリカ、海上が舞台です(具体的にどの辺か、は省きます)。
釣り、あるいは何らかの調査で帆船を借りた探索者たちは急な凪に捕まり、海上で立ち往生。
そこに通りかかった客船に助けられますが、そこは『シャッガイからの昆虫』のための体を生産する工場だったのです。
彼らに目をつけられた探索者たちは船内からの脱出を図ります。
水死、溺死などが発生する可能性のあるシナリオなので、水泳技能の取得が推奨されます。
また、<射撃系技能><ボートの運転技能>や<機械修理>に活躍の機会が存在します。
2.あらすじ
潮風が止まった。沖に出た帆船にとって、それは絶望を意味していた。
見渡す限りの青。陸の見えない洋上。時折吹くそよ風があざ笑うかのように頬を撫でる。夕日が沈み、暗く染まり始める景色。
不安が怒りに変わり、致命的な暴行が起こるのも時間の問題に思えた。
その時、誰かが一隻の船を視界の果てに見つけた。
彼らは大声を上げ、衣服を脱いで旗とし、死にものぐるいで助けを求める。
声が通じたか船は進路を変え、取るに足らぬ釣り船へと向かい、はしごを下ろした。
甲板に迎え入れられた彼らに湧き上がったのは、心からの幸福感。
だがそれは、この船に乗り合わせた全ての人間が覚える感情であり、最期に味わう感情でもあった。
3.シナリオの背景
シャッガイからの昆虫(シャン)。崩壊する母星から逃れ、地球へ降り立った種族である。
彼らにとって地球の環境は満足の行くものではなく、常に母星へと帰る手段を探している。
脆弱で、地球の大気の中では遠くまで飛ぶことも出来ない彼らの武器は、寄生能力である。
彼らは対象が『巨大な虫を見た』と感じた瞬間にはすでに、対象の体に寄生を済ませることが出来る。
そして毎夜恐ろしい映像を彼らの脳に流し込み、最後には自我を完全に破壊してしまう。
今回登場するシャンの一団は、彼らの中でも進歩的を自称するグループである。
彼らは発展を続ける人間たちの力に目をつけ、帰還のための手段として利用することを考えた。
そのために人間社会に溶け込み、彼らが宇宙開発に目を向けるように工作を行っているのだ。
ウェル・ティルトン号は彼らのコロニーの一つである。
船内では彼らが人間社会で使うための体を繁殖させ、数を増やしている。
繁殖に使うのは世界各国から集めた、様々な国籍の人間たちである。
シャンはティルトン号の寄港先で違法ギャンブルや薬物に加え……
社会では到底容認されない堕落的行為の噂を流し、人間たちが集まってくるように仕向ける。
集まった人間同士を交配させ、出来上がった素体を使って彼らは活動を行っていた。
ある時、ティルトン号はバレッジポートという町に寄港する。
しかしそこはギャングの支配領域であり、酒を運び込むのに邪魔な船は排除の対象となっていた。
無論、シャンたちがそんな要求に応じるはずもない。
彼らは脅迫に訪れたギャングたちを洗脳し、仲間だった者たちを殺害させる。
以降ギャングが訪れることはなく、彼らは満足して町を去っていった。
話はこれで終わりだろうか? いや、そうではない。
ギャングたちは当然報復を考えていた。
しかし港で騒ぎを起こせば、地元の警察だけの口封じでは済まない。
それに港にいたメンバーは確かな忠誠心を持っていた。
船に潜入させれば何らかの懐柔を受け、また同じ騒動が起きるかもしれない。
それを恐れたのだ。
思案の末、彼らは回りくどい手段を取ることにした。
それは船内で行われる違法行為の証拠を掴むこと。
『警察がティルトン号を捜査せざるを得ない状況にする』ことで、互いに潰し合わせるのだ。
ダニエル・キャリントンは刑事でありながら、ギャングたちの協力者でもあった。
彼は正式な捜査手続きを取り、偶然を装いティルトン号へ乗せてもらうことに成功する。
そして本物の偶然により、探索者たちもまたティルトン号へと足を踏み入れたのだ。
4.登場人物
ダニエル・キャリントン、33歳、汚職刑事
STR:16 DEX:14 INT:17
