基本的に物置き

●魔女とネズミのはなし

0.はじめに

このページにあるのは『クトゥルフ神話TRPG』に対応したシナリオ……の草稿。平たくいえばシナリオ完成までの初期型、未完成のプロトタイプです。
こういった草稿を実際に回し、浮かび上がった欠点やら説明不足を改善することでシナリオが出来上がっています。
そういうわけなので本来表に出すものではないのですが、完成品が登場したら、見比べていただけると楽しめるかもしれません。

シナリオの舞台は現代でなく、時間を少しだけ遡った『1998年10月』となっています。
探索者も大人でなく、『小学3~4年生』。普段とは毛色の違う探索を楽しむためのシナリオです。
年代設定もあり、普段の血生臭さやグロ描写は抑え、ほんのりホラーなほのぼの(当社比)ADVのような内容となっています。
そのため、プレイヤーには事前にそのことを伝えておくと良いでしょう。
推奨プレイ人数は『1~2人』。難易度は★2つといったところ。死人が出ることはほぼ無いでしょう。

なお、舞台となる『1998年』『八津砂町』などは変更しても問題ありません。
個人的、あるいは集団的なノスタルジーが感じられる年代、町の設定にしてしまうと良いでしょう。

1.ハウスルール・小学生探索者の作成手順

探索者作成の折、それぞれロールするダイスを一つ減らして作成します。
3d6なら2d6、2d6+6なら1d6+6といった具合です。ただし、3d6+3は1d6+6に置き換えます。
職業、個人技能点は固定で250/120ポイントが与えられます。
<アイデア>などステータスに5を掛けたものが初期値となるものは、7を掛けて算出します。
技能値は職業技能なら『60%』、個人技能なら『45%』を超えることが出来ません。ただし、<アイデア>などはこの制限に該当しません。
職業はルールブック記載の職業から、プロフィールに一番近いものを選ぶのが手っ取り早いです。
例えば、『この子は医者志望で両親から医学の手ほどきを受けている。だから、医者の職業技能を持っている』など。
もちろん、自由に作成してしまっても構いません。

◆背景設定<八津砂小学校/八津砂町>

兵庫県に位置する架空の市、『弥代市』にある田舎町。
八津砂小学校はそんな田舎町にある、過疎化の進む小学校です。以前はそれなりに生徒がいましたが、今やいくつかの教室が使われることなく、子供たちの遊び場となったまま放置されています。
生徒数は30名に満たず、2学年を1まとめ(小学年・中学年・高学年と称する)とした小規模な教育が行われています。
大人は教員数5名、用務員1名が在籍しています。

2.あらすじ

町外れの森の奥。打ち捨てられた廃屋を改装し、陰気な老婆が住み着いた。
田舎町の八津砂では、当然それは噂話の種となる。
しかし当人は町にほとんど姿を見せず、森の中にひっそりと暮らしているだけ。
好き放題の浮ついた噂が流れる中、八津砂小学校にも当然興味を持つものが現れ……

「噂だと、あのお婆さんは魔女だって話だ!(無思考)
 何かきっと悪いことを企んでいるに違いない!(無根拠)
 だから森の中に入って家を調べてみよう!(無鉄砲)」

同級生の浅葱 翔(あさぎ しょう)が企てた、無体な計画。
しかしそこに、単純に楽しそうだから、老婆の正体が気になるから、友人が馬鹿なことをしでかさないよう見張りたいから……
それぞれの動機で探索者たちは乗っかり、土曜の放課後に教室に集合することになるのだった。

3.背景

八津砂の森に住み着いたのは、魔女でも山姥でもありません。
南 弥生子(みなみ やえこ)は世俗の人間に愛想を尽かし、終の棲家を求めただけの平凡な老婆です。
しかしそこには、それこそくだらない噂話の主役を張るような怪物……
人の顔をしたネズミ、すなわち人面ネズミが先に住み着いていました。

ネズミの正体は平凡なごろつきの秋山 修司(あきやま しゅうじ)という男。
彼は人間だった頃、恋人と思っていた女性に利用され、所属していた反社会組織から付け狙われる羽目になりました。
そして逃亡の過程で南家の私有地である森に迷い込み、廃屋となっていた別邸に住み着いたのです。

彼はほとぼりが冷めるまで、ここで生活する腹積もりでした。
安全な水も食料も乏しい森の中ですが、捕まって痛め殺されるのに比べればはるかにマシです。
しかし発覚の恐れや裏切りのショックは、劣悪な生活環境と合わさり、着実に彼の精神を蝕んでいました。

そんなある日、彼は倉庫に地下室への入り口を発見します。
そこは科学者になろうとしていた弥生子の母が、秘密裏の研究を行っていた施設。
人目の届かない場所に研究施設を構えたのは、当然人目をはばかるものを研究するため。
「人間をネズミに変える」そんな非人道的な研究を行うためでした。
人の頭脳とネズミの体を持つ人面ネズミを、新時代のスパイ活動を担う鼠材として創り出そうとしていたのです。

