方丈の鞠
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0.はじめに
当シナリオはクトゥルフ神話TRPG、第六版に対応しています。
舞台となるのは、兵庫県にある架空の高校の『夜見野高校』。
探索者は高校三年生となり、文化祭の準備中に転移していた異世界からの脱出を図ります。
シナリオの難易度は時間によって大きく変わります。
フルで探索するなら☆3つ(8~9時間程度必要?)、
探索場所の取捨選択を求めるなら☆4~5程度(6~7時間程度)です。
推奨技能は<オカルト><回避><聞き耳>など。
加えて、探索者には「あるお化けについて、何十分か語れる程度の思い入れがある」設定が必要となります。
これは探索者たちが事件に巻き込まれる原因となるものですが、そこは密に。
1.あらすじ
高校3年生の10月。
否応なしに進路を意識させられる、高校生活の最終盤である。
そんな10月の文化祭に、探索者たちのクラスは『お化け屋敷』を出展することになった。
それも狭苦しい一教室ではなく、体育館を貸し切りという豪勢な代物だ。
探索者たちに任されたのは、屋敷内で使う小道具係。
その日、彼らは学校に居残って、黙々と作業に取り掛かっていた。
…………………………
時計の針は午後九時。外は大雨、暴風の大騒ぎ。
今朝の予報は晴れのち曇り。当然傘など用意していない。
どうやって帰ろうか? まずは頭を捻らされることになるだろう。
2.シナリオの背景
この世界と平行線上、薄皮一枚隔てた別の世界。
大雑把に『異界』と呼ばれるそこは、古くから一部の人々に利用され、あるいはその危険性ゆえに禁忌とされてきました。
しかし現代では異界の存在は科学的根拠に乏しいと否定され、
それらに関する書物も別の解釈をされたり、民間信仰の一例として捉えられています。
……話は変わり、時は遡り、まだ戦争が続いていたころの時代。
深沢 勇(ふかざわ いさむ)、浅井 千代(あさい ちよ)という中学生が弥代市に住んでいました。
厳しく辛い時代ながらも、大きな夢を糧として彼らは日常を過ごしていました。
それは自分たちの作った映画で日本中の、いや世界中の人々を魅了するという壮大な夢でした。
彼らは夢のため、出来る努力を欠かしませんでした。
学校では友達を集めて親交を深め、家に帰れば近所の子供たちに自作の物語を披露。
そうして彼らは物語を作る練習をしていたのです。
しかし、終戦の半年ほど前……働かされていた軍事工場で空襲に巻き込まれ、彼らはあっけなく命を落とします。
抱えた夢、形となっていなかったアイデア、勿体ぶって隠していたエピソード。
それらもまた、誰にも顧みられずに霧散してしまう……そのはずでした。
戦争が終わり、彼らと親しかった子供たちも学校に通い始めます。
その時、一つの娯楽として、二人が話していた物語……怪談が語られ始めたのです。
それらの怪談は現代に至るまで、時に別の物語を継ぎ足されながらも、夜見野高校の生徒たちに語り継がれることになりました。
語り継がれた怪談の一つに、『誰も知らない恐怖の怪談』というものがありました。
その名の通り、その怪談の中身は誰も知りません。ただ、知れば災いをもたらすということだけが伝わっていました。
勇と千代が定義し、この世界では永遠に知ることの出来なくなった、その怪談の正体……
それは怪談自体が生き残ったことにより、夜見野高校の『異界』に存在し続けていました。
亡霊の少女、『小宮 鞠(こみや まり)』。
現世に強い恨みと未練を持ち、時に人を攫うという恐ろしい悪霊です。
しかし、異界に生まれた彼女に未練はありませんでした。
具体的な中身が出来上がる前に両親は亡くなってしまったからです。
彼女に残されていたのは、「私を忘れさせてはならない」という使命感のようなものだけでした。
そしてそれゆえに、何ら行動を起こすこともなく、無為に時間を過ごしていました。
……終戦から約70年後、2017年の秋。
ここでようやく、鞠に困った事態が訪れます。
文化祭の目玉は体育館を貸し切りという、怪談がモチーフの壮大なお化け屋敷。
そこモチーフの中には、彼女の名も『口には出せない恐怖の怪談』も存在しませんでした。
あまりに曖昧過ぎて、お化け屋敷のモチーフには不適合だったからです。
お化け屋敷の開催クラスは協議の中で『七つ目の怪談には別の怪談を創作し、当て込む』ことを決めます。
提案したのは、お化けに対し強い思い入れのある二人の生徒。
それは七つの怪談から鞠の存在を抹消することに他なりませんでした。
鞠は自己の存在を確立するため、一つの計画を立てます。
「怪談を現実のものとし、それにより自身の再周知を図る」こと。
お化け屋敷に携わる人間を被害者にすることで、否応なしに『七つ目の怪談』を連想させるというものです。
被害者役に選ばれたのは二人の生徒。奇しくもの性別は勇、千代とも一致していました。
いくつかの偶然や共通項を紐とし、周りに誰もいなくなった頃合いを見計らい……
鞠は二人の……探索者たちの精神を異界へと引きずり込みました。
彼らを待っているのは、果たして……?