CON:15 APP:16 POW:10
SIZ:18 SAN:39 EDU:16
HP:17 MP:10 db:+1d6
バレッジポートの警察の人間であり、有能で頼もしい刑事である。
いつもニコニコと笑っており、優しく話しやすそうな印象を受ける。
一方で彼はギャングと通じており、彼らの違法行為を隠蔽し、時には自ら手を汚している。
「犯罪が行き過ぎないようコントロールする」というのが彼の言い分であるが、報酬はしっかりと受け取っている。
(そして意外にカネにうるさい)
探索中にメモを取るくせがあり、探索者が【誰かに調査報告をする立場】と考える手がかりになるかもしれない。
地元にシンディという妻がいるが、彼が出張から戻ってきたときには行方不明になっていた。
寂しさと退屈な暮らしに飽き、自らティルトン号へと足を踏み入れたのだ。
シャッガイからの昆虫、崇拝する昆虫
はるかシャッガイ星より飛来した、昆虫の姿をした種族である。
彼らは有機的なものと融合する能力と、小さな体からは想像も出来ない優秀な科学力を持つ。
融合能力はおもに人間の脳に使用される。脳髄を完全に支配できれば、その人間は自在に操れるということである。
ただし、脳の神経パターンにはバラつきがあるため、融合が完了しても即座に全てを操れるようにはならない。
そして融合を解除するためには、急いでも数分の時間を必要とする。
解除中、犠牲者は脳をフォークで掻き回されるような苦痛を味わうことになる。
シャンのしもべ、自我なき追跡者
シャンに寄生され、発狂してしまった人間の成れの果てである。
すでに正常な思考能力は失われ、簡単な命令を実行することしか出来ない。
ティルトン号に乗船したもののうち、生殖が不可能な人間は即座にこの状態に変えられてしまう。
そのため大部分は老人であり、身体能力は低い。
ステータス算出の際は、本来3d6で振るステータスを2d6にするといい感じになるだろう。
特筆しない限り彼らは武装していないが、武装した個体は45口径のオートマチック拳銃を所持している。
銃の詳細なデータは基本ルールブックのp.70を参照すること。
◆ハウスルール<簡易戦闘>
このシナリオ上での戦闘は、思い切り簡略化して行う。
なぜかというと、TRPGの戦闘は時間が掛かるからだ。
ステップ1:射撃チャンスの宣言
簡易戦闘が開始される時、キーパーは互いの<射撃チャンス>の回数を宣言する。
これは両者が隣接するまでの時間に何回射撃できるかを示した数値である。
銃の所持者はこの回数分、射撃を成功させるためのロールを行う。
ただしリロードが必要となる場合、その所持者の射撃チャンスはそこで終了する。
この時プレイヤーは、探索者の<射撃系技能>の値を減らして身の安全を図ることが出来る。
それはすなわち遮蔽物に身を隠したり、映画のように派手な回避アクションを取りながらの射撃をするという宣言である。
減じた分の値は、そのままその探索者を狙う<射撃系技能>の命中率から減算される。
射撃チャンスを処理している間、他の行動は一切取ることが出来ない。
人間のどんな行動よりも銃弾の方が早いのである。
ステップ2:命中判定
互いが射撃を終えると、それがどれだけ命中したかの判定に移る。
<回避>は射撃チャンス中に何回でも試みることが出来る。
ただし、1度行うごとにその射撃チャンス中の成功率が10%づつ減少していく。
ステップ3:ダメージ計算
最後に受けたダメージを算出する。
処理の最中に死亡したとしても、その人物の攻撃が中断されることにはならない。
彼は最後の力を振り絞り、敵に攻撃を行っているのである。
この時点でどちらか一方が全滅していれば、簡易戦闘は終了する。
全滅していなければ、それぞれの<攻撃系技能>を用い、ステップ1からもう一度繰り返す。
つまり全員が射撃系技能の代わりに攻撃系技能をロールし、命中とダメージを一斉に処理するのである。
5.導入
