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八津砂小学校ではさほど珍しくもない自習の時間。
探索者たちは同じ班となった少女、『津村汐里』に話しかけられます。
彼女は『きつねの小窓』という怪談について情報を求めており、探索者たちに聞きこみしようと考えたのです。
探索者たちはそれについて知りませんが、逆に聞き返すと以下のような内容を教えてくれます。
●『きつねの小窓』とは、今見ている世界と違う世界を覗くためのおまじない。
●違う世界では幽霊が見えたりといった、不思議な出来事が普通に起こる。
学校に伝わる『5つの怪談』も、異界でなら正体を確かめられるかもしれない。
●おまじないを成功させるのには条件がいくつかある。謂れのある場所であることと、謂れのある時間であること。
●実は今日の深夜に試してみようかと思っている。
『5つの怪談』については、難易度2の<オカルト>に成功すれば思い出すことが出来ます。
●1つ目の怪談は、火事で亡くなった教育実習生の霊が深夜の3階の教室に現れ、授業を受ける子が来るのを待っているというもの。
捕まってしまうと、彼女の元で永遠に授業を受けさせられるとの噂がある。
●2つ目の怪談は、病死した保健室登校の男子生徒の霊が、廊下を歩いていると後を付けてくるというもの。
足音がいつの間にか一人分増えており、気づかないままでいると、あの世に引きずり込まれてしまうらしい。
●3つ目の怪談は、事故死した息子を持つ女性の霊について。
彼女は事故を未然に防ぐべく、廊下を走るような不注意な生徒を見つけると、包丁を握りしめて追いかける。
そして足の腱を切り落とし、二度と走れなくしてしまうという。
●4つ目の怪談は、世話していたうさぎを守ろうとして殺された女子生徒の霊の話。
彼女はあの世のうさぎ小屋で、世話していたうさぎたちが来るのを永遠に待っている。
が、うさぎたちは彼女より先に死んで成仏してしまったため、彼女だけが取り残されているとか。
●5つ目の怪談は……開かずの屋上についてのもの。
常に鍵を掛けられ、生徒たちが入れない屋上には、飛び降り自殺したものの霊が現れる。
それらは生徒を屋上で見つけると、背中を突き飛ばして殺してしまう。
そして死んだ生徒も、彼らの一員となって獲物を待ち続けるとのこと。
汐里はそれだけ言うと、もう用は無いとばかりに自習課題に取り組み始めます。
同行を申し出たり、調査に協力を申し出ても同じで、『友達ごっこならアンタたちだけでやってなさい』などと言われるだけで、ちっとも話を聞いてくれません。
幼いうちは興味もコロコロと移りやすいため、探索者たちも課題に取り込んでいる内、怪談のことなどすっかり忘れているでしょう。
自習の時間が終われば、汐里が探索者たちに自分から関わろうとすることもありません。
始業時間のチャイムが鳴っても、担任の先生は入って来ません。
それどころか、毎年皆勤賞を取っていた汐里の姿も、クラスの中には見えません。
困惑していると担任が焦燥した様子でドアを開け、今日は自習だと伝え、喜ぶ生徒たちを静止するように続きを言います。
「汐里ちゃんだけど、今日の朝から姿が見えないんだ。学校にも、もちろん家にも」
「何か心当たりがあれば、先生に教えてほしい」
ざわつく生徒たちを尻目に、鳴海は教室を出ていきます。
探索者たちが彼を呼び止めたり、話を聞くように頼めば、彼は教室の外で話を聞いてくれます。
ただし、彼にどれだけ根気よく説明しようと、『きつねの小窓』のオカルト的な部分が事件に関わっていることは納得してもらえません。
異界の存在など、常識で考えれば荒唐無稽なことなのです。
少なくとも大人たちはそう考えており、探索者たちの調査には協力してくれることは無いでしょう。
鳴海と話し終えて教室に戻るか、初めから教室で相談していると、そこに石頭な堅物で有名な教頭先生が入ってきます。
彼の手には分厚い紙束。それは中学年の生徒たちに個別に用意された、実にありがたい自習課題です。
探索者たちは漫画の単行本ほどもあるそれに忙殺され、汐里のことを考えられるのは放課後となることでしょう。
探索可能な場所を箇条書きにし、それらの場所から得られる情報を列記しています。
これらを調べる順序はバラバラであっても、進行の妨げになることはありません。
この場所を探す主な目的は、汐里の言っていた『怪談』に関する情報収集となります。
5つの怪談はそれぞれ学校で起きた事件を元にしているため、情報を集めるのは容易です。
なお、下に書かれていない教室については、今回のシナリオでは関わらないものとして扱います。
校長先生も八津砂小学校に存在してはいますが、当日は警察に協力するため、学校を離れています。
探索者たちのクラスの担任、鳴海(なるみ)が椅子に座っています。
捜索は進んでいますが、汐里がどこへ消えてしまったのかは、まだ判明していません。
鳴海は首を傾げ、探索者たちにも危ないことに巻き込まれないように早く帰れと言いますが、質問には答えてくれます。
彼は1つ目と5つ目の怪談について、詳しいことを知っています。
●12年前、八津砂小学校で火災が発生。
教育実習生が逃げ遅れた生徒を助けようと校舎へ戻るも、高熱の煙を吸い込み気絶、そのまま二人とも焼死したとのことです。