3.登場人物
小宮 鞠(こみや まり)、17歳(設定上)、第七の怪談
STR:13 DEX:16 INT:15
CON:06 APP:15 EDU:11
SIZ:11 SAN:00 POW:18
STR:65 DEX:80 INT:75
CON:30 APP:75 EDU:55
SIZ:55 SAN:00 POW:90
MOV: 9
勇と千代、二人の頭の中だけにあった『口にも出せない恐ろしい存在』の正体。
二人の死後は誰にも顧みられずに霧散するはずだったが、その存在は異界に現出し、残り続けた。
彼女の行動目的は怪談の中で生き続けること、怪談としての自己を守り続けることにある。
便宜上記載してはいるものの、彼女にSAN(正気)を測るパラメータは存在しない。
シナリオ中はクラスメイトとして振る舞うが、ところどころで非人間らしさが見え隠れする。
彼女は協力者である。図書準備室にたどり着き、そこに閉じ込められるまでは。
古橋 由香里(ふるはし ゆかり)、17歳(享年)、第二の怪談
シナリオ中には彼女の遺体が登場するのみ。
クラス内での人間関係の苦悩から心を病み、最終的に自ら命を絶った。
ちなみに彼女の死後数ヶ月は、体調を崩したり怪我をしたりすると『由香里の呪い』に遭ったと騒がれた。
不謹慎なことこの上ないが、彼女の存在は友人たちにとって、その程度のものに過ぎなかったのだ。
七嶋 明(ななしま あきら)、15歳(当時)、第四の怪談
嫌味な性格の(旧制)中学生。父親を戦争で失っている。
そのせいか、この時代の同世代では珍しく戦争をひどく恐れている。
ピアノに打ち込む熱意も、『何か目立った特技がなければ、銃を持たされて前線に送られる』という考えに基づく強迫観念から来たものである。
勇と千代をこっ酷く馬鹿にしていたため、怪談をでっち上げられるという憂き目に遭った。
シナリオ中に登場するのはそんな架空の怪談から生まれた、ひどく曖昧な存在である。
ちなみに当の本人は現在も存命中であり、随分穏やかな性格になっている。
屋島 直樹(やしま なおき)、47歳(故人)、噂の犠牲者
夜見野高校の用務員さん(過去)。
目立たないけどいないと困る、縁の下の力持ち的な存在。
若者との会話、話の流れを乱すまいと知らないことでも話を合わせる癖がある。
彼は校内で突然死したが、衝撃的な事件は怪談話へと作り変えられた。
何人かの心ある生徒はそれを止めようとしたが、無駄な努力に過ぎなかった。
赤の他人にとっては、そちらの方が面白かったからだ。
追い求めるもの、体を求める霊魂
STR:32 DEX:08 INT:00
CON:26 APP:00 EDU:00
SIZ:13 SAN:00 POW:24
STR:160 DEX:40 INT:00
CON:130 APP:00 EDU:00
SIZ: 65 SAN:00 POW:120
MOV: 8 D B:+2d6 ビルド: 3
[攻撃]腕を振り回す、60%、3d3+1
[探索]目星、60%
無数の怨霊が屋島の体に乗り移った状態。
探索者と遭遇すると新たな体を求めて襲い掛かってくる。
行動原理はあくまで体を求めることなので、事故でも起こらなければ殺害されることはない。
もし彼らに殺害された場合、後述の事情によりそこでシナリオが終了してしまう。
深沢 勇、浅井 幸雄(または千代、八重子)、16歳(享年)、ありふれた被害者
映画監督になる夢を持っていた中学生。性別は探索者たちと同じになる。
例えば、探索者が男女一人づつなら『深沢 勇、浅井 千代』。
女二人なら『深沢 千代、浅井 八重子』……といった具合である。
彼らの死は1945年のこと。
その時彼らは勤労動員で県南部の工場に送られ、別々の寮で生活していた。
ただ、実家が(比較的)寮から近い彼らは、月に何度か故郷に戻ることが出来た。
子供たちに話を読み聞かせていたのは、主にその時のことである。
前原 舞(まえはら まい)、17歳、ある意味では加害者
文化祭委員の少女で、探索者たちのクラスメイト。
明るく親切。物怖じしない度胸もあるが、だいぶんナルシストなところが玉に瑕。
最後の学祭を盛大なものとするべく、あれこれ頑張っている。
本編中に登場する怪談話は彼女が蒐集出来たものに限られる。
◆添付資料:夜見野高校校舎の図
写真素材はcholianさんから加工したものを、 フォントは人生有限 創造無限さんの『ゆたぽん』を使用させていただきました。
※クリックで大きくなります。
4.【導入】嵐の中で
午後九時、夜見野高校の体育館。
外は大雨大風が吹き荒れ、壁越しにも騒がしい。
探索者たちはこんな状況下で、ようやく我に返ります。
目の前にあるのは自分が大好きなお化けにまつわる、素晴らしい完成度の小道具。
場には自分たちともう一人……"クラスメイト"の小宮 鞠が、下駄箱の方から"戻って"きます。
この時点での鞠への認識は、「一応クラスメイトの極めて目立たない子」程度。
外の様子を見てきた彼女は「駄目だった。外、ものすごい大雨だよ。台風の中みたいで……」と探索者たちに伝えます。
どうしてこんなになるまで止めてくれなかったんだ! と言いたくなることでしょう。
しかし、彼女を責めても雨が止むわけでもなし。
探索者たちはどうやって帰ろうかと首を捻ることになります。
すると鞠が「そういえば、二階に連絡通路があったよね」と提案します。
①小道具について
『お化け屋敷で使うために作ったが、具体的に何に使うのかを思い出すことが出来ない』
『屋敷のモチーフである怪談話の中にも、この小道具を使いそうなものは見当たらない』
『怪談話はクラス会議で決めたものである』
