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1階には3つの部屋と、2階に登るための階段があります。
1階の奥に進むためには、2つの部屋のどちらかを通るか、玄関の正面にあるドアを《鍵開け》することが必要です。
奥には2階に登るための階段と、さらに奥へと通じる扉があります。
左奥の扉の先は、広々としたリビングです。
柔らかそうなソファと観葉植物が飾られています。
ソファの上には新聞が無造作に放られています。
新聞の内容は、喫茶店にあるものと同一です。
右奥の扉の先は、こちらもやはり広々とした内装をしています。
大きなテーブルセットに加え、3つの椅子が並べられており、テーブルの上には特に食べ物は置かれていません。
椅子を調べた場合、その内の一つが子ども用のものであることに気づきます。
残りの2つは大人用のものですが、片方はしばらく使われた痕跡が残っていません。
冷蔵庫には逆に、色々と食べ物が保管されています。ただし、賞味期限は載っていないようです。
こちらを《電気系の技能》で調べた場合、コンセントには電気が通っていないのに、家電がきちんと作動していると分かります。
両方の扉の先には裏口への扉を有する通路があり、その扉の反対方面には応接室へと通じる扉があります。
裏口の扉を開くことは、現時点では自殺行為以外の何者でもありません。
探索者が裏口へ無警戒に進もうとした場合、《聞き耳》を振ってみるように進めるといいでしょう。
成功すれば、入り口と同じく「テケリ・リ」の声が聞こえることが分かります。
違いは距離だけで、こちらの方がずっと声の主と距離が近くなっています。
応接室は意外にも殺風景な内装となっています。
紫苑の治療法を模索するため、余計な家財道具は処分してしまったからです。
安っぽい机とソファーを《目星》で調べて回ると、財布が落ちていることに気づきます。
財布の落とし主は前原で、彼の身分証が中には入っているようです。
なお、流石に身分証の証明写真は例のドヤ顔ではありません。
身分証の内容を調べると、住所と名前、戸籍情報以外のほとんどの内容が消えてしまっていると分かります。
住所の方も、兵庫県弥代市夜見野町……以降の内容は消えてしまっています。
彼の記憶の中には、まだ愛する町と妻子のことは残されているようです。ついでに例の本も。
登り階段へと続く通路。
応接間側のドアを開けた、その正面。壁には一枚の肖像画が掛かっています。
近くに寄ってみると、それは「望月紫苑」の肖像画であることが分かるでしょう。
《芸術》で絵画を調べれば、絵の具の古さからそれが4年くらい前のものであり、またあまり上手でないことが分かります。
情熱と愛情こそ感じるものの、これは明らかに素人の作品です。
額縁を調べれば、作品のタイトルは「最愛の娘」と名札があるのが分かるでしょう。
この肖像画は、紫苑の母の叶絵によって描き遺されたものです。
さて、探索者たちとともに肖像画を見た途端、紫苑の様子が変わります。
能面のような無表情になり、目から光が無くなり……
「そうだ……ここは」「2階……」などと呟くと、幽鬼のようにふらふらと、2階への階段を登ってしまいます。
この際、止めようとして彼女に触れたものは、以下の光景を幻視します。
絵本の散らばる床、ぬいぐるみの並べられた棚。
それらの全てを飲み込んで、玉蟲色の何かがベッドの上の「自分」に迫る。
震える腕を無理やり奮い、動かない足を引きずり……
「自分」は腕を無理やり動かすと、ベッドの上から転がり落ちます。
そして力の入らない腕で必死に床を引っかき、どこかを目指して這いずります。
「お父さん……お父さん! どこ、どこなの……!」
……探索者の脳裏に、どこかの光景が映る。
大きな、温かい火を灯す暖炉のある部屋。
そこで本を読んでいる、柔和な笑みを浮かべた中年の男性の姿。
これは紫苑との接触によって発生した、記憶の混線のような現象であり、幻視したのは彼女の死の直前の光景です。