彼女が授業をしたがっているとされていることについて、鳴海は理解を示します。
自身も教育実習生だったころ、それが一番の楽しみだったと。
あの教壇に立って、生徒に感謝の言葉を貰えるような授業をしてみたかったとのことです。
なお、このことを伝え終えると、彼は「生徒に感謝の言葉を貰えるような、ね……うん、そういうのがあると先生って嬉しいしさ。そういう一言で満足出来るんだよ、うん」などと、探索者たちをチラチラ見つつ言い始めます。
日頃の感謝(があるなら)を伝えると、彼は露骨に大喜びすることでしょう。
●実習生は『新谷』という苗字で、当時導入されたばかりのワープロ(文字入力のみを行う、簡易コンピュータのようなもの)をテキパキと使いこなす姿が印象的だった、と校長先生は語っていたそうです。
●5つ目の怪談は、まったく根拠の無いデタラメ。
屋上に生徒が立ち入れないのは、落下防止の柵が壊れて危ないからであり、大人は点検のために普通に入ることが出来るそうです。
ただ、危ないので生徒が入れないよう、鍵は職員室にも置かれておらず、必要な時だけ教頭や校長先生が持ってくるとか。
この内、5つ目の怪談についての情報は、教師や用務員のNPCが共通して知っています。
また、鳴海の机の上には大きなノートパソコンが置かれています。
これは当時最新式のWindows98(英語版)が内蔵されたもので、彼が半ば私物化しています。
パソコンに興味を示すと、鳴海は得意気に機能を紹介して自慢しようとします。その中には音声合成のソフトも混じっています。
今で言う『ゆっくりボイス』のさらに未発展なもの。ちゃちな合成音声ですが、キーボードで文字を入力するだけで作成可能です。
汐里のお隣さん、琴浦 佳子(ことうら かこ)がいます。
物静かで気の弱い生徒のため、あまりに高圧的に迫ったり、恐怖心が浮かぶような情報を話させようとすると、逃げ出したり気絶してしまったりするでしょう。
彼女から得られる情報は以下の通りです。
●『きつねの小窓』については、佳子はあまり良く知らない。
●汐里は『5つの怪談』に興味を持っており、それを調べたいと考えていたようだ。
●怪談の内容については佳子も知っている。だが、3つ目と5つ目の怪談は怖がって話すのを嫌がり、4つ目の怪談は話している最中に悲しんで泣き出してしまう。
彼女の口から聞き出すには、何らかの技能(精神分析や言いくるめ)の成功が必要となる。
●汐里は主に図書室や町の図書館で本を借りたり、雑誌を買ったりして情報を集めていたようだ。
そういえば、今日はその雑誌の発売予定日だった。
掲示されているポスターの中に、<芸術>技能を持った探索者が描いたものが混じっています。
それは交通安全の啓発ポスターで、生徒自筆のイラストが大きく記載されています。
このポスターには不審な点はありませんが、難易度3、描いた探索者なら2の<アイデア>INTロールに成功すると、このポスターは毎年作成され、学校の伝統になっていると思い出します。
出入りするメンバーがほぼ固定された、狭い図書室です。
高学年の図書委員が一人おり、彼が貸出や返却などを行っています。
オカルト本も数冊あり、難易度2の<図書館>に成功すれば、調べる内容に応じた情報の収集が可能です。
さらに見つけた本を読むには、難易度3の<日本語>のロールが必要です。漢字辞書などを使えば、難易度を1つ下げても良いでしょう。
●八津砂小学校の図書室には、一般的な新聞は置いていないが、生徒たちの作った学校新聞から情報を集めることが出来る。
そして、それらを読んでいる内に、怪談には元となる事件がそれぞれ存在していると気づく。
12年前に起きた校舎の火災で、教育実習生の『新谷 雫(あらたに しずく)』が亡くなったという事件は、1つ目の怪談の内容と良く似ている。
8年前、2年生の生徒が病死したということは2つ目の怪談を連想させるし、20年前に起きた交通事故……
用務員の七嶋(ななしま)さんの子どもが車に轢かれ、その後一週間も経たずに妻も事故に巻き込まれたというものは、3つ目の怪談を想起させる。
もちろん、4つ目の怪談も同じだ。7年前に暴走族のグループが夜の学校に侵入し、たまたまその日に遅くまで残っていた生き物係の生徒が、彼らを止めようとして殴られ、ショックを起こして死亡している。
いずれも配慮のためか、詳しい死因や背景は書かれていないが、それでも件の怪談と結びつけるには容易だろう。
●ただ、5つ目の怪談に該当する事実は一切見つからない。飛び降り自殺した生徒など存在せず、落下などの事故が起きたという話もない。
●それ以外(怪談に関連するもの)の事件も調べた場合、20年前の行方不明事件が見つかる。
一年生の女子が夜中に家を出て行方不明となり、懸命な捜査も虚しく、手がかりも見つからなかったというものである。
彼女の個人情報については、『河瀬穂垂』という名前であったこと程度しかわからない。
事件から数年間は、断続的に情報提供を求める内容が学校新聞に掲載されていたが、今はそれも絶たれている。
この情報を得た場合、難易度3の<幸運>に成功した探索者は、毎年この日に八津砂町を訪れる老夫婦に出会ったことがあります。
彼らもまた、『河瀬穂垂』という娘を探していたのだとも思い出せるでしょう。
●異界とは、普段住んでいる世界と重なり合うように存在している別世界である。