②怪談話について
お化け屋敷全体のモチーフとなった七つ怪談。
その名の通り全部で七つだが、思い出せるのは以下の六つのみ。
①突然床から手が生えて足をつかまれる。
②水道から血がドロドロと流れてくる。
③怨霊が校舎を徘徊し、取り憑いて殺そうとする。
④美術室の美術品が喋っている。
⑤音楽室のピアノを幽霊が弾いている。
⑥鏡の中には悪魔が棲んでおり、覗いた人間を取り込んで殺す。
③クラス会議について
『クラス会議の中で、何か大事な提案をした記憶がある。が、思い出せない』
『会議の進行役は、クラスメイトの前原舞だった。調査メモとやらを片手に説明していた』
『放課後作業時に参照出来るように、メモは教室に残しておくそうだ』
5.【導入】校舎への道
2階側の連絡通路は真っ暗で狭苦しく、老朽化してギシギシ音を立てる上に、歩くたびに揺れるような気さえします。
とはいえ、この雨の中ではここを通らざるを得ないでしょう。
薄暗い通路を抜けると、非常ベルのランプ以外に灯りのない、真っ暗な廊下に到着します。
ここで<聞き耳>に成功すれば、3階から何か話し声のようなものが聞こえます。
鞠は「ほら、美術室の……あの怪談だったり」と冗談めかして言います。
☆正面玄関
玄関に向かうと、外ではドアが開かないほどの強風が吹いていることに気づくでしょう。
絶え間ない雨で窓の外は灰色に曇っており、渡り廊下を覆う幌(ほろ)が吹き飛ばされそうになっています。
当然ながら、こんな状況で歩いて帰ることは不可能です。
6.学校と怪談
ここから先のイベントは順不同です。
ただ、一応定義するのであれば、用務員室→教室→美術室→地下または音楽室→図書室→廊下→図書準備室……
というルートがクリアしやすいように情報を入手出来るでしょう。
舞台となるのは午後9時の校舎ですが、怪談が存在する部屋(具体的にはA~E)の鍵は開いています。
これは怪談自身が存在を知られることを求めているためです。
ただし、図書準備室には第七の怪談が眠っていますが、鍵は開いていません。
これは鞠がわざわざ前もって鍵をかけておいたからです。
☆時限イベント:放課後のチャイム
一定時間(予定プレイ時間から1時間引き、5で割った程度がちょうど良いかと思います)経過ごとに発生する、焦燥感を煽るイベントです。
校内のどこにいても、歪んだチャイムの音がハッキリと聴き取れます。
これは探索者たちの本能が、自分が別の世界の存在に成りかけていることに対して鳴らす警鐘のようなものです。 チャイムを聴いたことによる正気度の減少はありませんが、鳴るたびに徐々にテンポが遅く、音が減っていくことに探索者たちは気づきます。
5回目のチャイムを聴いた時、探索者たちはそれが警鐘であったことに気づき、次のチャイムは果たして聞こえるのかと考えるでしょう。
ちなみに、チャイムの二度目は用務員さんが襲われるイベント(A.用務員室を参照)の発生フラグにもなっています。
また、このチャイムと同時に校舎を徘徊する敵の居場所が決定されます。
キーパーはそれぞれ1d6をこっそりロールし、『未練の手』『追い求めるもの』に居場所を当てはめます。
居場所の一覧は以下の通りです。
1.一階の左側
2.二階の左側
3.三階の左側
4.一階の右側
5.二階の右側
6.三階の右側
☆遭遇イベント:未練の手との遭遇
『未練の手』は性質上、階段の上にのみ出現します。
探索者たちが彼らの居る階段を通った場合、<聞き耳>ロールを行います。
成功した場合、足元から微かな呻き声が聞こえてくることに気づき、後の対抗ロールで有利な補正を得ることが可能です。
未練の手は皮膚のない、筋肉をむき出しにした腕の姿を持っています。
それもところどころが腐敗し、耐え難い臭いを放っています。
この奇怪な手が植物のように床から生えてくるのを認識した探索者は1/1d4正気度を喪失します。
彼らの攻撃は足首を掴むことによって行われます。
それも生易しいものでなく、爪を立てて皮膚に食い込ませるように突き立てます。
そして寄せ餌に群がる魚群めいて、床からさらに腕が生え、一斉に拘束を企みます。
腕のSTRは3ポイントです。これだけ見ると軽そうですが、対抗に1度失敗するごとに1d4本の腕が加勢します。
階段を降りる際、警戒を怠っていない探索者はこの拘束から対抗ロールなしで脱出可能です。
その後、突き立っていた爪により肉をえぐり取られ、1d3ポイントのダメージを受けます。
手はその場から動かず、「もっと寄越せ」と言わんばかりに不気味に蠢き続けます。
この異様な攻撃もそうですが、探索者たちはもっと驚かされることになるでしょう。
抉られた足首を覗いてみると血が出ないのです。
しかも痛みもほとんど感じず、麻酔でも打たれたかのように痛みはありません。
そして次のチャイムが鳴った時、痛みは忘れていたかのように現れます。
血がじくじくと滲み出し、強い吐き気と鈍い痛みが探索者を襲うのです。
異界の存在となり、此方側の理に近づいているがゆえに起こる現象です。
前述の通り、未練の手はその場に残ります。
探索者たちが機転を利かせれば、追い求めるものとの遭遇時に役立てることも可能でしょう。
腕に襲われた場合、彼らは「脱出する」「探索者たちを追う」のどちらを行うかで内輪揉めを起こし、その間に転ばされてしまいます。
しかし、彼らも黙ってはいません。四つん這いの状態から眼窩、口、関節部に新たな腕を生やし、床から生え続ける腕に対し抵抗を試みます。
当然、その間は無防備です。何か目当ての品があるのなら、簡単に奪うことが出来るでしょう。
☆遭遇イベント:追い求めるもの