甲板に上った探索者たちは、案内役らしき若い男性に2階建ての客舎の2階の部屋へと案内される。
甲板はだだっ広いが夜闇で見通しが悪く、視認できるのは煙突くらいのものである。
船内には甲板を除き、薄暗いながらも明かりが灯っている。
客室は豪華な飾り付けのされた狭い部屋であり、ベッドは2つしかない。
窓からは乗ってきた船がおぼろげな影ながら見える。
探索者たちが部屋に入ると、先客のダニエルに出会うことになる。
「同じように遭難していたため、救助した」……事実は小説より奇だとは言うが、彼はそんな偶然を信じない。
表向きは探索者たちを気遣うものの、腹の底では別の組織の工作員を疑い、警戒することになる。
案内役は「温かいスープをお持ちします」と言って出ていく。
探索者たちとダニエルは、互いの腹を探り合うことになるだろう。
案内役との会話
にこやかに微笑みかけ、自然と好感を抱くような語り口。
心理学をロールしても、自分たちのことを心の底から心配してくれているように思えるだろう。
実際その通りである。その自我が怪しいことを除けば。
・ここは「ウェル・ティルトン号」という客船である。
バレッジポートという町に寄港していたが、昨日出発したところだ。
(バレッジポートは探索者たちの出発点から相当離れた町である)
・5日後に別の港に停泊する予定なので、それまで空いている客室で過ごしてほしい。
・同じように遭難していた人間が先客としているが、仲良くしてほしい。
・(ベッドの数について聞かれて)他に空いている部屋がないので、申し訳ないが我慢をしてほしい。
・(外出できるかについて聞かれて)巡回中の警備員に伝えてくるので、それまで我慢をしてほしい。
・(先客について聞かれて)同じ日に遭難とは奇妙な偶然もあったものだ。
ダニエルとの会話
基本的に穏やかで、ジョークを交えて感情豊かに喋る。
しかし時折、別人のように目つきが鋭くなることがある。
<人類学>に成功すると、荒事や他人の内心を探ることに慣れていると分かる。
探偵や警察、あるいは裏社会の人間ではないかと推察出来るだろう。
・自身も釣り客で、同じような事情で遭難し、船は係留してもらった。
・船内については詳しくなく、ここに着いてから一度も外へ出ていない。
・(なぜ出ないのかと聞かれて)出る気にならなかったからだ。
・指輪をしていることから妻帯者と分かるが、その話をすると険しい表情になり、深くは語らない。
・(ギャンブルやカジノについての話題を振り、探索者たちの反応を伺う)。
6.異変の始まり
会話シーンにプレイヤーが痺れを切らしてきたか、部屋のドアを開けようとしたころに発生する。
そうとう時間が経つのに、案内役が戻ってこないのだ。
不審に思っていると、窓の外から何か重たいものが動いたような音が聞こえる。
窓の外を見て<目星>に成功した探索者は、係留されていたはずの釣り船が流されていく光景を目にすることになる。
こうなればジッとしているわけにもいかないだろう。
外に出るためのドアには支え棒のようなものがされており、鍵を開けても出ることは出来ない。
STR15との対抗に成功することが必要である。
消えた船
ダニエルに「君の乗ってきた船はどうなったのか」と尋ねた場合に発生する。
すると彼はキョトンとした表情で「俺は港でティルトン号に乗ったぞ」と答える。
矛盾について追求すると、彼は確かに矛盾しているが、どちらも記憶があると言い始める。
嘘をついているようには思えず、騙そうとしたにしては矛盾があからさま過ぎる。
7.襲撃
大きな音を立て廊下に出た探索者たちは、4人のシャンのしもべたちと遭遇する。
彼らは武装してはいないが、一切の表情がなく、掛けられた言葉に答えることもない。
ただシャンの指示通り、探索者たちを抑え込んで拘束しようとするのみである。
彼らは銃撃を受けても自らを顧みることも、ひるむこともない。
両手両足を撃ち抜かれようが、芋虫のように這って探索者たちに噛み付こうとするだけだ。