それは秋山にはどうでもいい絵空事に過ぎませんでしたが、彼は一つの点に着目します。
もし、本当にネズミの体となれたのなら、食事の必要も発見されるリスクも大幅に減じることができるのです。
当然、それは尋常ならざる手段であり、平時の人間には心理的な抵抗の大きなものでしょう。
しかし心の弱りきった秋山は、半ば信仰のように、ネズミとなることに希望を見出すようになったのです。

彼は執念で書類を読み解き、ついにはネズミ化の秘術を実行に移します。
……驚くことにそれは成功してしまいました。秋山は人の顔と知恵を持つネズミという、新たな生物へと生まれ変わったのです。
ところがここで困ったことが起こります。ネズミの体は、想像力に乏しい秋山が想像した以上に脆弱で、不便だったのです。
そしてさらに困ったことに、折り悪く地震が発生し、地下室への蓋が閉じてしまいます。
……ネズミの力では到底持ち上げられない、重い石のような扉を。
換気口から上に上ろうにも、石の壁に爪が立つはずもなく、秋山は真っ暗な地下室に閉じ込められる羽目になったのです。

地下に再び光が差し込み、一人の女性が足を踏み入れたのは30年後。
終の棲家を求めた老婆が、リフォーム業者が見つけた奇怪な地下室を覗いてみたときのことでした。
老婆……南 弥生子はミイラのようになった奇怪な人面ネズミを見つけ、大いに困惑します。
そして取り敢えず水と食料を与え、何者かを尋ね……呆れ果てました。なんと軽率で間の抜けたことかと。
それはかつての秋山と同じように、手ひどい裏切りを受けた弥生子の心をほぐします。
秋山の方も、永遠に続くかと思った孤独から逃れられたことで、大いに心を癒やされます。
かくして2人は共同生活を送るようになったのですが、八津砂の純粋な人々は孤独な老婆を放っておくことはなく……?

4.登場人物

南 弥生子(みなみ やえこ)、67歳、孤独な老婆

遠い街で不動産経営をしていた老婆。
家督は息子の太郎に譲り、悠々自適な田舎暮らしで余生を満喫しに八津砂に越してきた。
……というのが表向きの話だが、彼女の会社にはお家騒動の噂がつきまとう。
シナリオには関係ないのでそこには触れられないのだが。

人間嫌いであり、人間性よりも成果で物事を判断しようとする。
が、子供には優しく、茶目っ気のある普通のおばあさんのように見える。
人嫌いというより「大人嫌い」と呼んだ方が正しいのかもしれない。
意外と最近の機械類には強い。

秋山のことはジローと呼ぶ。

秋山 修司(あきやま しゅうじ)、43歳、人面ネズミ「ジロー」

遠い街で債権回収や軽犯罪を生業としていたが、上役の情婦と恋仲になり、駆け落ち。
しかし情婦には本命の恋人がおり、秋山は追手への目くらましに過ぎなかった。
以降は追手から逃れるために私有地に不法侵入。山小屋をねぐらとするが、そんな生活の中で偶然地下室を発見。
飢えと追手の恐怖から逃れるため、人面ネズミとなる。
冬眠めいて生命活動のほとんどを停止させることで30年の歳月を生き延びたが、目を覚ますたびに冷たい闇の中に自分を見出す体験は、当然トラウマになった。

小悪党だが人が良く、非道になりきれないところがある。要するに他人に利用されやすいタイプ。
本人にもその自覚はあるのだが、それでもその場その場の感情につい流され、後悔だけを残している。

ネズミ怪物としてのデータは基本ルールブック(第六版)のp.185を参照のこと。

浅葱 翔(あさぎ しょう)、10歳、正義のクラスメイト

探索者たちのクラスメイトであり、戦隊ヒーローや仮面ヒーローや巨大化ヒーローが大好き。
魔女という悪者の存在を聞き、ウキウキ気分で懲らしめようと出動する。
いつもテンションは高く、自信満々に見えるが、実際は結構なおくびょう。
魔女の家に探索者たちを同行させたのも、一人で行くのが怖いからだ。
成績は良くないが、難しい(=カッコいい)言葉をたくさん知っている。が、うろ覚えなので良く間違える。

鳴海先生、24歳、かけだし先生

探索者たちの担任の先生。
あまり役には立たないが、親しみやすい性格をしている。
より詳しくは拙作「きつねの小窓」もどうぞ。

弥生子の母(セツ子)、引き返せた科学者

弥生子の母親。そこそこ裕福な南家の生まれで、おかげで自分の夢を追うことが出来た。
ただ、科学者を志すも働ける場所がなく、やがてとある組織への口利きと引き換えに研究成果を求められ、非道な研究に手を染める。
しかし幸いなことに戦時中のごたごたと仲介者の死が重なり、成果を提出する前に入隊の話は立ち消えとなる。
おかげで正気に戻ったセツ子は研究を放棄し、平穏に暮らすことを決意。弥生子を育てあげ、真っ当な人生を送った。
当時の研究資料は自身の罪の証と考えており、破棄していなかった。