追い求めるものは廊下を徘徊し、新たな体を追い求め続けます。
探索者たちが彼の存在する階の廊下に差し掛かった場合、<聞き耳>ロールを行うことでその存在を察します。
彼らの行動原理は単純で、知能の面も原始的な本能で行動するが故にたかが知れています。
何かしら音を立てることで彼らは簡単に誘導することが可能です。
一方、探索者たちが教室にいる時、廊下に追い求めるものがやってきた場合は問題となります。
彼らは各地の教室を窓から覗き込みつつ徘徊しています。
身を隠す場所を見つけるには<隠れる隠密>ロールを行います。
どちらかの探索者が失敗した場合、失敗した探索者は<幸運>をロールします。
成功すれば、成功した側の探索者から失敗を指摘され、もう一度だけロールすることが可能です。
二人の対処が終わったあとにとうとう追い求めるものが到着します。
ガラス越しに見える彼の顔は更に変化しています。
それは全面にびっしりと眼球が埋め込まれ、その隙間に鼻や口が複数詰め込まれているという奇怪なものです。
彼の顔を目撃した探索者は1/1d3正気度を喪失します。
追い求めるものは<目星>50%(成功値は秘匿します)をロール。
成功すれば探索者たちの姿を発見しますが、<隠れる隠密>に成功していれば無効化されます。
失敗すれば彼は誰も見つけられずに去っていきます。所詮は人間の目に過ぎないのです。
鞠の<隠れる隠密>ロールは無条件で成功する……ように見えるでしょう。
現実には彼女はそもそもロールを行っておらず、探索者が注意すればその姿が窓から見えていることにも気づけるでしょう。
追い求めるものは人間の体しか興味がありません。
探索者や用務員といった『人間』だった存在はともかく、元からもこれからも人間でない鞠には興味を示さないのです。
☆逃走イベント:追い求めるものからの逃走
運悪く彼に補足された探索者は、最早逃げる以外に手段はありません。
逃走にはDEXの値を使用します。
探索者は1dX(探索者のDEX÷315[切り上げ])をロールし、その数値分コマを進めます。
追い求めるものは1d2+1マスを進むことが出来ます。
そうして交互にロールしていき、4マス以上の差がつくか階段を上下すると彼はその探索者を見失います。
その後、適当な教室に入るかさらに階段を上れば振り切ることが可能です。
教室に入った場合、追い求めるものに対し<隠れる隠密>必要があります。
A.用務員室
温厚そうな用務員さんが優しく出迎えてくれます。
彼の正体は二つの怪談の被害者役ですが、彼自身はそれを知らず、外観からも判別出来ません。
正常な状態で探索者たちと遭遇した場合、彼は探索者たちの身を案じます。
「この状態じゃ帰れないだろう。学校で一晩過ごすかタクシーでも呼ぶか」と提案してくれます。
提案を飲むか飲まないかは探索者次第ですが、いずれにせよ彼は用務員室を出て行くことになります。
(ちなみに彼に怪談話をしても、「はははまさかそんな!」と一笑に付されます)
用務員室には2つの鍵束があります。図書準備室や職員室の鍵と、その他の教室を開く鍵です。
プライバシーなどの諸問題で、その図書準備室と職員室は特に管理が厳しくなっており、彼はそれらを持ち歩きます。
当然ですが、探索者たちに渡してくれることはありません。
しかしその他の教室の鍵は、<言いくるめ>を用いるまでもなく借りることが可能です。
鞠は用務員室では静かにしています。
彼の正体を知っているため、下手に刺激しないようにと考えているのです。
探索者が鞠の様子を訝しむと、「用務員さんがちょっと」と言い、彼が部屋を出るまでは黙っています。
そして用務員がいなくなると、「あんな用務員さん、この学校にいたかな?」と不思議がります。
探索者たちは彼とは初対面ですし、用務員の顔を記憶している生徒というのも珍しいでしょう。
<アイデア>INTロールに成功すれば、確かに見たことがないと思い出すことが出来ます。
①用務員室の探索
狭いオンボロアパートのような一室です。
家具は小さな引き出し付きの机に椅子、食器のしまわれたガラス棚、来客用のパイプ椅子が数脚といったところ。
流し台もあり、簡単な調理器具(包丁などもあります)も揃えられています。
当然、水を流した場合は蛇口から血液が流れ出てくることになります(第二の怪談)。
この場所で重要になるのは鍵束と漫画週刊誌です。
引き出しの中にしまわれており、用務員は必要に応じて取り出します。
鍵束は二セット。
一つは職員室と図書準備室の合鍵で、用務員が常に手元に置いています。
職員室はともかく、なぜ図書準備室も? と疑念が浮かぶかもしれません。
それは夜見野高校では、生徒たちの卒業アルバムをそこに保管しているためです。
これは生徒なら当然(興味が無いのでなければ)知っている情報となっています。
もう一セットは各種教室、特殊教室の鍵です。
こちらの管理は割と適当で、彼は置きっぱなしにすることが多々あります。
漫画週刊誌は、探索者の年代なら誰でも知っているような有名な雑誌です。
買いたてのものらしく、あまり古びた印象は受けません。
しかし定価が現在より100円ほど安く、連載作品も見慣れぬ顔がほとんどです。
「何年何号か」を調べると、昭和44年の13号だと分かります。
②繰り返される惨劇
用務員は部屋から離れると必ず、出向いた先で怨霊に襲われます。
ただし2度目の鐘が鳴る前に彼と会わなかった場合は違った展開を見せます。
彼は廊下を誰かが歩く音を気にして外出し、やっぱりどこかで怨霊に襲われるのです。
いずれの場合でも彼は凄まじい悲鳴(断末魔?)を上げ、肉体を乗っ取られてしまいます。