表と裏、裏と表のように異界と世界は対応しており、大昔は異界の住人との交流すら行われていたという。
しかし、現代では眉唾もののオカルト話の一つとしか認識されていない。日本各地に似たような記述や伝承が見つかるにも関わらず、である。
●多くの民俗学者たちが、『狐狗狸さんの通り道』及び その類話……『護法童子の鏡』『きつねの小窓』などと称されるそれを蒐集することに成功している。
これらの類話に共通するのは、異界を見るためのまじないの存在と、その方法、そして異界へ迷い込んでしまった際の脱出方法の解説である。
●異界に迷い込んだ魂は、その侵入口となった場所に魂を縛られてしまう。
例えば神社なら境内の外へは出られないし、家屋ならば玄関の外へは出られない、といった具合に。
もともと異物であるため、そういった不都合が生じてしまうのだろう。
この本を読んだ探索者が難易度2の<アイデア>INTロールに成功すると、『きつねの小窓』にも脱出方法が存在するのでは? と推測出来ます。
また、図書室で本を読んでいると、退屈そうな図書委員が話しかけてきます。
彼は探索者に「怪談ものに興味があるのか」と尋ね、答えによっては以下のことを教えてくれます。
●深夜の美術室の鏡には幽霊が映る、という話を聞いたことがある。
まあ、どうせ石膏の像か何かを見間違えたんだろうけど。
2床のベッドとソファ、そして簡素な医療機器の並んだ貧相な保健室です。
保険の先生が常駐しており、普段は顕微鏡でペット(ミジンコのサマンサちゃん)を観察しています。
彼から得られる情報は以下の通りです。
●2つ目の怪談については聞いたことがある。
8年前、保健室登校を続けていた生徒が病室で亡くなり、以来保健室を訪れた生徒が『おかしな足音が付いてきた』などと訴えるようになった。
保険の先生はそれを、『病死した生徒に関わってあげられなかった、そんな引け目からくる幻聴だったんだろうね』と考えています。
当時の生徒はあまり彼に興味を示さなかったので、彼はいつも保健室で勉強をしながら、窓から聞こえる楽しげな声を聞いて寂しそうにしていたそうです。
用務員の七嶋さんが詰めています。
年の瀬は50代半ばといったところで、人の良さそうな柔和な笑みをいつも浮かべています。
彼は温厚な性格で有名ですが、怪談や幽霊という言葉を聞くと、その笑みに曇りが混ざります。
理由を尋ねると、「怪談なんて亡くなった人をおもちゃにしているだけだ。幽霊だの、恨みだの……」と熱を帯びた調子で話します。
彼は亡くなった妻が怪談の題材にされ、人を襲うなどと言われていることに酷く腹を立てているのです。
ただ、彼は自分のことを深く語るのを嫌がるため、探索者たちは別途調べなければ、七嶋と怪談の関係について知ることは出来ません。
七嶋と怪談の関係について、彼の気持ちを気遣いつつ追求した場合、彼は以下のことを教えてくれます。
●確かに、僕の妻と息子が事故で亡くなったというのは本当だ。
だが、妻はそんな怪談話に出てくるような、あくどい人間では無かった。
●妻の死後、当時の学校の人々が交通安全の啓蒙ポスターを作り、その活動は今も続いている。
僕はそれが嬉しく思うし、妻も子もそのことを知ればきっと喜んでくれるだろう。
あんな悲劇に巻き込まれる人が減るのは、妻にとっても嬉しいことに違いないだろうから。
用務員室の中には目立ったものはありませんが、難易度2の<目星>に成功すると、一枚の写真を見つけることが出来ます。
そこには優しそうな中年女性と今より少し若い七嶋、そして6歳くらいの少年が写っています。
うさぎ小屋の管理をしているのは生き物係のクラスメイト、己ノ瀬 操(みのせ みさお)です。
彼女は4つ目の怪談について知っていますが、うさぎの世話に忙しいらしく、あまり探索者たちに構ってはくれません。
「私のうさ吉(雑種・♂)の世話を素人なんぞにやらせられるか!」……と、彼女は口癖のように言います。
彼女は自分の仕事(というには多少大げさですが)に誇りを持っており、実際それに見合うだけの実力を持っているのです。
小屋の中を見渡せば、うさぎたちがそれはもう幸せそうに、うさうさと寝そべっているのが分かるでしょう。
彼女から話を聞き出すには、難易度3の<言いくるめ>ロールに成功するか、気を引くことが必要です。
うさぎ小屋の周囲を見渡すと、学校を覆っている金網状のフェンス、その下の地面にどこか違和感を覚えます。
難易度4の<目星>に成功するか、調べて回って見ると、砂を盛られたビニールシートの下に、子供なら通れる程度の穴が開いているのに気づけるでしょう。
操はこの秘密を知られることを嫌がります。何を隠そう、穴を用意したのは彼女であり、それが露見すれば夜中にこっそり学校に侵入し、うさぎたちと戯れることが不可能になってしまうからです。
秘密をばらさない代わりに、とお願いすれば、彼女は4つ目の怪談について知っていることを教えてくれます。
●7年前、となり町の不良グループが学校に侵入し、うさぎ小屋の中へ入って狼藉を働いていた。
もちろん、うさぎと戯れたいなどという理由ではない。単なる自己満足だ。
自分たちは小学校のころから鼻つまみ者だったのに、こいつらはただ食って寝ているだけで人気者。
昔からそれに腹が立っていたのだ、と彼らは逮捕後に語っていたそうだ。
だが、偶然用事があり、遅くまで学校に残っていた生き物係の女子生徒と遭遇。