シャンにとって彼らの価値などその程度なのだ。
彼らへの射撃チャンスは3回だが、まごついていると2回に減る。
隣接した場合、彼らは60%の<締め上げる>攻撃(不可能なら25%の<噛みつき>攻撃、1d4ダメージ)を行う。
これは1d6+dbダメージのノックアウト攻撃である。
ダニエルは躊躇なく発砲し、急所を避けようともしない。
8.ウェル・ティルトン号<客舎>
全員の無力化が済めば、今後の相談となる。
廊下には下階を含め、さらに4人の奴隷が徘徊しているため、退屈しないようなタイミングで襲撃させると良い。
彼らの武装についてはキーパー任せとなるが、概ね先程のものと同じく無しで構わないだろう。
客室の内装は初めの部屋と似通っており、荷物や生活の痕跡こそ残されているものの、人っ子一人見当たらない。
いくつかの荷物からは役に立ちそうなものを発見出来る。
ひとつ目の日記
「まさにここは天国だ。美味い酒にギャンブルに美女! 乗れたことは人生最高の幸運だった」
「ただ、夜が辛い。不気味な夢ばかり見る。しかも異様にリアリティがある」
「体を這い上がってくる巨大な虫。あの足が肌に刺さるような、チクチクとした感覚を今でもハッキリ覚えている」
「それに昨日なんて銃声で叩き起こされた。地元のギャング連中が因縁をつけにきたと専らの噂だ」
「だがまあ、割り切るとしよう。この調子なら、下船した頃には大富豪だ!」
ふたつ目の日記
「ウェル・ティルトン号。表向きは客船だが、その実は合法違法を問わないカジノ船……」
「噂を聞いて乗船したのは大正解だった。ディーラーは節穴ばかり。テクニックは使いたい放題だ!」
「しかしここに乗ってからというもの、悪夢ばかり見るのが気になる。罪悪感でも覚えているのだろうか?」
「数日前は大きな虫が顔に飛んできたと思ったら消えてしまった。疲れているのだろうか……」
ダニエルに日記の内容について尋ねると「まさかカジノがあったとは」としらばっくれる。
みっつ目の日記
前半は上記2つのような内容が書かれているが、徐々に文字が乱れていく。
「虫が飛んでいた。バスケットボールくらいの大きさだったからチカチカまたたいた」
「俺は見えていたから悪夢を見るばかりで見えるようになったんだと俺の口で虫が言った」
「俺は虫が俺に言う。おまえの頭、が狂っているから、たすけてくれると俺は信じてるから俺は助けないとならないから」
「もうたくさんだ虫だらけで頭痛がひどく俺は悪夢を耳なりが叫び声が苦しい俺は聞こえて痛い痛い痛い痛い助けて」
狂気的な文に触れた探索者は0/1正気度を失う。
ダニエルに日記の内容について尋ねると「その虫なら確か、廊下で見たぞ」と教えてくれる。
一度も客室から外に出ていないはずなのだが、確かに見た記憶があるのだという。
引きちぎられたロザリオ
ちぎれたロザリオがベッドの隙間に挟まっているのを見つける。
ダニエルがそれを見ると、血相を変えて突然奪い取る。
突然の乱暴に驚くと、「あ、いや……これはそう、貴重な品だと思ったんだ。非常に高価な……」と誤魔化そうとする。
確かに細工が施されたロザリオだが、さほど高価なものには見えない。だが彼は頑として価値があると言い張り、決して渡してくれない。
荷物を調べると、どうやら女性の持ち物らしいと分かる。
9.ウェル・ティルトン号<甲板>
夜中ゆえ見通しは悪く、見渡すことはほぼ不可能である。
甲板上は3人のシャンのしもべが徘徊しており、探索者たちを見ると襲いかかってくる。
戦闘を回避することも出来るが、排除しても特に問題はないし、むしろ後々楽をすることが出来る。
ここで見つけられるのは4つの救命ボートであり、それらは使用可能な状態になっている。
甲板上のウインチを操作することにより、海上へ降ろすのである。
しかし良く調べると1つを除き、底面に穴が空けられていると分かる。
拒絶反応
徘徊するシャンのしもべを無力化した後に発生する。
男性の悲鳴が聞こえ、そちらを向くと案内役の男がいる。