この悲鳴は校舎の中ならどこにいても聞こえるほどのものです。
変わり果てた姿の彼を見た場合、正気度を1/1d8ポイント喪失します。
変身後は探索者を追い回そうとします。その際の処理は☆特殊イベントの方をご参照ください。
③ズレた感覚
すでに何かしらの危険と遭遇した状態であれば発生します。
部屋の中を調べていると、いつの間にか鞠が包丁を握っています。
流し台にあったものであり、ここにあってもおかしくない物ではあるのです。
しかし鞠はそれを無造作に扱い、注意されても「ちゃんと敵だけ刺すから大丈夫だよ」「これじゃあ殺せないかもしれないけど……」と取り合いません。
手放すことに抵抗は無いので、キーパーは探索者たちがそれを持ち歩くように仕向けるといいでしょう。
後々役に立ちます。
B.美術室
絵画、胸像などの美術品が楽しげに会話しています。
彼らの正体は第四の怪談【喋る美術品】です。
お喋り好きで友好的な彼らは、探索者たちが現状を認識するのに大きく役立つでしょう。
まず、彼らは探索者たちはすでに現世におらず、一種の異世界に来ていると言います。
ここは『異界』と呼ばれる空間で、彼らのような怪談が実体を伴って存在出来るのだそうです。
異界から脱出する手段は不明瞭。
探索者たちのように迷い込んで来たものも、帰っていったものも見たことがないそうです。
次に、すでにチャイムが鳴っていれば、彼らは探索者たちの雰囲気を不思議がります。
異界の存在のようにも思えるし、現世の存在のようにも思える。そう彼らは評します。
なお、チャイムが鳴る度にこの評価は異界の存在寄りになっていきます。
だんだん異界の存在へと近づいていっているぞ、と探索者たちに警告しているのです。
彼らはお喋りですが、しばしば口ごもります。
このまま第七の怪談が消滅すれば鞠も消滅することを知っているからです。
彼らは探索者たちが何者なのか、鞠が何を企んでいるのかも知っています。
しかし学生を見捨てるを嫌ってはいますが、同族を見捨てることもまた嫌っています。
故に、彼らから事態の核心を聞くことは不可能です。
①異界について
異界に関しては<オカルト>で知識を求めることが出来ます。
成功した場合、異界の存在はその筋では有名な話だと知っています。
異界へ行ったと称する人間によると、異界の存在は未練や悔恨といった負の情念の塊。
それが満たされると消滅してしまうのだそうです。
(失敗した場合は、図書室などで情報を集めることが出来ます)
これを伝えると美術品たちは概ねその通りだと認めるものの、自分たちには特に未練も悔恨も無いと言います。
ではなぜ存在するのか? と尋ねると、負の情念は負の情念でも『他人』の負の情念だと答えます。
「美術品が喋ったら怖い」「廊下から腕が生えたら怖い」「幽霊にさらわれたら怖い」……
そういった情念が彼らを形作り、その通りの存在であるが故に異界に存在することが出来ているというのです。
これを聞くと、鞠は「じゃあ、逆に言うと怖がられなくなったら消滅するってことかな」と言います。
遠回しに探索者を攻撃するような台詞ですが、彼らの命を救うかもしれない台詞でもあります。
怪談の消滅について話が及んだ場合、胸像は不自然に話をごまかして話を遮ります。
②第七の怪談について
「何も知らない」そう彼らは出張しますが、実際は知っています。
このことについて深く教えれば、探索者たちが真実に勘付いてしまうかも、と危惧しているのです。
しかし見捨てることも嫌なので、「他の怪談に知ってるやつがいるかも」とも答えます。
C.3ーA教室
探索者たちの教室です。普段と変わった様子はありません。
文化祭委員の前原の机も容易に探すことが可能で、調査メモもあっさり発見することが出来ます。
メモの内容は以下の通りです。
☆七つ怪談調査メモ(前原)
夜見野高校に伝わる怪談は無数に存在する。
しかし世代をまたぐものは少なく、現存するものとなれば更に少ない。
話の内に矛盾を孕むような低質な怪談は、その場で淘汰されてしまっているのだろう。
下記に記すのは、現代まで生き残った貴重な七つの怪談である。
①未練の手
廊下を歩いたり、階段を降りたりしているとき、誰かに足を掴まれることがある。
すぐに振りほどけるが、ずっと掴まれていると、あの世へ引きずりこまれてしまうという。
②血の出る水道
夜に水道を使うと、水の代わりに血が出てくることがある。
手首を切って自殺した人の霊が地下の貯水槽に腕を入れているため、水が血の色に染まったのだという。
③夜校舎の殺人霊
夜の校舎には、若くして亡くなった人たちの霊が集まる。
彼らは体を欲しがっており、生者に取り憑いて殺し、入れ替わろうとする。
④喋る彫像
美術室の石膏像や絵画といった美術品は夜になると喋りだす。
それどころか、いくつもの美術品がお喋りしていることもあるという。
⑤完璧な演奏
音楽室のピアノは、夜中に独りでに奏でられる。
寝る間を惜しんで努力し続けた結果、校内で突然死した生徒の霊が弾いているのだとか。
⑥鏡の中の悪魔
3階の鏡には、恐ろしい何かが棲んでいる。
覗き込んでしまうと、魂を鏡の向こう側へ引っ張り込まれてしまうという。
⑦誰も知らない怪談
記すことすら憚(はばか)られる。
その内容を知った時、大いなる災いが降りかかるという。
D.地下室(貯水槽)
貯水槽は地下にあり、水道から引き上げた水を貯め込んでいます。
地下室に入った時に真っ先に目に入るのは、貯水槽の中に腕を突っ込み息絶えている少女の姿でしょう。
まだ死んで日にちが経っていないらしく、貯水槽の中を見さえしなければ……
その色を認識さえしなければ、寝こけているのだとも思えるほどです。