雷に打たれたかのように停止した探索者がハッと気づくと、いつの間にか紫苑はいなくなっています。
2階に上がった探索者たちの感心事は、ひとまずはいなくなった紫苑になるでしょう。
彼女はドアを開けたままにして移動したため、足取りを追うのは用意です。
後を追って暖炉の部屋に入ると、紫苑は虚ろな目で暖炉の中をぼうっと見つめています。
探索者たちが暖炉の中を覗くと、ごうごうと炎の燃える暖炉の中で、何かが燃えていることに気づきます。
《目星》で更に詳しく調べれば、それが人間の子どもくらいの大きさだと分かります。
「なんだ……そういう事だったんだ」
「……ふふ、私は、もう……」
紫苑はそれだけ呟くと、部屋の壁へ近づき……すり抜けて消えてしまいます。
明らかに人外の、異常な力を行使した彼女に対し、困惑と恐怖が同時に浮かぶでしょう。
探索者たちは正気度を《1/1d3》喪失します。
暖炉の側には火かき棒が置かれており、中身を掻き出すことは容易です。
探索者たちが勇気を出して中身を出せば、中から出てきたものが「望月 紫苑」であったことに気づきます。
顔は無残に焼けただれ、爪は剥がれ、グロテスクな焼け跡が露出しています。
これが「紫苑」だと言うのも、服の焼け残りから辛うじて推測出来るに過ぎないでしょう。
紫苑とは先ほどまで一緒に行動していた。けれども、彼女の死体はここにあり、紫苑は壁をすり抜けて去っていった……
明らかに理不尽で、整合性が取れない事態に際し、探索者たちの正気は大きく揺さぶられます。
探索者たちは《1d3/1d8》を喪失し、さらにここから非常に困った事態に直面することになります。
丁度この死体を認識したタイミングで、キーパーは《砂時計》のロールを行い、通常通りのHPの減算を行います。
さらに、この場面から突然《砂時計》ロールの頻度が増え、5分に1度のロールが発生します。
そろそろ空腹に耐えかねたショゴスが、消火活動を活発化させたことによる現象です。
この場面から、死亡した探索者は、記憶の戻った紫苑と共に書斎で待機する事になります。
キーパーが望むならば、その探索者には紫苑との会話により、特別な情報を与えてもいいでしょう。
なお、死亡した探索者が書斎で待機している事実は、他の探索者へは秘匿することを推奨します。
紫苑の死体は《医学》や《目星》によって調べることが可能です。
《医学》によって調べた場合、死体が死後まもない状態であること。
手足、特に足の筋肉の衰えが激しく、半分寝たきりのような状態にあったのだろうと考察します。
《目星》の場合、死体の腕の注射痕と、暖炉の中に引っ掻いたような形の血の痕を見つけます。
夫妻の部屋にはあまり物はなく、一人用のベッドに、サイドテーブルが備え付けられています。
本棚にはいろんな本が詰め込まれています。ジャンルは時代・歴史小説が多いようです。
これらの本には「出版社名」が記載されています。
紫苑の部屋には、絵本が散らばる床、ぬいぐるみの並べられた棚などがあり、
一見すると、どこにでもあるような女の子の部屋に見えるでしょう。
ですが、ベッドの脇には点滴があり、サイドテーブルの上には薬瓶が並んでいます。
薬瓶を《医学》もしくは《薬学》で調べれば、それらが強力な鎮痛剤であり、
もはや手の施しようがない患者の苦しみを取り除くため、使用されるものだと分かります。
本棚を《図書館》で調べれば、どこにでもあるような一般的な絵本の中に、一冊見知らぬ本が混じっていると気づきます。
背表紙に書かれたタイトルは「魔女と魔法の指輪」。
絵本の大まかな内容は、「病気の少女が魔法の指輪を貰い、魔女となって動物の町の住人たちを幸せにする魔法を使う」というものです。
魔女はやがて自身の病気を治すために魔法を使おうとしますが、それはどうしても叶いませんでした。
彼女自身も死の直前に気づいたことですが、例え病気を患っていても、自身を想って懸命に看護を続けてくれる人が側におり、彼女は十分に幸せだと感じていたからです。