5.導入

夏休みが終わり、早起きして学校に行くのも慣れてきたころ。
楽しかったあの頃の話題も尽き、クリスマスにお正月……と冬休みへの思いを馳せ始めたころ。
探索者たちは土曜の放課後(1998年当時は、土曜日は半日間の授業があるのが平時でした)に教室に集まっていました。
それはかねてより準備していた魔女の暮らす家への探検計画のため。
発起人の浅葱 翔(あさぎ しょう)を含む『魔女の家調査隊』の面々が事前に集めた情報の整理を行うためでした。

まず、探索者たちは浅葱の司会進行のもと、それぞれの調査内容を報告することになります。
……メタ的に言うと『探索者とプレイヤーの自己紹介』です。
調査隊の一員たる探索者は「自分がどういった隊員か」をアピールし、プレイヤーは他のプレイヤーに挨拶することになります。
探索者がどういう人格で、動機で調査隊に志願したのか、今回どういうテンションでいるかといったことは(特に短時間のシナリオでは)はじめに整理しておく方が吉です。
ただ、突然話せと言われても苦手な方もいるため、最低限話せる内容として、事前調査の情報が用意されています。
キーパーはキャラシートを受け取った時に「あらすじの情報から、何をどのように調べようとするか」を尋ねておき、応じた情報をプレイヤーたちに配ります。
何らかの技能を用いる提案があった場合は、適切なロールを行い、結果に応じて追加の情報を与えます。
基本的には「老婆」「森の奥の家」のいずれかが調査対象になるでしょう。もし他のことを調べたい場合は、その都度対応することになります。

◆老婆について調べた

・老婆の名は南弥生子(やえこ)。都会で不動産業を経営していた。
・家業は長男に継がせ、この町に昔からある家を改装して住み始めた。
・めったに町には出てこないが、まれに出てきても好き好んで他人と話はしようとしない。
 気難しそうなおばあさんだが、詮索しなければ怒るようなこともないという。

◆何らかの技能に成功(探索者の調べる提案に準ずる)
・老婆の一人暮らしにしては食料品を買う量が多い。特に肉類。意外と健啖家なのか、猫かなにか飼っているのかもしれない。
・町の本屋で本を取り寄せてもらっている。オカルト本が多いが、魔女に関する古今東西の文献も買っていく。(昔は顧客のプライバシーとかおおらかなことも多かった。ひどい話である)

◆魔女の家について調べた

・いつだか建てられた一階建ての家屋。森の奥にあるため用がなければ誰も訪れない。
 そしてつい最近まで誰も住んでいなかったため、近づいた人間は皆無だった。
・しかし昔を知る老人の話によれば、自分が子供の頃(80年ほど前)、月に一度くらいの頻度で人が訪れることがあったという。
 どういう人間が訪れていたかは覚えていないが、さして特徴のない普通の人ばかりで、それがかえって印象的だったとか。

◆何らかの技能に成功(探索者の調べる提案に準ずる)
・別の老人に尋ねたところ、変わった話が聞けた。
 遠い昔(やはり80年ほど前)、森の中で遊んでいると、二人の大人がしきりに地面を向いて何かを探していた。
 彼らは「見つけ次第始末しろ」「町に出たら大事になるぞ。そうなりゃ俺もあんたも消されちまう」などと物騒な会話が聞こえてきた。
 その後、怖くなって逃げ出したが、何が起こるということもなかった。しかしあれは何だったのだろう、と今でも思うのだとか。

◆その他について調べた

・浅葱について
探索者たちの友人で、クラスメイト。表裏のない真っ直ぐな性格に見えるが、実は結構な怖がりで虚勢を張るタイプ。
魔女の家とも魔女とも因縁は特にない。

・今日の天気
晴れ時々曇り。降水確率20%。しかしアテになるかは微妙。

◆浅葱の報告

探索者たちが成果を報告すると、最後に浅葱が「隊長らしく、すごい情報があるぞ」と言い出します。
彼は魔女の家への道を見つけたといいます。それは老婆の家へ食料品や生活用品を配送している業者が、森へ入っていく道です。
整備されていないものの、やはり人間がそれなりに通るためか踏み固められており、パット見で他とは違っているそうです。
そして業者が木にビニールテープを巻いており、目印にもしているのだとか。
「まっすぐ進んでいけば魔女の家につける。もう見つけたようなものだな」と浅葱は笑います。
そして、あとは魔女の家に行くにあたり、準備しておくべきものを……と話初めたところで担任の鳴海が入ってきます。

◆鳴海の警告

鳴海はこのあとも仕事があるので学校に残りますが、教室の前を通ると探索者たちがいたので寄ったようです。
「珍しいね、このあと遊びにでも行くのかい?」と親しげに話しかける鳴海に対し、どう答えるかは探索者たちの自由です。
ただし、どう答えても魔女の家について目新しい情報は手に入らず、代わりにこういう感じの警告を受けることになります。
「魔女の家!? あの森の奥の……ダメだよダメ! あそこは……その。危ないんだ」
「その……そう、魔女だ! 魔女がいるから、食べられちゃうかもしれないぞ!」
「いいかい、あそこには絶対に行っちゃダメだよ! 絶対だからね!」