(このため、死体を目撃したことによる正気度減少は0/1ポイントで済みます)
彼女は死体であるため、会話は不可能です。
☆怪談が消える時
腕を引き上げるとともに、水の色が透明なものへと戻っていきます。
そしてそれと同時に、彼女の体は灰へと変わり、一瞬で消滅してしまいます。
消滅の光景を見た場合、正気度を1/1d3ポイント失います。
美術室で異界の話を聞いていた場合、<アイデア>に成功すれば「怪談の内容と矛盾してしまったからではないか」と考えます。
つまり、"怪談の具現化として"不自然な状況に陥ったことで、
"怪談であるから"流れ込んでいた負の情念が失われてしまったのです。
E.音楽室
音楽室に近づくと、ピアノの音色が聴こえてくると気づくでしょう。
中に入ると、高校一年生くらいの少し背の低い少年がピアノを奏でています。
彼は一瞬演奏を止め、探索者たちを『勇』『千代』と呼ぶと「帰ってくれ」と言い放ちます。
人違いを伝えると話を聞いてくれるようになりますが、演奏しながらであり、態度も辛辣なままです。
彼が演奏し続けることに対し疑問に思った場合、<アイデア>INTをロールします。
成功すれば、「彼は怪談が具現化した存在であるから、むしろ演奏し続けない方がおかしい」と思い浮かびます。
彼は夜見野高校(当時は中学でしたが)の生徒ですが、探索者たちの70年ほど先輩に当たります。
いくつかの認識の食い違いはあるものの、彼は質問に対しては正直に答えます。
「何でもいいから、とっとと居なくなってくれ」が彼のスタンスです。
①認識の平行線
彼が認識している『今』は昭和の19年頃。
戦争が激化し、彼らのような中学生も労働に駆り出されるようになった頃です。
当然、『今』を生きる探索者たちとは認識の食い違いがあります。
ただし、彼はそれらにさほど執着しません。
『ピアノさえ弾ければ良く、上手くなることにしか興味が無い』
それが勇と千代の、彼に対する認識だったからです。
②七つ目の怪談
『口にも出せない恐怖の怪談』……それを彼は聞いたことがあります。
勇と千代が彼を勧誘する際、仲間になれば特別に教えてやるぞ、と言っていたからです。
内容こそ知りませんが、彼はそれにまつわる情報を教えてくれます。
千代はアイデアを一冊のノートにまとめ、それを肌身離さず持ち歩いていたこと。
その中に勇と二人だけの秘密として、例の恐怖の怪談の謎も記されていると言っていたことを。
ちなみに千代は怪談になっておらず、異界に存在もしていません。
探索者たちが彼女本人を探そうとしても無駄である、と警告はする必要があるでしょう。
③勇と千代
夜見野中学、つまり現在の夜見野高校の生徒です。
将来の夢は映画監督だったとのことですが、当然二人の名が知れたことはありません。
七嶋とは真逆の、他人と積極的に関わりたがるタイプだったそうです。
彼らについて探索者たちが調べたいのなら、図書室に過去の生徒の情報があるかも知れない、と考えます。
F.図書室
図書室には大量の本がありますが、それゆえにひどく雑然としています。
情報収集のためには、取っ掛かりとなる別の情報を得る必要があるでしょう。
奥の方には図書準備室の扉がありますが、ここには鍵が掛かって開いていません。
用務員に聞いていればすでに、そうでなくとも<知識>または<アイデア>INTロールに成功すれば、
プライバシー保護のため、職員室と図書準備室の鍵は特にしっかり取り扱われている、と思い出せるでしょう。
図書準備室には過去の卒業生たちのアルバムが保管されており、個人情報の塊です。
①用務員の突然死
用務員室などで『昭和44年』というキーワードを得ていれば調査可能です。
校内新聞のバックナンバーを辿ることで『用務員さんの突然死』に関連する記事を見つけます。
☆倒れていた用務員さんについて
本日午前、3階の男子トイレの手洗い場にて、
用務員の屋島直樹(やしまなおき)さんが倒れているのが発見された。
保険の先生によれば、屋島さんは誰かに思い切り殴られたような酷い頭痛を訴えていたという。
屋島さんは病院に搬送され、現在精密検査を待っている状態だそうだ。
屋島さんと話したことがない人も多いかもしれないが、心優しく穏やかな人柄の好人物である。
編集部としては、屋島さんの検査の結果が異常ないことを祈るばかりである。
☆屋島さんの死について
悲しいお知らせです。
入院していた用務員の屋島さんが昨日亡くなられました。
さらに悲しいことに本件に関し馬鹿げた噂を流布する最低の人間が存在しています。
悪霊が取り憑いただの鏡の悪魔が魂を食ったただの、そういった愚かしい噂です。
屋島さんの死は病気によるものです。
診断されたお医者さまも間違いないと言っておられました。
人の死を貶めるのは最低の行いであり、怪談の題材にするなど以ての外です。
生前に夜見野高校のために尽くしてくださった屋島さんの冥福を祈るよう、強く求めます。
②七つ目の怪談について
音楽室などで『昭和19年頃』という手がかりを得ていれば調査可能です。
その頃の校内新聞は存在しませんが、学校史を調べることでいくつかの記述を見つけます。
☆夜見野中学と空襲には重要な情報が数多く含まれますが、相当長くなっています。
時間に余裕がなさそうな時は以下の事実を抜粋して伝えることを推奨します。
☆夜見野中学と空襲(簡略版)
生徒たちが軍事工場へ派遣されたという事実とともに、
派遣先で空襲の被害を受けた七嶋(ななしま)という男性のインタビューが載っている。
「飛んでいる爆撃機に対し、出来ることなんてありませんでした。
ただ泣いて叫んで逃げ回って、気づけば爆撃は終わっていたみたいでした。