彼は両手を振り回し、何かに襲われているかのように「やめろ!」「助けてくれ!」などと叫ぶ。
振り回した手があちこちにぶつかり、手の皮が破れ血が流れても彼は気にする様子はない。
そしてひとしきり叫ぶと、何事もなかったかのように徘徊に戻る。
この狂乱を目撃した探索者は、0/1d2正気度を失う。
探索者たちが近寄ろうとした場合「ヒッ……! ば、バケモノ! くるな、こっちに来るな!」と恐怖に引きつった表情で叫ぶ。
そしてパニック状態のまま海へ飛び降り、助ける間もなく、すぐに溺れて死んでしまう。
彼の異様な死に様を目撃した探索者は、さらに1/1d3正気度を失う。
無知の代償
この時点で救命ボートを甲板から下ろし、脱出することが可能となる。
本来、ダニエルは妻を探さなければならないため、船を降りるはずはない。
そこまで知らずとも、彼がこの船に何らかの目的を持って乗船したことは、傍から見ても明らかである。
しかし脱出しようという意見が出ると、彼は平然と賛同し、船に同乗しようとする。
だがダニエルを同乗させれば、待つのは悲惨な運命だ。
脱出に成功した探索者たちは、ティルトン号が離れていくのを見送る最中、ダニエルが気味の悪い声で笑いだしたことに気づく。
そして「手間を掛けさせてくれる」と彼が異様な笑みを浮かべた途端、大きな虫が飛んでくるのが目に入り……
陸に辿り着くころ探索者たちは、もはや人間としては死んでしまっている。
シャンのしもべに新たな顔ぶれが加わったのである。
穴の空いたボートで海に出た場合、ボートは沈没する。
<水泳>技能に希望を託そうとするかもしれないが、泳いで辿り着くには陸地が遠すぎる。
そのため、どれだけ上手に泳げようが溺死する運命をたどることになる。
もしもダニエルを同行させず、正しいボートを選んで脱出に成功した場合。
シナリオはそこでクリアとなり、探索者たちは1d4正気度を獲得する。
だがこの船で何が起きていたのか。そして何が行われ続けているのかを彼らが知ることは永久にない。
ある意味、これがもっとも幸福な結末なのかもしれないが。
10.ウェル・ティルトン号<カジノ>
甲板から階段を降りると、船内に作られたカジノへ辿り着く。
一見して普通のラウンジだが、酒やギャンブル用品などがいくらでも見つかる。
用品を調べると細工が施されており、ディーラーの気分次第で当たりを出せると分かる。
違法行為の証拠としては弱いが、ダニエルはいくつかの品を懐にしまい込む。
カジノの奥にはスタッフルームへの扉がある。これは罠であるが、有力な情報源でもある。
扉の奥には3人の銃を持ったシャンのしもべが待機しており、探索者たちが入ってくると先制射撃を行う。
この罠を察するためには、ドア越しの<聞き耳>ロールを行う。
彼らの体は人間のものであるため、どうしても音が発生するのだ。
彼らはドアさえ開けなければ絶対に攻撃してこない。
カジノ内の消火器をドアの隙間から噴射したり、あるいはギャング映画の悪玉のように、ドア越しに射殺を試みるてもいいだろう。
スタッフルーム内は休憩所のように見えるが、息抜きのための品が何一つ見当たらない異質な空間である。
ここには『在庫帳』と書かれた革製のノートと貨物室のキーが置かれている。
【キングスポートに寄港、確保数は男5・女4】
【カジノ船の噂が功を奏し、確保数が増えたとみられる】
【通常通り、生殖不可の個体は船員として使用】
【バレッジポートに寄港、確保数は男3・女7】
【武装集団が訪れ、港からの退去を要求。船員1体が死亡。来訪者の体を使用し報復】
【航海中、さらに男1体を確保。記憶を確認したところ、集団の関係者】
確保された、集団の関係者という点をダニエルに追求すると、警察のことだと言う。
彼は警察官としての身分を証明することが可能なため、それで探索者たちに信用させようとする。
しかし『武装集団』と称され、船員を殺害した集団が本当に警察なのだろうか?