紫苑はこの絵本を通じ、父親への感謝の気持ちを遺そうと考えていたようです。
……しかし、この本の一部。「魔女が何度も自分の病気を治そうと試みるも、叶わない」の箇所は、ニャルラトテップによって利用されることになったのですが。
倉庫には暖炉のための薪や買い置きの缶詰などの食料品が置かれています。
生の野菜なども混じっていますが、経年劣化や変質が見られないことから、最近買われたものだと考えられます。
ここには様々な品物が混在しています。探索者が「何かがここにないか」と提案した場合、
それがあるかどうか《幸運》によって判定しても構わないでしょう。
この階にも4つの部屋が存在していますが、一番目を引くのは大きな窓でしょう。
階段を登り、回って北の方角を向くと、窓が大きく開け放たれているのが目に入ります。
これは探索者たちよりも前にここを訪れた、前原誠一が行ったことです。
窓辺から外を見下ろせば、奥にある「離れ」の建物の上で蠢いているショゴスを目撃することになるでしょう。
他の4つの部屋については、書斎はこの時点では鍵が掛かっており、入ることが出来ません。
《鍵開け》を試みても、そのための道具がぐずぐずに崩れて壊れるだけに終わってしまいます。
記憶を取り戻した紫苑が、特殊な力によってロックを掛けているのです。
紫苑が記憶を取り戻していなければ、誰も鍵を掛けていないため、書斎の扉は開いています。
空の部屋は部屋というより、ドアを開けると瓦礫の山があった、という表現の方が相応しく思えるでしょう。
天井や床は何かすさまじい力で叩き潰されたのか、隙間だらけになってしまっており、そこから空や下の階が覗けるほどです。
瓦礫の山を《目星》で捜索すると、色あせたカンバスや絵筆などが見つかります。
紫苑の母、叶絵が使用していたものですが、彼女が亡くなってからは手付かずの状態だったようです。
また、瓦礫の山を漁ろうと中に入った場合、玉蟲色の、粘着質の何かが一部の瓦礫に付着していると気づきます。
それはうねうねと生き物のように蠢き、まるでナマコのようにも見えるでしょう。
このショゴスの破片に迂闊に触れた探索者は、触れた部位を取り込まれてしまいます。
STR12との対抗に失敗すれば、そのままその部位を食いちぎられてしまうでしょう。
無色の部屋は過去に《ショゴスの召喚》の呪文を唱える際、使用された部屋です。
内装は不自然なほどに何もなく、空の部屋への壁が無残に叩き潰されているのが見える程度です。
床を調べた場合、まるで溶かされたかのようにピカピカに磨かれていると気づきます。
ショゴスが這いずったことにより、床が溶けてしまっているのです。
叶絵の部屋は書斎と対になる、望月叶絵の私室だった部屋です。
彼女が亡くなってから2年も経っているため、ほとんど何も残ってはいませんが……
進行上や展開上に必要な品物がある場合、気取られない程度に「ここに置いてあった」ことにしても良いでしょう。
探索者がひと通り屋敷を調べ終えたところで、「ガチャリ」という音がどこからか聞こえます。
これは書斎の鍵が開いた音です。
部屋の中には、天井まで届くほどの大きさの本棚があり、森のように並べられた本棚の前には小さな執務机。
そして、それに負けないほどに小さな「彼女」が行儀よく椅子に座って待っています。
望月紫苑と、彼女に抱きかかえられた、死亡した探索者のぬいぐるみです。
探索者は彼女たちから、この怪異の真相を聞かされる事になります。
この世界は、「玉蟲色の悪夢(ショゴス)」の見る夢の中であること。
父親の召喚した玉蟲色の悪夢は、召喚者である父親と紫苑を喰らい、去っていったこと。
そして、彼女の記憶を元に生み出されたのが……この世界だということ。
玉蟲色の悪夢は、他人の夢に干渉する能力を持っています。
おそらく探索者たちが「喋るウサギ」を見た時から、夢の世界へ引きこまれていたのでしょう。