彼女に問いつめられたことに腹を立て殴り飛ばしたところ、動かなくなってしまった。
……用務員の七嶋さんが物音を聞きつけて駆けつけた時には、もう不良グループは逃げていて、生徒は心臓が止まっていたそうだ。
操は未練があるのも分かる、と言います。
「うさぎは、動物は弱いんだ。この子たちの面倒を見てやれるのは私だけ。そう思ったんだろうな」
「まあ、現実には私のような天才がいるから大丈夫なんだがな!」ドヤァ
ほんのり絵の具の匂いが漂う美術室です。
安っぽい石膏像や絵画、大きな姿見(鏡)などが飾られています。
ただ、この時間に姿見を覗き込んでも、この時点では普通のものしか見えません。
汐里の母親が彼女の帰りを待っています。
探索者たちが訪れると、捻くれ者の汐里に心配してくれている友達がいたことに、涙を流して喜びます。
彼女の部屋には勝手に入らないように強く求められていますが、難易度2の<言いくるめ>や<説得>に成功すれば、母親は中へ入れてくれるでしょう。
汐里の部屋は狭く、学習机や本棚、ベッドがあるのみ。
学習机の上にはノートパソコンが置かれており、難易度3の<コンピューター>に成功すれば彼女の普段の研究内容を探ることが出来ます。
アクセス履歴などからは、以下のことが分かるでしょう。
●『きつねの小窓』は、先月発行されたオカルト雑誌で特集された怪談である。
類話が複数存在し、内容にはそれぞれ差が見られるらしい。
また、この怪談の情報元は弥代市(八津砂を一部に含む架空の市)である。オカルト雑誌は今後も情報を集めていく方針らしい。
本棚には教科書以外には数冊の青年漫画本、図書館のシールが貼られたオカルト本程度しか入っていません。
オカルト本の内容は、探索者たちが取り逃がした情報を充てると良いでしょう。
ベッドは布団が膨らんでおり、めくると大きなクマのぬいぐるみが寝っ転がされた体勢で入っています。
八津砂町に一軒しかない本屋さんです。
品揃えは下の中といった所で、置いていない本は注文して しばらく待たねば手に入りません。
本の品揃えをごまかすかのように、文房具なども取り扱っています。
中年の女性が店主を勤めており、愛想よく応対してくれます。
探索者たちが雑誌について情報を得ていれば、入手するためにここを訪れることになるでしょう。
ただし、例の雑誌は現在売れる分がなく、取り寄せないといけないと店主は言います。
自主的に気づくか、難易度3の<目星>に成功すれば、カウンターの奥に一冊だけ雑誌があるのを見つけます。
これは汐里が予約し、取り置いている商品なので、探索者たちへは売れないのです。
探索者たちが難易度3(言い分によっては2)の<言いくるめ>に成功すれば、本を売ってもらうことが出来るでしょう。
本を読むには、さらに難易度3の<日本語>に成功することが必要です。内容はこんな感じとなっています。
●前号で特集した『きつねの小窓』であるが、弥代市では古くから各所に伝わる怪談だったらしい。
我々は市の住人に取材を行うことで、もう少しだけ情報を集めることが出来た。
どうやら『きつねの小窓』には、万が一異界へ迷い込んでしまった時のための『脱出手段』が付随して伝わっていたようなのだ。
しかし、それはいつの間にやら失われてしまい、本体となる怪談話だけが生き残り続けていた。
無論、我々は時流に淘汰された程度で諦めることは無い。綿密な取材、滝行、参拝、霊能力。さらには気功探知やダウジング。
それらに加え、偶然入った古本屋で一冊の古書を発見したことで、我々はついに失われた神秘へと辿り着いた。超自然の勝利である。
異界からの脱出手段は、異界に蠢く雑多な霊魂、ハッキリとした自我を持たぬそれらに願いを掛け、解放を祈願するというものだ。
しかし、祈願の手段こそ問われないが、それら霊魂は貪欲である。彼らは解放の見返りに、術者の体から何かを奪おうとするだろう。
それが何であるかは、ただ霊魂の機嫌次第である。
異界に入った探索者たちは、この方法を用いることにより脱出を試みることが出来ます。
しかし、もちろんながら脱出の対価は払わねばなりません。
キーパーは探索者たちの行動や言動に見合った対価を支払わせ、セッションを終わらせなければならないでしょう。
彼らがどんなエンディングを迎えるかは、その場その場の状況次第となります。
鍵が掛けられており、生徒たちは入ることが出来ません。
落下防止柵が老朽化によって壊れているため、安全のために立ち入らせないようになっているのです。
難易度4の<鍵開け>で開くことが可能といえば可能ですが、情報は手に入らず、見つかれば怒られるだけで終わります。
ここについて調べるには、教師の誰かに尋ねることが必要です。
探索者が上記の探索を終え、学校の外にいる時に発生します。
八津砂町ではあまり見ない顔の老夫婦が、難しそうな顔で手元の写真を見つめているのです。
彼らは20年前に行方不明となった娘を探し、毎年この時期になると八津砂町を訪れる夫妻です。
これ以前に彼らの情報を得ておらず、<幸運>も試していない場合、ここで難易度4の<幸運>に成功すれば、彼らと出会ったことがあることになり、彼らのことを思い出すことが出来ます。
探索者たちが反応すると、彼らは写真を探索者へと見せ、「この写真の人を見たことは無いか」と尋ねます。