探索者たちがギャングなのではないかと追求すると、彼はようやく真相を白状する。
そして彼らが妻を助けたければ船に乗れ、と脅したのだと教えてくれる。
ダニエルは彼らが妻を誘拐したと考えているが、その口調にはどこか不安の色が滲む。
なぜなら、この船の中にあるはずのないもの……ロザリオを見つけたからである。
11.ウェル・ティルトン号<ボイラー室>
一階の階段を降りると、両隣に「ボイラー室」「貨物室」へのドアを見つける。
ボイラー室への扉を開けると、大きな炉と石炭をくべる作業員がまず目に入るだろう。
この作業員は既に自我を喪失しており、最優先命令である『炉の管理』を行い続けている。
そのため炉を攻撃しない限り、彼らが襲撃してくることは絶対にない。
12.ウェル・ティルトン号<貨物室>
貨物室には鍵が掛かっている。鍵はカジノのスタッフルームで手に入れることが可能である。
中に入ると、食料や燃料などが並べられた空間に、荷物同然に裸の男女が数十名いると分かる。
ダニエルは男女の中に妻を探そうとするが、ここにはいない。
貨物室の奥にはさらにドアがある。そこには鍵が掛かっていない。
ドアの奥には妊婦が集められている。見て取れるほど体に変化はないが、彼の妻もそこにいる。
ダニエルはフラフラと彼女に近づき、かがみ込んで彼女に語りかける。
だが、取り乱した彼がいくら喚こうとシンディは何も答えない。
<医学>や<心理学>を試みようとも、何の手立てを見つけることも出来ない。
シンディ・キャリントンは既に死んでいる。ここにあるのは彼女の器だけだ。
13.結末
ダニエルが落ち着くと、彼は「この船を潰す」と言い始める。
(この際、貨物室奥部にいることを想定している。落ち着く場所に行こう、と言っても彼は拒否する)
ボイラー室の燃料炉に予備の燃料を放り込み、爆破するつもりなのだ。
当然、そんなことをすれば生きて帰る事はできない。
しかし彼はそもそも、生きて帰るつもりなどないのだ。
適切な情報共有を行っていれば、彼は自らの内にシャンが潜んでいることを知っている。
そして今は眠りについているだけだということも探索者に教えてくれる。
もしも情報を共有していなければ、彼を生還させてしまうことも可能である。
探索者たちはここで、何がより良い結果をもたらせるかを考えなければならない。
<機械修理>や<運転>、<重機械操作>に成功した場合、ダニエルの主張する方法では犬死にするだけだと分かる。
一人で持ち運べる燃料の量など、たかがしれている。多少温度を上げたところで、さほど大きな爆発は引き起こさないのである。
そしてそれと同時に新たな爆破手段を思いつく。
ボイラー冷却用の真水が入ったタンクを破壊することで熱暴走を起こし、爆発させるというものである。
ここでは例として上げたが、他にプレイヤーが適当な提案をするなら、それを採用して構わないだろう。
ダニエルはどんな危険な手段だろうと、船を破壊できる可能性があるのなら実行する。
話し合いを終え、部屋を離れようとすると誰かが探索者たちの足首を掴む。
焦点の合わない目をし、顔だけを探索者たちに向けた妊婦たちである。
彼女らの力は弱く、STR1との対抗に成功すれば振り払うことができる。
奥部から出ると、貨物室に倒れていた人間たちが一斉に起き上がり、あるものは歩き、あるものは這いながら探索者たちを追う。
彼らは口々に「まって」「みすてないで」「たすけて」「しにたくない」などと言いながら襲いかかってくる。
人間の習性を研究したシャンが、そう言うようにプログラムしているのである。
日常とはかけ離れた、異質な空間に取り込まれた探索者たちは1/1d6正気度を失う。
襲いかかると言っても、彼らのほとんどは移動速度が遅すぎるため、さほど脅威にはならない。
キーパーは彼らのうち1d6体程度が脅威だと描写し、他は「もたもたしていると襲われるぞ」と脅す程度にしておくといいだろう。
彼ら全員を射殺しようとしても、数の多さから弾切れを起こしてしまうだろう。