その後、鳴海は去っていき、探索者たちはお昼ごはんを食べてから森の入口に集合することになります。

6.森の入口

午後1時。人気のない寂れた通りにある森の入口に、探索者たちは集合します。
そこにはいつ建てられたかも分からない塗装の錆びた網状のフェンスがあり、鍵もかけられています。
……とはいえ子供の身軽さを持ってすれば簡単に登れますし、有刺鉄線なども用意されていません。
手に錆の汚れを付けながら、簡単に乗り越えることができます。

浅葱の言う通り、そこには明らかに踏まれ慣れた道が続いておリ、彼らは道なりに進んでいくことになります。
季節は秋。そろそろ落ち葉が降り積もり始めるころ。昨日の雨の水を蓄えて湿った空気。
ところどころに緑や黄色、赤の混じった落ち葉溜まりが出来ており、葉の表面に溜まった雨露は木漏れ日を反射し、きらきらした光を放っています。
そんな都会人には非日常の景色も、八津砂の子供たちには日常の景色。探索者たちは小鳥のさえずりが聞こえる静かな小道を、友達と話しながら進んでいきます。

しかしそんな、人の通った後が分かりやすい道は途中で終わっており、道らしき道のない森の中へと一行は入ることになります。
探索者たちは<目星>を3回行い、木に巻かれたビニールの目印を見つけながら先に進んでいくことが出来ます。
失敗してもビニールは見つけられますが、少し時間がかかってしまうようです。
全員が失敗すると、魔女の家を探索できる時間に影響します。

3回の目星を終えたとき、探索者たちと浅葱は1d100をロールします。
一番出目の低かった探索者は雨を吸った落ち葉に足を滑らせ、転んでしまいます。
そして、かさかさと落ち葉が動くのを見ます。反射的にそこに目を向けると、探索者は落ち葉の中にいた中年の男と目を合わせます。
「え?」と思う間もありません。せいぜい30cmもない落ち葉溜まりの中に、大人の男性が入っていたのです。
ありえない出来事に困惑している間に、その何かは落ち葉溜まりの中から走り出し、すぐに見えなくなります。
他の探索者たちには、大きなネズミの後ろ姿だけが見えることでしょう。
不気味なネズミを見た探索者は<0/1d6>の正気度を失います。

そして間の悪いことに、ぽつぽつと雨が振り始めます。

7.突然の雨

先に進むか、戻るか。雨宿りをしてみるか。そんな話になるでしょう。
浅葱の話では魔女の家まで徒歩20分くらいとのことでしたが、体感によるズレでもあったのか、探索者たちは20分ほど経っても家の影すら見つけることが出来ていません。
しかし今更戻ってもずぶ濡れで悲しくなるだけ。心細くなりながらも先へ進むことになります。(雨宿りしても構いませんが、特にいいことはなく時間が浪費されます)

そこからさらに5分ほど進んでいると、雨足は徐々に早まり、枝葉の隙間からざあざあと降り注ぎはじめます。
しかしやがて白く濁った視界に、入り口にぼんやりとした明かりを灯す小さな一軒家が見えてきます。 事情を話して雨宿りさせてもらおう、との話になるでしょうが、浅葱は何やら疑心暗鬼になっており、
「タイミングが良い、もしかしたらこの雨も魔女のしわざかも。僕らを家に呼び込んで食べちゃうつもりじゃ……」と震えています。
どのみち進まざるを得ないのですが。

魔女の家に近づくと、そのファンタジーな名称とは裏腹に、きちんと「南」の表札とインターホンが用意されています。家の周囲を回ってみても、窓の中はカーテンで見えません。
インターホンを鳴らすと、ゆっくりとドアが開き、背の低い老婆が、魔女が現れます。
……その容姿はそう形容するしかありません。目深にフードをかぶり、大きな水晶玉のついた杖に手にしたその姿は、どう見ても魔女です。
魔女はなんでこんなところに子供が、などと訝しむこともなく、探索者たちに中へ入るように勧めます。
浅葱は初めは警戒して外にいようとするものの、一人で取り残されそうになると、やっぱり入れてくれと慌てて走り寄ってきます。

8.魔女との遭遇

家の中は淡い木の色を基調とした壁に覆われ、暖色のライトが灯っています。
家財道具は真新しく、無駄なもののない、品の良さを感じさせます。
しかし内装を褒めても弥生子は「ああ、綺麗だろ。棺桶の中みたいでね」と陰気に笑います。
彼女は探索者たちをリビングに案内し、横長のソファに座らせるとココアを出してくれ、濡れた体を拭くためのタオルも手渡します。
……人数分のカップも、タオルも、彼らが席に付く前に用意されており、お湯もヤカンの中に湧いています。
彼女にそのことを尋ねると、「この水晶が教えてくれたのさ」と言います。好意を受けるかは自由ですが、素直に受けた方が翌日風邪を引きにくくなるでしょう。