それは青い無地の背景に無表情の20代半ばの女性が写された、免許証のような写真です。
難易度3の<芸術>、もしくは難易度2の<コンピュータ>に成功すれば、不自然さから『合成写真でないのか?』と疑いを持てるでしょう。
そのことについて尋ねると、以下のことを教えて貰えます。
●お察しの通り、この写真は合成写真。
20年前に行方不明になった娘が成長した姿を、コンピュータで計算して作ってもらったものです。
●費用と手間は掛かりましたが、今年こそ何か手がかりが見つかれば、と思ったのです。
彼らがどうして町へ来たのか、行方不明の娘とは、と話題を変えると、今度は以下のことを教えてもらえます。
●今日は娘が行方不明になったのと同じ日付なのです。
毎年この時期には八津砂町を訪れ、何か娘についての手がかりがないのか、と尋ねて回っています。
●成果は出ていませんが、諦めることは出来ません。親とはそういうものなのです。
けれど八津砂小学校だけは、あの子の行方不明から時間が経ってもいますので、近頃……10年と少し前からは訪れてはいません。
あの場所で元気に遊び、勉強をすることが出来る子供たちを見るのも、複雑な気持ちなので。
●娘の名前は『河瀬 穂垂(ほたる)』。同年代と比べても背が低く、人懐っこい性格をしています。
それと、もう一つ特徴があります。生まれつき『赤色』を認識しづらく、それが白色のように見えてしまうのです。
そのことは結局行方不明になるまで、教えることは出来ませんでした。
まだ幼かったので、その事実を受け止めるには早いだろう、と考えていたのです。
探索者たちとの会話を終えると、彼らは写真を一枚手渡し、もし似ている人を見つけたら教えてほしい、と言います。
彼らは怪談に関する情報や『きつねの小窓』に関する情報、汐里の行方不明に関する情報(事件が起こった、という事実は知っていますが)は持っていません。
以上の調査を終えるころには、もう夕焼け空となっているでしょう。
夏場の空が暗くなるにはまだ早いですが、汐里の件もあるため、会う大人会う大人が探索者たちを心配し、家に帰るよう促します。
探索者は家に帰り、現地に赴いて『きつねの小窓』を試すための準備をすることとなります。
ただ、プレイヤーの性格によっては調査に不十分を感じ、明日以降に試すのを先延ばししたがるかもしれません。
そういった場合は、就寝時に汐里が深夜の校舎を彷徨い、怪談の内容に脅かされるという奇妙なリアリティを持った悪夢を見て飛び起き、<0/1>正気度を喪失します。
彼女が異界でいつまでも無事である保障はない、ということを伝え、その夜の内に調査に出向いてもらうと良いでしょう。
準備を終えた探索者は、それぞれ夜の校舎にて集合することとなります。
夜の校舎には明かりが一切点いておらず、普段の賑やかさが一転して静まり返り、そのギャップが非論理的な恐怖感を浮かばせます。
探索者たちが校門の前を横切ると、難易度2の<聞き耳>ロールが発生します。
成功すれば、鳴海が懐中電灯で足元を照らしつつ、校内を巡回しているのに気づけるでしょう。
彼は汐里の真似をする生徒が出ないかを危惧し、自主的に居残りしてパトロールを行っているのです。
捕まってしまえば、上手いこと言いくるめ(怪談が本当かだけ確認したら帰るから)したり、逃げ出したりしない限り、調査は失敗に終わってしまいます。
ただ、彼は足音を立てながら歩いており、懐中電灯の明かりが彼の位置を伝えてくれるため、見つからずに校舎を探索するのは容易です。
校舎の周囲は格子状のフェンスで囲まれ、登ることこそ簡単であるものの、頂上には有刺鉄線が茨めいて行く手を阻んでいます。
日中に操から情報を得ていれば、その位置から進むことであっさり突破出来るでしょう。
校舎の出入り口には鍵が掛かっていますが、事前に教室の窓を開けておいたり(所詮鳴海なので、窓の鍵閉めまで確認していない可能性は十分にあります)、あるいは<鍵開け>に成功すれば侵入が可能です。
どうしても打つ手がなく、校舎に侵入する場合はわざと鳴海に見つかって鍵を開けてもらうなど機転を利かせる必要があるでしょう。
実のところ、このシナリオでは夜中の校舎に侵入するのは必須ではありません。
後述の通り、うさぎ小屋で『きつねの小窓』を試せば、シナリオは先へ進行します。
深夜の校舎は不気味でこそあるものの、怪談が現実化したり、鏡に幽霊が映ったりといった怪奇現象は起こりません。
日中と比べて変化が起きている箇所もないので、探索は程々にして『きつねの小窓』を試すこととなるでしょう。
怪談に関わりのある場所(1階廊下・うさぎ小屋・保健室・3階教室・屋上のいずれか)で小窓を開くと、9へ移行します。
『きつねの小窓』の通りに複雑な形の印を組むと、1d3MPを消費し、ぼんやりと『小窓』に景色が浮かび上がります。
小窓越しに見える景色は、『赤色の光に照らされている』点が大きく異なります。
さらに開いた場所によって違った人物が、小窓越しの景色には映っています。
1階廊下なら包丁を持った老婆、うさぎ小屋なら椅子に腰掛けた俯く少女、保健室と3階教室なら、何者かから身を隠そうとしている汐里、といった具合です。
種も仕掛けも、科学的根拠も全く無い『きつねの小窓』の効力を体験した探索者は、初回のみ<1/1d3>正気度を喪失します。