隣接された場合、1d4ダメージの<噛みつき>で一斉に攻撃を受ける。命中率は25%である。
目を爛々と輝かせ、自身にかぶりつく人間の姿を見た探索者は1d6正気度を失う。
貨物室を出た探索者たちは、すばやく行動を起こさなければならない。
最優先の事項は脱出用ボートを選び、死の船から脱出することになるだろう。
時間制限はキーパーの裁量に任されるが、危機感を煽りながら進行すること。
この時代にトランシーバーなど存在しない。ダニエルがいつ船の爆破を決行するか、誰も保証は出来ないのだ。
生きているシャンのしもべがいれば、彼らは脱出を阻止しようと襲いかかる。
探索者たちと入れ違いになったシャンのしもべも、彼らかダニエル、どちらかを殺すために集まるだろう。
甲板のウィンチを動かすと、吊り下げられていた救命ボートを海上に降ろすことが出来る。
この際、当然ながら誰かが甲板に残り、操作を担当しなければならない。
船から海へと飛び込んだ探索者は<水泳>ロールを行う。
この時、着水の衝撃により成功すれば1d2、失敗すれば1d4のダメージを受ける。
その後は救命ボートへと乗り込むことになるが、ここでも<水泳>ロールの成功が必要である。
このロールは飛び込みに成功していれば省略可能である。
探索者たちが正しい船を選べていなければ、さらに恐ろしいことが起こる。船が沈んでいくのだ。
海に放り出されてしまえば、<水泳>のロールが必要となる。失敗した場合は溺れて死亡する。
他の探索者が<水泳>に成功していれば、彼を助けることが出来る。
ただし救出のためにはさらに<水泳>が必要となり、失敗すればふたりとも溺れてしまう。
彼らはかろうじてボートの浮いている部分へしがみつき、身も凍るような冷たい水の中で救助を待つことになる。
14.エピローグ
船を離れていく探索者たちは、取った行動により以下の光景を見ることになる。
『ダニエルの提案のまま、船の爆破を決行させた』
一瞬、煙突から大きく煙が吹き上がる。
……それだけである。船が爆発することも、炎上することもない。
探索者たちは何も出来ないまま、悠々と航海を続ける船を見送ることになる。
『適切な技能を用い、船の爆破を決行させた』
船内が光ったかと思うと、ガラスというガラスを破る火柱が上がり、そして耳をつんざく轟音が響き渡る。
波がボートを揺さぶると共に、船は中心から真っ二つに折れていく。
海上に突き出た部分は炎に包まれ、そうでない部分は海へと沈み……跡形もなく視界から消えていくのだ。
探索者たちは、燃える船の中から何かが飛び出したのを見る。
それは船に残っていたシャンたちである。燐光をまとった彼らの姿は、遠目には星のように美しく見える。
しかし遠くまで飛ぶことは叶わず、夜空に流れ星のような頼りない軌跡を描いて、そのまま海へと沈んでしまう。
この後、救命ボートに乗っていれば、無事に港へと辿り着くことが出来る。
ただし救命ボートが沈んでいれば、浮き材に掴まっている最中に力尽き、意識が失われる。
この場合、探索者が生存できるかは爆破の成否に掛かっている。
成功していれば、海上での爆発を嗅ぎつけた救助艇により、探索者は救助される。
失敗していた場合、彼らを助ける人間が現れることはない。
不浄の苗床から生還した探索者は1d8正気度を獲得する。
船の爆破を完了し、シャンのコロニーを消し去った場合、さらに1d6正気度を獲得する。
もしもダニエルを連れ帰ってしまっていれば、後日彼の訪問を受ける。
そしてニタニタと奇怪な笑みを浮かべる彼の口から、巨大な虫が飛び出して……
この結末を迎えた場合、探索者たちはロストしたことになる。
15.あとがき
ろくでも無く陰鬱とした雰囲気なので封印しようと思っていたシナリオもどきです。
ですがまあ、最近はそういうのも流行りみたいなので、配布してみようかと思いました。
尺が短く行動の択が狭まる分、たぶん一番普通に回せるシナリオもどきだと思います。
ただ、その場合もこういうシナリオを受け付けられる人とプレイするのが良いでしょう。
実は私もこういうのは苦手です。