魔女は探索者たちに「どうしてこんなとこまで来たのか」を尋ねます。
どう答えるかは自由ですが、彼女は大方興味本位だろうと察しており、どう答えてもさほど気は害しません。
むしろ多少警戒している方が喜び、本当に魔法を使ったように装われ、からかわれることになります。
ただしネズミのことについては「ネズミ? ……さあね。このへんは多いんだよ。森の中だからね」などとはぐらかします。

雨宿りの間、探索者たちは魔女の家を見て回ることも出来ます(後述の内容を前倒します)。ただし書斎には入れてくれません。
書斎以外のドアには猫用のドアが付いています。尋ねると「昔、猫を飼っててね」とごまかします。
実際にはこのドアはネズミのためのものなのですが、突っ込んでも「あまり思い出したくないんだよ」と答えてくれません。
また、<目星>により注意深く観察すれば、各部屋の天井にも穴が空いていると気づけます。
2部屋を見て回るか(森の探索時間によっては1部屋)、探索者たちがネズミと弥生子の関係に気づくと、ちょうどその時インターホンが鳴ります。
魔女は面倒な客が来たから隠れてろと言います。「怒られたくないだろ?」とは彼女の談です。
それから少し経つと、ぐっしょりと濡れた鳴海が入ってきます。

9.鳴海と老婆と銀の針

「森に入るな」と言っていた鳴海が現れたことに困惑していると、二人はリビングで何かを話始めます。
探索者はそれにこっそり聞き耳を立てても、家の中をひっそり探索しても構いません。
鳴海は真剣な面持ちで弥生子と話し始めます。……どうやら彼女には心臓の病があるらしく、何がきっかけで大事になるか分からない状態なのだそうです。
それが心配なので、できればなにかあってもすぐに対応できるように町の施設で暮らしてほしいと言います。
しかし弥生子は「こんなとこで死なれたら死体が腐って面倒」以外の文句は聞く気がないと突っぱねます。
自分が死んだところで誰にも迷惑はかからない。死に場所くらい好きに選ばせろ、とは彼女の言い分です。

どうやら鳴海が探索者たちを止めたのは、弥生子が元気な子供たちとともに過ごすことで、体調を崩さないかを心配したからのようです。
両者の出張は平行線をたどり、結論は一向に出ることはありません。

……そんな話をしていると、探索者たちはソファに座る弥生子の肩越し、天井に空いた穴の中で何かが光ったことに気づきます。
そこにあったのは銀色に輝く針。小さなボウガンのようなものに結わえ付けられ、それを中年の男が……人の顔をしたネズミが構えているのです。
警告するまもなく、矢は弥生子の首筋へと放たれ、突き刺さります。彼女は身を震わせ呻くと、首筋に手を当て、「……ジロー……?」と絞り出すように言いながら振り返ろうとします。
しかし首が後ろを見る間もなく、彼女の体は首筋から灰色に変わり、数秒後には、老婆の石像へと変わっています。
この恐ろしい怪奇現象を目にした探索者は<1/1d6>正気度を失います。

鳴海は目の前に起きた状況に理解が追いついていないのか、老婆を揺さぶり、名前を呼びかけようとします。
ネズミは静かに次の矢を引き絞ります。今度の標的は、鳴海です。
探索者たちは担任に対し、天井に注意を呼びかけることも出来ます。
すると鳴海は探索者たちがここにいることに困惑しつつも、天井を見、そこにあるものが危険であることだけを認識したのか、
探索者たちをかばうように両腕を広げ、「逃げろ!」と叫び……そのままの姿勢で石となってしまいます。

探索者たちが動転していても、追撃される様子はありません。
ネズミは次の矢をつがえず、ただ静かに、見ようによってはあざ笑うかのように、探索者たちを見下ろします。

10.ネズミ怪物の警告

その場から逃げ出さなかった場合、彼はこんなふうに呟きます。
「……チッ。ガキども……よりにもよってこんな日に……」
そして警告を行います。ここから去り、見たことも黙っておけ。そうすれば石には変えないでおいてやる、と。
ネズミにとっては、探索者たちはどうでもいい存在に過ぎません。
あくまで彼が鳴海を『説得』している間に邪魔をしてくれなければいいのです。
たとえ子供といえど、ネズミよりは力があります。針がなければ拘束することすらできないのです。
なのでネズミは探索者たちがこの場から逃げ出すように仕向けようとします。
実際は銀の針のストックが尽きたゆえの苦肉の策に過ぎないのですが、探索者たちがそれを見抜けるかは彼ら自身にかかっています。
鳴海に関しても用が済めば元に戻すといいますが、彼が何の用があり、本当にもとに戻すのかは不明です。

探索者たちがその提案を飲むか飲まないかは自由ですが、帰ってしまうとそこで冒険はおしまいとなります。
警察を連れてくるにせよ、黙っていたにせよ、帰ってきた鳴海はあの家での出来事をすべて忘れてしまっており、老婆も再び引っ越して姿を消してしまっています(ジローが思いつめていたことを知り、周囲に迷惑をかけないように、との思いやりもあったようです)。
何があったのか、まるで分からないままにシナリオは終了となります。