小窓越しの景色を覗いている探索者は、突如として景色に割って入った少女の姿を見ます。
それは年の瀬6歳くらいの女の子で、探索者と視線を合わせてニコニコと微笑み、腕を伸ばします。
すると、途端に『小窓』の小さな隙間から、明らかに隙間よりも大きな腕が飛び出し、その探索者の首を締め上げます。
体を動かして抵抗しようにも、凍りついたように体が動かず、為す術もなく『小窓』の中へと引きずり込まれていきます。
『自分の指の隙間に、全身が呑まれていく』という非現実的な現象を体感した探索者は<1/1d6>正気度を失い、次の展開へと移行します。
小窓を覗いていなかった探索者も、体が勝手に『小窓』を組み上げ、それによって生じた隙間に呑まれていくことになるでしょう。
(これ以降は異界がメインとなるため、探索者たちにはなるべく自分の意思で小窓を開いてほしいところです)
引きずり込まれた時の場所に関わらず、探索者たちは3階の教室で目を覚まします。
そして、倒れた探索者たちを心配そうに見つめている少女の姿もあります。津村汐里です。
彼女は追ってくる謎の少女から逃げ、教室という教室を回っている内に探索者たちを見つけ、「放っておけないから、仕方がなく一緒にいてやった」のだそうです。
探索者たちが目を覚ましたことに安堵しているように見えますが、それは「気のせい」だそうです。
彼女は探索者たちがここに来た理由について知りたがります。しかし、クラスメイトだから、友達だからといった答えには不思議がります。
クラスメイトや友達などと言うのは、寂しさをごまかすだけの上っ面の関係に過ぎず、いざというときは役に立たない、と彼女は思い込んでいるのです。
彼女との会話で得られる情報は以下の通りです。
●ここは『異界』と呼ばれる場所。一種の平行世界のような場所で、怪談や幽霊が実体を持っている。
●『きつねの小窓』を開いた時、謎の女の子(穂垂)を見た。その子に引きずり込まれて、気づいたらここにいた。
にこにこ笑いながら話しかけてきたけれど、怖く(咳き込んで誤魔化し、言い換える)身の危険を感じたので、走らないように注意しつつ逃げ回っていた。
●5つの怪談について知っていることは、探索者たちと大差無い。
得られていない情報があるなら、彼女の口から語らせても良いかもしれない。せいぜい一つか二つだが。
彼女は5つの怪談について聞かれると、ポケットに手を突っ込んでメモ帳を探す。だが、見つからない。この辺に落としたらしい。
●幽霊や怪談からは逃げていた。こういうのは生きている人間を取り殺そうとしていると相場が決まっている。
彼らには恨みや憎しみしか無いのだから。
●帰る手段は、今のところ見つかっていない。手がかりも無い。
探索者たちが周囲を観察すると、一冊のメモ帳が落ちていることに気づきます。
これは汐里の持っていたメモ帳で、彼女が逃げる際に落としてしまったそうです。
中身は5つの怪談についての情報であり、彼女の知っているものと変わりありませんが、5つ目の怪談だけが追記されています。
『4つのかいだんを かいけつしたとき おく上に女の子が 出てくる』……と、拙い字で。
漢字の混ざり具合から分かる通り、これは穂垂の書いた文字です。
彼女は『怪談に興味を持っていた汐里が、自分を怖がって友達になってくれないのは何故か?』と考え、『自分が怪談と関係がないから』という結論に辿り着きました。
そこで拾ったメモ帳に一文を書き加え、彼女自身が『5つ目の怪談』の正体となろうとしたのです。
ここからのイベントは、どのような順番で進行しても大きな変化は生じません。
最終的に4つの鍵を手に入れれば、次の展開へと進むことが出来ます。
3階の教室は高学年の教室です。これといって目立った品はありませんが、ここは1つ目の怪談の該当地でもあります。
探索者たちが椅子に座って待つなど、授業を受ける意思を示すと、廊下側から足音が聞こえます。それはゆっくりと教室へ近づいてきます。
汐里がいる場合、彼女は「早く逃げよう、今ならまだ間に合う」などと言いますが、一人で逃げるのも怖いので、探索者たちが逃げなければ彼女も座ったままでいます。
やがて教室に現れるのは、『足が無い、半透明』などといったステレオタイプなイメージを持たず、しかし本能的にそれが『生きていない』と感じられる、スーツを着た若い女性です。
幽霊を目撃した探索者は、<0/1>の正気度を喪失します。
彼女はやや緊張した面持ちで教壇に上ると、黒板に自身の名前……『新谷 雫』を書き、探索者たちへ挨拶しようとします。
ですが口を開いた彼女から、その名を聞けることはありません。彼女の喉から出てくるのは、くぐもった『音』に過ぎず、人語の体を成していないのです。
死亡した時、高熱のガスを大量に吸い込み、喉が爛れて声が出せなくなったのです。そのことが、幽霊となった今でも尾を引いています。
それでもなんとか授業を執り行なおうと、焦った様子で何度も喋ろうとしますが、その努力が報われることはありません。
彼女は目に薄っすら涙を浮かべつつ、黒板に『ごめんなさい、声が出ないの』と書き、探索者に謝ります。
筆談で授業を行うのは時間が掛かり過ぎますし、慣れているのならともかく、これが初の授業となる彼女には無理があります。
鳴海の無駄遣いで買われたノートパソコンは、ここで初めて役に立つこととなります。
音声合成ソフトを使えば、彼女も声を出すことが可能になります。