僕は助かりましたが、友達は大勢死んでしまいました。
勇くんと千代ちゃんという仲の良い二人組も、二人とも亡くなりました。
二人は小説を作るのが趣味で、アイデアノートをいつも持ち歩いていました。
燃えカスみたいになって何が書いてあるのかも分からないノートを、僕と先生でご家族のところに持っていきました。
ご家族と、二人を慕っていた子供たちの表情は永遠に忘れられません。
それでも喜んでくれたことで、ほんの少しだけ救われた気がしました……」
二人のノートはその後、特別に制作された卒業アルバムに写真の形で収められたという。
☆夜見野中学と空襲
先の空襲において、神戸や尼崎といった県南部地域、特に工場密集地域は多大な被害を受けた。
空襲による被害を語る上で、本校の人間ならば次の事実を避けては通れない。
当時の軍事工場は深刻な人手不足に陥っていた。
労働力を探る手はついに学徒にも伸び、軍事生産に従事させるための法律が作られたのである。
当初は4ヶ月程度と期間を設けて、最終的には一年を通して学生たちは工場労働に勤しんだ。
夜見野高校……当時の夜見野中学の生徒もまた例外ではない。
寮とは名ばかりの粗末な建物に押し込められ、過酷な労働生活を送らされたのである。
工場で働くということは、必然的に空襲に巻き込まれるリスクを共有することにもなる。
当時労働中であった本校の卒業生、七嶋 明(ななしま あきら)氏は次のように証言している。
「何が起こっていたのか、最後まで分かりませんでした。
僕はただ、安全な場所を探してめちゃくちゃに走り回っていました。
煙で目が痛くて、涙で前が見えなくなっても……
皮膚があちこち焼けて、息が出来なくなっても、ひたすら走りました。
それでも運が良かったのか、気づけば床に寝かされて頭の傷の手当を受けていました。
僕は助かりましたが、友達の中には助からなかった子もいました。
勇くんもその一人です。勇くんには千代ちゃんという親友がいたのですが、二人とも空襲で亡くなりました。
目が覚めた時、僕の手は真っ赤になっていて異様にべとべとしていました。
記憶にはないのですが、僕を助けてくれた人は『勇くんの頭を必死にかき集めようとしていた』と後に教えてくれました。
千代ちゃんは防空壕に入れたそうなのですが、勇くんが心配だと飛び出して、あちこち焼けた状態になって見つかりました。
落ち着いた後、二人のお骨と、千代ちゃんが肌身離さず持っていたノートを二人の家に持っていきました。
僕は先生の影でぼうっとしていました。でも二人の家族と、慕っていた子供たちの表情は一生忘れられません。
ノートは燃えカスみたいになってしまっていたのですが、それでも喜んでくれたことだけが幸いでした……」
終戦後、亡くなった生徒たちには特別卒業証書が発行され、卒業アルバムも制作された。
戦時中の記憶を忘れないという意図もあり、彼らに縁のある品々を集めて写真の形で保存するという試みも行われた。
七嶋氏の友人も同様であり、一切の文字を読み取ることが出来なくなってしまったノートもまた、写真という形で収められたという。
G.三階のトイレ
トイレの前には血溜まり(水道の怪談が成立していれば)が出来ています。
水道から水が溢れていることが原因です。
第六の怪談『鏡の中の悪魔』は、ずる賢い知性を持っています。
血溜まりがあれば怪我人を装った声を出し、探索者たちを自らの元へ呼び寄せようとします。
水溜まりがあれば言葉巧みにそれを覗かせ、水面に自身の姿を映し出させようとするでしょう。
もし探索者たちが鏡面を見てしまった場合、彼らの体は『鏡の中の悪魔』に掴まれ、鏡の中へと引きずり込まれます。
これに対抗する場合、STR21105との対抗ロールを行います。
ただし、他の探索者や鞠が側にいる場合、彼らのSTRの半分を対抗ロールに用いることが出来ます。
それでも失敗してしまった場合、鏡の中へ消えてしまいます。
正気度を固定で10ポイント失い、その探索者がシナリオ中に出来ることは無くなります。
彼の生死はもう一人の探索者の行動いかんに掛かっています。
もし生還できたのなら、彼もまた異界から解放され、現実世界へと帰ってくることになるでしょう。
ただし、失った正気度は帰ってこず、異界の記憶自体も消えてしまっています。
このように恐ろしい存在である『鏡の中の悪魔』ですが、注意深く接すれば彼と会話することも出来ます。
この試みが成功したのなら、他の怪談との会話で得られる重要な情報を与えると良いでしょう。
そして、厄介な用務員に彼を覗き込ませれば、その中に取り込ませることも出来ます。
H.多目的室
多目的とは名ばかりで、もっぱら映像教材の視聴に用いられる部屋です。
真っ暗になるとスマホいじりが即バレる、と生徒たちからの評判はあまり良くありません。
奥には巻き上げ式のスクリーン。普段と違い、収納された状態になっています。
しかし、それ以外は普段の授業中と何も変わらないようです。
いわゆる視聴覚室です。目立った点や怪談はありません。 探索者次第では、プロジェクターを使って虚像を映し、用務員を釣るなどを考えられるでしょう。
I.保険室
独特な薬剤の臭いが、いつものように鼻孔をくすぐります。
しかし、暖かく迎え入れてくれる保険医の姿は見当たりません。
ベッドの中にも誰もいないし、ホラー映画のように下に誰かが隠れている、ということもありません。
戸棚の中には医薬品が詰め込まれており、どれが何の薬かを調べるのには難儀しそうです。
<応急手当><医学>にボーナスを受けることが出来ます。
水道があるため、血の出る水道の怪談に触れることも可能です。