ネズミの提案を跳ね除けると、ネズミは「後悔することになるぞ。逃げるんなら今のうちにしとくんだな」と捨て台詞を吐いて天井裏に逃げ込んでしまいます。

11.魔女の家の探索

ここからはネズミに警戒しながらの探索になります。
弥生子は同居人であるジローのため、書斎を除いた各部屋の天井にネズミが行き来するための穴を開けていますし、ドアには猫用ドアが付いています。
ネズミは探索者たちが警戒を怠ったときに現れ、針を飛ばして攻撃します。
……ただし、この針は絶対に当たることはありません。なぜかというと、この針は石化能力のないただの針であり、脅しのために撃っているに過ぎないからです。
当たってしまうと固定で1ダメージを受けますし、十分に痛くはありますが、お互いがよほど不運でない限りは当たることもないでしょう。

魔女の家の探索可能箇所は「リビング」「寝室」「書斎」「倉庫」です(風呂場やトイレなども当然ありますが、調べても意味はありません)

◆リビング

リビングは探索者たちが招かれた空間です。特に目立ったものはありませんが、探索者によっては日用品を利用し、なにか罠を思いつくかもしれません。

◆寝室

寝室のサイドテーブルには倒れた写真立てと、引き出しの中には弥生子の日記があります。当然ながら弥生子はそれを見せてはくれません。

写真立てには息子の太郎と夫の良和、若い頃の弥生子が写っています。裏面には彼らの名前が書かれています。
弥生子とともにこの部屋を訪れたのなら、それは家族だと教えてくれますが、どこか遠い目をして深くは話してくれません。
また、太郎、良和ともにネズミの顔にはあまり似ていません。

日記はスケジュール帳も兼ねており、食料品や書籍の納入や宅配の日付、週に二回夜見野(近隣の大きな町)の病院に行っていることが分かります。
また、今日の日付には「15時頃にあのお節介が来る。警報を切っておく。ジローにも伝えた」と書かれています。
初日の日付には 「引っ越し当日。地下にも初めて入る。信じがたいことだが、母の懺悔していたことは事実だった。その罪の記録が生々しく残されていた。
 だが件の地下には変わったものもあった。人面ネズミのミイラ。地下への蓋が閉じ、30年も閉じ込められていたらしい。間抜けだ」と書かれています。
次の日には「ネズミにジローと名付ける。行くあてがないから住ませる。気晴らしには丁度いい。ボケずに済みそうだ」とのこと。
以降は弥生子とネズミは互いを訝りつつも、喧嘩することなく暮らしていたのだろう、と思わせるような静かな日々が綴られています。
しかし二ヶ月ほど前に気になることも書かれています。
「人間に戻す研究を始める。失敗続きだが、死ぬまでには元に戻してやりたいものだ」

ネズミ怪物の襲撃後の場合、これを読んだ浅葱は「仲が良かったんだ。でも、なんであんなこと」と訝しみます。

◆書斎

書斎はネズミが入ってくることのできない、現状一番安全な空間です。
中には本棚以外にモニターとパソコンがあり、森の中の一部の様子を監視できるようになっています。
パソコンを使える探索者がいれば、誰かがカメラの範囲内に侵入するとブザーが鳴るようになっていると分かります。
この機能は鳴海の来訪する時間帯(15時頃)にはオフになっています。

本棚の本はオカルト絡みのものが多く、魔女や使い魔、特にネズミに関する文献が豊富です。
どの本にも付箋が貼られていますが、<図書館>に成功すると、特に付箋が多く、何度も開かれた痕のある本を見つけ出せます。

その本はイギリスにおける魔女伝説を扱ったものであり、中には魔女が協力者の魂をネズミの体に閉じ込め、奴隷のように扱っていたという伝承もあります。
ネズミ怪物は不老不死の存在であり、魔女のいなくなった現在もイギリスの各地に潜んでおり、自らの死を対価に、邪悪な行いの手助けをしているそうです。
それらは「あくまで伝説」とされつつも、参考資料として「ネズミ怪物を呼ぶ歌」の翻訳が掲載されており、気軽に歌わないようにと忠告もあります。

「家のなか 森のなか 隠れひそみ棲むもの 弱いもの 暗いもの 忌まわしいバケモノ 人さまのよぶ声に 応え姿あらわせ ありがたく すみやかに 応え姿あらわせ」

この歌には、特定のネズミ怪物の姿をイメージしながら口ずさむと、1MPと1d3正気度をコストに「術者の元に来なければならない」という形に思考を誘導する効果があります。

浅葱に内容を伝えると「死を対価にするって、殺されるために魔女に従うってこと? 意味がわからない」と怪訝そうにします。

◆倉庫

倉庫には保存の効く食料品や懐中電灯、大型発電機などがあります。ただしあくまで緊急時の備蓄のようです。
大きな箱がいくつも並んでいますが、その一角に何も置かれていないスペースがあり、よく見るとそこの床が扉になっています。地下への入り口です。
鍵はありますが、経年で馬鹿になっていたのか、差し込まずとも開きます。(実際は30年近く前にジローがピッキングで開け、そのままになっていたようです)
弥生子といる間に発見した場合、「ご先祖さまが何かしてたみたいでね」と教えてくれますが、暗くて危ないから、と中には入れさせてくれません。