生前使いこなせていたワープロとキー配列が似ているため、少しもたつくものの、すぐに上手に扱えるようになるでしょう。
彼女の行う授業は、やはり拙さや未熟さを感じさせる、どこか頼りないものです。
ですが、彼女自身の頭で考え、子供たちに分かってもらおうと噛み砕かれた言葉は、確かに探索者たちの心に届きます。
チャイムが鳴り、授業が終わると同時に、彼女の体は足元から灰白色の石のように変わりはじめます。
彼女は焦った様子もなく、何かをキーボードに打ち遺せたとともに体が完全に石像へと変わり、それが砂の柱となって崩れ落ちます。
消えた後に残されるのは、砂の中から見つかる小さな鍵と、画面に映る『ありがとう』という簡素な言葉のみです。
この鍵は、他の怪談が消滅した時に遺るものと同一のもので、統一性のあるシンプルなデザインをしています。
特に変わった点はなく、ほのかな温もりを持っている以外は一般的な鍵と変わりは無いでしょう。
2階の廊下に出ると、歩いている内にいつの間にか足音が増えていることに気づけます。
振り返っても誰もおらず、足音の主を特定するための情報は何ら見当たりません。
この奇怪な現象を体験した探索者は、<0/1d2>正気度を喪失します。
足音の主は病死した保健室登校の少年で、友達を求めて探索者たちの後を追ってきます。
彼は探索者たちの声も姿も認識することが出来ますが、探索者たちは足音以外、彼の声も姿も認識することが出来ません。
ただし、これを利用して簡素なコミュニケーションを取ることも出来ます。
『はい』なら1回、『いいえ』なら2回かかとを鳴らしてほしい、などと頼めば彼は答えてくれるでしょう。
彼の姿を認識するには、その姿を映しださねばなりません。
美術室に置いてある姿見を使えば、彼の姿を映し出すことが出来ます。
探索者たちが彼の姿を認めると、彼は右手を一番近くの探索者に差し伸べます。
握り返せば、骨と皮だけのような細い手の感触と、ほのかな体温を感じ取ることが出来るでしょう。
彼は探索者たちと握手を終えると、満足気な笑みを浮かべて消えてしまいます。それだけで、彼には十分だったのです。
姿があった位置には灰の山が残り、そこから鍵を拾うことが可能です。
探索者たちが廊下で走るか、あるいは用務員室を訪ねると、3つ目の怪談と出会うことが出来ます。
彼女は見るだに恐ろしい姿をしています。耳元まで裂けた口には牙のように尖った歯が並び、真っ赤に充血した目の中の、開ききった瞳孔が探索者たちを見下ろします。
身長は成人男性である鳴海を見下ろせるほどに高く、血管の浮かんだ腕の先には屠殺に用いられるような包丁が握りしめられ、ぬめりを持つ真っ赤な液体が付着しています。
彼女は生前は普通の姿をしていた(身長は元からですが)ものの、異界にこうして生まれたに当たり、自らの姿を作り変えたのです。
包丁を捻じり込んで口元を裂き、ヤスリで歯を削り、目に薬品を掛けて炎症を起こさせ、包丁に血糊を塗りつける。姿のみの威圧で済むよう、そうした努力が必要だったのです。
そんな彼女の姿を視認した探索者は、<1/1d3>正気度を失います。
もし探索者たちが廊下で走って彼女を呼び出してしまった場合、廊下の端から恐ろしい勢いで走り寄る彼女の姿を目撃することになります。
その場合は、<1/1d6>正気度を喪失するはめになってしまうでしょう。
彼女は生前の記憶を所持しており、強い強迫観念をそのまま持ち続けています。
『廊下を走るな』というのは不注意を戒めるためであり、それが事故を未然に防ぐための、自分に出来る手段だと考えているのです。
異界に留まり続けるのは、その強迫観念と、息子の死から何も生むことが出来ないまま死んでしまった、という無念が元となっています。
しかし、それは彼女だけの話であり、現世では彼女と息子の死後に作られたものがあります。
毎年作成される交通安全の啓発ポスターは、彼女を説得するための材料となります。
それを作成した探索者がいれば、彼女が納得してくれるのも早くなるでしょう。
息子が教訓という形で生き続けていることを知ると、彼女は落ち着いた声を出し、その姿も威圧するためのものから、元の優しげな中年女性のものへと戻っていきます。
彼女は今も寡夫ぐらしを続ける夫に、もう歳だからと体を気遣うよう伝えてくれと言い遺し、そのまま灰となって消えてしまいます。
やはりこの灰の中にも鍵が入っており、そこから拾っていくことが可能です。
校舎を出て、うさぎ小屋を訪れた探索者は、金網の奥に椅子に座り込んだ少女の姿を見つけます。
彼女は虚ろな瞳で小屋の中を見つめており、探索者たちの言葉にも生返事です。
質問にはある程度答えてくれますが、それ以上に反応してくれることは無いでしょう。
彼女も1つ目の怪談と同じく、亡くなった人間だと直感でハッキリと分かります。しかし正気度の喪失は、どちらか一方のみで事足りるでしょう。
彼女が異界へ縛り付けられているのは、うさぎたちへの責任感と役職への自負です。
うさぎを世話して、幸せにしてあげられるのは自分だけだと、そう彼女は思い込んでいるのです。
そんな思い込みを解くには、『きつねの小窓』の力を借りる必要があるでしょう。
現世のうさぎ小屋には、巳ノ瀬にお世話されたうさぎたちが幸せそうに丸くなって寝こけており、小窓越しにその風景を覗くことが出来ます。