J.美術準備室
目立った品はありませんが、ナイフなども置かれています。
用務員室で包丁を拾えなかった場合は拾ってもらうといいでしょう。
K.職員室
鍵が掛けられており、入ることは出来ません。
主な侵入意図は図書準備室の鍵となるでしょう。
しかしプライバシー的な理由から、ここには保管されていません。
学校司書と用務員が持っているのみとなります。
探索者たちが無理にでも侵入しようとするなら、<幸運>ロールをするなり、図書室の手伝いをした時に聞いたなどで知っていても良いでしょう。
7.図書準備室
最後に訪れる部屋となるでしょう。
壁を覆うようにズラリと並んだ本棚の中に目当ての本があるようです。
アルバムなので本来、年代順に並んでいるはずなのですが、何故かそれらはバラバラに保管されています。
<図書館>で捜索することが可能です。
勇と千代の年度の卒業アルバムには、彼らの大切なノートが写真の形で残されています。
本来は何の文字も読み取れないはずですが、異界でなら話は別。
知られることを求めるかのように文字が浮かび上がり、読むことが出来ます。
⑦亡霊の少女
放課後遅くまで校舎に残っていた二人の生徒がいた。
そんな彼らの元に顔見知りの少女が現れ、付いてくるように誘う。
しかしそれは偽りの記憶であり、亡霊少女の罠だった。
彼女に付いて行った二人は狭い部屋に閉じ込められてしまう。
そして学校の中で永遠に生き続けることになってしまった。
……鞠の姿は、いつの間にか探索者たちのもとから消えています。
出口から出ようとすると、外側から鍵がかかっていることに気づきます。
そしてサムターン(内側のつまみ)が破壊されており、内側から開けることも叶いません。
この時点から、鞠の目的は「時間を経過させ、探索者たちを異界の住人へと変える」ことにシフトします。
彼女は探索者たちの質問にはほとんど答えてくれます。その方が時間を稼げるからです。
彼女の言葉に惑わされず、探索者たちは脱出手段を探らなければなりません。
☆怪談が消える時
探索者たちは『第七の怪談』となることで完全に異界の存在になろうとしています。
このことは『亡霊の少女』の怪談を読んだ瞬間、探索者たちは本能的に認識出来るでしょう。
ということは第七の怪談が破綻すれば、彼らは異界の存在ではなくなります。
第七の怪談が破綻するパターンは主に二つ。
『学校の外に出る』『永遠に生きられなくなる』。
そのどちらかを探索者のうち一人でも達成すれば脱出が可能です。
学校の外に出るには、窓を割ったり嵐の中を走ったりといった手順が必要となります。
ハッキリ言えば無謀なのですが、一応こちらの方法でも脱出は可能です。
その際は二階の窓から安全に降りるために<登攀>/2や嵐の中を進むためにSTR*2÷2、
体力を持たせるためにCON*2÷2などが必要となるでしょう。
永遠に生きられなくなるには……話は単純です。
包丁を持ち運んでいれば、その手段は若干思いつきやすくなるでしょう。
自殺した探索者は正気度を固定で5ポイント失います。
脱出に成功すると視界が濁っていく感覚に襲われ、時間感覚が薄れ、意識が遠のいていきます。
8.此方の世界
目が覚めると体育館で、ひんやりとした床の上に寝転がっています。
小道具もあの完成度はどこへやら。不格好な未完成品の状態で転がっています。
そんな二人の元に前原が訪れます。彼女は差し入れの缶ジュースを手渡した後、こう言います。
「七つ目の怪談だけど、やっぱり見つけられなかったよ。
だから二人の提案通り、新しい怪談を作ってそれを七つ目の怪談ってことで通そっか」
件の小道具は、七つ目の怪談になるはずの新たな怪談のための品。
思い入れのあるお化けを学園祭で活躍させるために探索者たちが作った、『新しい七つ目の怪談』のための品物でした。
ですが、前原はこうも言います。
「あ、でもさ。そんなに微妙そうな顔するなら、何か別のにする?」
その質問にどう答えるかは、探索者たち次第です。
☆結びのポエム
ほんの数十年前に戦争があった。
大勢の人々が死に、生き残った人々にも一生消えない傷が残された。
そんな時代に、みんなを楽しませることを願った少年たちがいた。
彼らの夢は叶わなかったが、その残滓は生き残り続けた。
形を変え、姿を変えて、怖さを楽しむ『七つの怪談』として。
ほんの数時間前に君たちは少女と出会った。
忘れられないことを望んだ少女は、人を楽しませるという純粋な願いから生まれたイレギュラーな存在だったのか。
それとも『七つ目の怪談』という作品が整形されていくことを拒んだ、少年たちの心の代弁者だったのか。
今はもう、誰にも分からない。
☆バッドエンド分岐
彼らが現世に戻ってくることはありません。
誰もいない体育館には、作りかけの小道具だけがぽつんと残されています。
差し入れをしに来た前原は、誰もいないことにキョトンと首をかしげることでしょう。
……そう遠くない未来に七つ目の怪談は流布されることになります。
被害者役として二人の探索者の名が添えられて。
その中で鞠は永遠に生き続けることになるでしょう。
それが人々に忘れられない限りは。
9.終わりに
短時間でさっくり楽しめるように作ったシナリオです。
……なのですが、だんだん話が膨らんで中編くらいの尺になりました。
短時間でサクサク攻略する、プレイヤーの技量を試すシナリオとするか。
あるいは時間を取ってゆっくりと楽しむ、怪談モノのシナリオとするか。
それは画面の前のアナタ次第です(丸投げ)。
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