浅葱は地下の暗さを想像して怖がりながらも、地下室という響きにはロマンを感じているようです。

12.地下の探索

地下には3つの部屋があり、降りた地点から左右に一部屋づつ書斎と保管所、奥に実験室があります。

◆書斎

書斎には先程のものと違い、しっかりと書かれた研究履歴があります。
どうやらここでは昔、人間を知性を維持したままネズミの体に変える呪法の研究が行われていたそうです。
その目的は諜報活動にあり、新世代のスパイはみなネズミの体になるだろう、との大言壮語が綴られています。
この呪法は<ネズミ怪物の呪い>基本ルールブック(第六版)p.276参照と良く似ており、特殊な薬品を飲んで仮死状態となった人間に呪文を掛けることで、ネズミ怪物を作り出すことが出来ます。
r 術者が一人の場合(つまり秋山の場合)は事前に何度も呪文を唱えて力場を作り、その中で薬を飲むことでネズミ怪物へと変わることも出来ます。
ただし<呪文><特殊な薬品>のページはかつて怒り狂った秋山の手によって引き裂かれており、読むことができなくなっています。

もう一つの研究として、人体の石化手段があります。
これはネズミ怪物の呪法と同一の作者が編み出した呪法を「より手軽に、魔術的素養がなくとも確実に」改良することを目標に研究が行われていたようです。
両手両足を削ぐよりも命に関わらず、縛るよりも確実な拘束手段として検討されていたようです。

元となった呪法は、対象に呪いの効力を増幅する特殊な液体を飲ませ、その成分が体内に循環したのを見計らい、石化の呪いを掛ける、という複雑な手順が必要でした。
その効力は目覚ましいものですが、時間や手間がかかり過ぎるため、誰もが手軽に扱えるものではありません。
そこで弥生子の母は「呪いが掛けた針に液体を塗り、人体の急所に打ち込む」ことで呪いの大衆化を図りました。

ただし製造は難しく、まず液体にきっかり4時間漬け込む必要があります。
それ以上漬けると針自体が石化してしまうのだそうです。
その上、石化の効力は液体から出した時点から徐々に減衰し、6時間後にはただの針に戻ってしまいます。
さらに薬液を作るには貴重なキノコや、特別な儀式を経た材料を使用する必要があり、極めて高額。
とどめに石化を解く『金の針』は極めて安価に生成可能な上、効果も減衰しないとあり、もしも金の針の生成方法が流出すれば、銀の針に掛けたコストは一瞬でパア。
……とそんなこんなで実用には至らなかったようです。
具体的な製法の書かれたページは秋山によってこっそり持ち去られ、ここでは得られません。

秋山はこの針を、森の入り口でたまたま探索者たちを見つけた時点から追加で作っており、それらは作中時間の午後5時に完成します。
探索者たちが森でネズミを見かけた時間を思い出せば、それが安全に探索できるタイムリミットだと気づけるでしょう。

また、ここにはもう一冊、新しいノートも置かれています。
それは弥生子が、秋山を人間に戻すための研究を記録しているものです。
様々な(胡散臭い)儀式や、薬品の投与が試されたようですが、上手くは行っていないようです。
<日本語>に成功すると、その中には「熊の胆と茸毒を混ぜ、霊酒で溶いた液体」についての記述を見つけます。
これはネズミ怪物にとって「ネズミ部分のみ強力な麻痺。人間部分には影響なし」の効果をもたらしたとのこと。
これは武器に転じることもできそうです。

◆倉庫

倉庫にはわけのわからない薬剤や、注射器、針などが大量に保管されていますが、経年劣化によりラベルが見えなくなっていたり、中身が揮発しているものも見られます。
しかし一部には真新しいものもあり、どうやらそれが弥生子の用意したものだと分かります。
弥生子のノートを見ていれば、彼女が研究の中で見つけた「ネズミ部分にのみ麻痺をもたらす薬剤」の材料が揃っているとわかります。
これを針に塗れば飛び道具にもなり、ネズミ怪物に対する有効な武器にもなるでしょう。

◆中央の部屋

中央の部屋には床付近に通気孔が2つある他、なぜか拘束具の付いた大きな机があるのみです。
裏を返せば余計な遮蔽物が少ないため、ネズミ怪物との決戦場にすることもできるでしょう。
冷たく、暗く、風のない空間はただただ静かなだけで、地下だと言うこともあり、そこにいるだけで不安な気持ちが浮かんできます。
浅葱は「あの人、こんなとこで30年も過ごしてたんだ。悪いやつだけど……どんな気持ちだったんだろう」と静かに呟きます。

13.決戦

探索で得られる情報の通り、探索者たちは逃げ続けることは出来ません。
ネズミ怪物が攻勢を掛けてこないのは、ただ石化の針を作るのに時間がかかっているだけだからです。
探索者たちは鳴海や弥生子、そして何より自身の身を守るために、ネズミ怪物と戦わなければならないのです。