自分の代わりを勤め、うさぎを幸せに出来る人間が小学校にいることを察した彼女は、この場から離れることを決意します。
すでに彼女が亡くなり何年も経っています。どの道、生きていても卒業すれば、うさぎの世話は他人に任せなければならないことは明白でした。
彼女は体が成長しないことを良いことに、自分が求められる心地の良い場所にしがみつき続けていたのです。
どこか諦めたような、しかし嬉しそうな笑みを浮かべ、彼女もまた、体を灰へと変えて消えてしまいます。
その灰の山から、4つ目の鍵を拾うことが出来るでしょう。
屋上への扉は重厚な錠前で閉ざされ、右上・右下・左上・左下に4つの鍵を差し込まない限り、開くことはありません。
この時点では先へ進むことは不可能であり、あまりここに来る必要は無いでしょう。
4つの鍵を揃えれば、ようやく屋上への扉を開くことが出来るようになります。
扉の前に到着すると、階段の踊り場で汐里が心情を吐露します。
探索者たちのことを見下し、薄っぺらい友情ごっこを続けていると思っていたものの、どうやらそうでは無かったらしいということ。
そして、探索者たちが助けに来てくれたと言った時、本当は嬉しかったということです。
……とはいえ未だに気恥ずかしさは抜け切れていないらしく、それらを語るのは、俯いたり目を逸らしたりしつつ、顔が赤いのを必死に誤魔化しながら、ですが。
彼女は本や読み物から得ていた偏った知識、そこから生まれる優越感にも似た思い込みから離れ、周囲の現実を素直に受け入れられるようになったのです。
汐里の告白が終わり、錠前を外すと屋上へたどり着くことが出来ます。
落下防止の柵が壊れ、プールがすぐ下に望める屋上には、貯水槽程度しか目立ったものは見当たりません。
ですが、その中央には一人の少女が立っており、嬉しそうに『自分が5つ目の怪談の正体』だと語ります。
そして、もう一つ。この世界から帰還する手段など存在しないこともです。
彼女は20年の間、一度だけしか両親が学校を訪れなかったことを知っており、2人はもう自分を諦めてしまったのだと思い込んでいます。
学校に縛り付けられ、そこから出ることが出来ない彼女には、両親が毎年八津砂町を訪れていることを知ることが出来なかったのです。
彼女を説得するには、彼らの心情を伝えることに加え、確たる証拠が必要です。
手間暇掛けて作られた、どこか目の前の少女の面影を残した合成写真は、両親の思いを伝えるのに役立つでしょう。
現実世界での技術の発展を知ることが無かった彼女には、それが探索者たちにもまして、高度な技術を持って作られたものだと思えます。
両親の思いを知ると、彼女は思い悩み、そのことを探索者たちに伝えます。
帰っても迎えてくれる人がいるかもしれない。でも、帰る手段がどこにも無いこと。
本を調べた時に見つけた、『赤い月に飛び込む』という脱出手段が、実現不可能であることを。
探索者たちの、もちろん穂垂の頭上にも、赤い月は煌々と浮かび続けています。
そこへ飛び込むことは不可能ですが、どこかに映されたものになら、簡単に飛び込むことが出来るでしょう。
プールへ移動するか、屋上からそこへ飛び込むことで、探索者たちは現実世界へ帰ることが可能となります。
赤い月へと飛び込むと、探索者たちはゾッとするような冷たさの中、意識を手放します。
彼らが目覚めるのは、午前7時の八津砂小学校の保健室です。
中には鳴海と保険の教師がおり、この不可解極まりない事態に延々と首を捻っています。
生徒数名に加え、行方不明の汐里に正体不明の少女が、何故か夜のプールサイドで気絶していたこと。
しかもその少女が、20年前に行方不明になった『河瀬穂垂』という名前を名乗っていることにです。
事件の裏側を知らない彼らには、もはや意味不明を通り越して理解不能とすら言えるでしょう。
『きつねの小窓』や『異界』の存在を語っても、彼らは子供のたわごとと相手にしてくれません。
いずれにせよ、彼らは大人として事件の後始末をつけねばなりません。
探索者たちや汐里は、夜の校舎に勝手に入って保護者に心配を掛けたこと。
(探索者たちが窓を開けていれば)鳴海は戸締まりの確認を怠っていたこと。
それらの罰を受けるため、一先ず探索者たちと汐里は教室に連れて行かれ、始業時間までクラスメイトに冷やかされつつ、プリントの山や説教と格闘させられることになります。
彼らだけが知る事実を抱えたまま、鳴海に先導されて教室への道を歩いていると、教頭先生に連れられた2人組の男女とすれ違います。
それは、昨日見た老夫婦の姿です。保健室へと入っていった彼らと穂垂がどのような会話を交わしたのかは、そして彼女がこれからどういった生活を送るのかは、キーパーの手に委ねられます。
無事に異界から帰還した探索者たちは、1d6の正気度を回復。
汐里と穂垂を助けだすことが出来ていれば、さらに1d3ポイントの正気度を獲得して、シナリオは終了します。
普段のものと比べると非常にほのぼのしており、探索者やNPCに感情移入出来る方向けとなっています。
そのため緊張感やスリル、恐怖を求める方には合いにくく、楽しみづらいシナリオです。
いろいろとクトゥルフらしくないシナリオですので、息抜き気分で遊んでみるのが良いでしょう。
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