探索者たちが書斎を探索していれば、この怪物を任意の場所に呼び出せることに気づけるでしょう。
ただしそれは、あくまで<思考を誘導する>に過ぎません。彼は針が完成するまで、じっと身を潜めているでしょう。
彼が「ガキどもを石にしてやろう」と思ってはじめて、「なんとなくあの場所から探そう」という誘導が効力を発揮するのです。

シナリオ作者の想定では、件の毒針を食らわせることで、ネズミ怪物を拘束できれば勝利となります。
針を使うには<こぶし>が基本ですが、探索者たちが吹き矢などを提案するなら、適切な命中率を充てがって採用しても構わないでしょう。
ただし毒を用意せずとも、単純に殴ったり蹴り飛ばしたりしても、ネズミ怪物には十分なダメージを与えることが出来ます。
うっかり殺してしまう可能性はありますが、探索者によってはそちらの手段に訴えるかもしれません。

このように倒すための手段はいくらでもありますが、問題となってくるのはネズミ特有の素早い動きです。
天井裏を自由に動き回り、物陰にすばしこく隠れる鼠を狙うには、彼をどこかに追い込む必要があります。
地下の中央の部屋は有効な手段の一つです。狭く、ドアを閉めてしまえばネズミ怪物は逃げられず、通気孔を登ることもできません。
入り口が一つなので、罠を仕掛けて待ち構えるのも良いでしょう。

ネズミ怪物は60%の命中率がある<ボウガン>で探索者たちを攻撃します。
物理的なダメージは1ポイントであり、本来急所に当たらなければ石化はしませんが、小学生は身体的な抵抗力が弱いため、POT16との対抗に失敗すればたちまち石に変わってしまいます。
成功した場合も、見えない重りを体中に縛り付けられたような、凄まじい倦怠感に襲われ、すべての技能値が半減することになります(金の針により治癒出来ます)。
これらの針による症状は、<応急手当>でも<医学>でも取り除けません。ただ物理的なダメージ分を除けるのみです。
また、彼は55%の<回避>を持っています。ただしこれはラウンド1つにつき1度しか使用できません。

誰かがネズミを倒せればクリア、全員が石化されてしまえばゲームオーバーです。
そうなった場合、固定で正気度5を失い、ネズミの提案に乗った場合の鳴海と同じように記憶は消えた状態で森の外にいて、後日弥生子とジローはどこかに引っ越してしまいます。

14.エピローグ

ネズミは拘束されれば多少もがきはしますが、すぐに観念します。小学生に倒されたという事実に自信を喪失し、自棄になってしまったのです。
金の針を渡せといえば素直に渡しますし(うっかり自分に銀の針が刺さった時のため、数本の予備を持ち歩いています)、鳴海や弥生子の石化を解けといえば素直に解くでしょう。

ただし、彼はこの騒動の動機だけは隠そうとします。
彼は探索者たちに、どうせ人間に戻れないから自暴自棄になり、弥生子を殺害して遺産を手に入れようとしたと語ります。
鳴海を巻き込んだのは、彼が偶然ここに来てしまったからだと言うのです。

しかしこれらは探索で得た情報とは矛盾しています。寝室のスケジュール帳によれば、鳴海が来ることは彼に伝えられていたのです。
実際、彼の本当の目的は弥生子ではなく鳴海にあります。彼は鳴海の説得に応じた弥生子が町に出てしまい、また孤独になることを恐れていたのです。
なので鳴海を脅し、弥生子への説得をやめさせようとしていた、というのが事件の本質です。
弥生子を石化させたことこそが偶然であり、雨が降らなければ外で鳴海を石化させ、弥生子には内緒で事を進めるつもりだったようです。

探索者たちが秋山の心情にまで気を配るか、それともただの醜悪な怪物として扱うかは、彼ら自身の手に委ねられます。
寂しがり屋の浅葱は彼に同情しますが、怪物として処断してしまうのも探索者たちの自由です。
弥生子も結果を悲しみこそしますが、咎めだてすることはありません。
ただ、彼女はそれから大人だけでなく、子供も平等に嫌うようになります。

秋山が生きていれば、弥生子を元に戻したあとに、鳴海と弥生子が話していた内容について意見を出すことも出来ます。
(弥生子がここに住む理由は、秋山のための研究も絡んでいるため、その話をするには鳴海がいると邪魔になります)
弥生子が町に出てくるように説得できれば、彼女と秋山は森の外へ引っ越してくることになります(田舎町に家を買う程度のお金は、弥生子は持ち合わせています)。
鳴海は金の針で元に戻せますが、彼の正気のためにも石化を解くのは話がまとまってからにした方が良いでしょう。
事件を解決した探索者たちは<1d8正気度>を回復し、シナリオは終了となります。

15.終わりに

きつねの小窓、ハーメルンに笛を吹くのどちらもそれなりに時間を必要とするため、短時間で遊べる小学生シナリオとして企画したシナリオです。
本来なら2020年中にテストプレイと公開を済ませる予定だったのですが、なんやかんや色々とあったので(幸い健康ではあったのですが)、せめて今年中に何か残そうと公開と相成りました。
何かありましたら、拍手ボタンやTwitterよりお願いします。