このままでは探索者たちも、町で見たぬいぐるみたちのようになってしまいます。
が、しかしこれは玉蟲色の悪夢を倒すチャンスでもある、とも彼女は説明します。
曰く、この夢の住人には、2種類のタイプが存在している。
紫苑や探索者、玉蟲色の悪夢のような、自分の意識を持ち、この世界に干渉出来る存在。
もう一つは、町のぬいぐるみたちのような、意識も自我も失った、ただの「NPC」。
RPGの「村人」のように、いつまでもいつまでも、決められた役目を繰り返すだけの存在。
探索者が干渉しなければ、「何も壊せず、作れない」そんな存在だ。
ここまでを紫苑は説明するが、説明の最中にいくらかの「たぶん」の前置詞。
そして、「この世界の事を全てわかっているわけじゃないけど……」という断りが入ります。
その上で、彼女は「玉蟲色の悪夢を打ち倒し、この世界を終わらせて欲しい」と探索者に依頼します。
そのための手段として、彼女は一冊のノートを執務机から取り出し、手渡します。
魂(MP)の無い彼女には詠唱出来ない、《玉蟲色の悪夢の退散》の呪文が記載されたノートです。
ノートにはそのほかにも、雄二の殴り書きが遺されています。
「最愛の娘の、人並みの幸せを望んだ」
「ただそれだけだったのに。たったそれだけだったというのに」
「神は、それすらも与えてくれなかった」
「無慈悲に願いを踏みにじり、私と紫苑から、妻を……叶絵を奪った」
「そして今、紫苑までも命を奪われようとしている」
「ならば、私は喜んで外法に手を染めよう」
「この身が地獄に落ちようと構うものか」
「娘を外に出してやりたい。学校に行って、友達と一緒に遊んで……」
「それだけだ。それだけ出来さえすれば」
「紫苑に何一つ与えられなかった不甲斐ない父親でも、そのくらいは……」
雄二のノートはラテン語と日本語で、同じような内容が記載されています。
彼が翻訳作業を行っていたためです。
日本語の部分を読むだけでも、《玉蟲色の悪夢の退散》の呪文を取得することが可能です。
《玉蟲色の悪夢(ショゴス)の退散》は1d6正気度、すべてのMPを消費して発動する呪文です(MPに関しては秘匿)。
コストとして支払ったMPとショゴスのMPを対抗させ、勝利すればショゴスを退散させる効果を発揮します。
これは協力して唱える事の出来る呪文であり、複数人のMPを合算することも可能です。
15分ほどを使い《ラテン語》の文章を更に調べた場合、翻訳されていない部分には以下の情報が記載されていると分かります。
「この呪文を詠唱する場合、精神力を全て使い果たしてしまう事に注意しなければならない」
「もし、それをカバーする手段を持たずに召喚を行えば、ショゴスを制御することが出来ないからだ」
ノートを渡し終えると、自身の記憶を取り戻した紫苑は、生前の願いが叶った事を探索者たちに告げます。
普通の女の子みたいに、町に出て、友達と遊んで、お喋りをする。
ベッドに臥せっていた彼女には、決してかなわなかった願い。
探索者たちと出会い、町に行き、会話を楽しむ……それだけのことが本当に幸せだった、と。
全ての情報を渡し終えると、役目を終えた紫苑の体がだんだんと透けていきます。
これは彼女の細胞がショゴスの体内から、完全に消え始めているために起きた現象です。
探索者との別れの挨拶を終えた後、うっすらと輪郭だけを残し、紫苑の体は、消滅……することはありません。
代わりに、砂時計の割れる「パリン」という音が、その場の全員の耳に響きます。
輪郭から蘇り、再び実体を取り戻した紫苑は、そこに残っています。
うつろな目で微笑み、探索者に笑いかけます。しかし記憶も自我も、彼女にはもうありません。
残された探索者は、書斎の本棚に《目星》を行うことが可能です。
成功した場合、棚の足元くらいの高さの回りに、数冊の本が散らばっているのを見つけます。
そして、その代わりに……例の「わが町の歴史」が押し込まれているのです。
真面目な医学書や学術書に混じったそれは、完全に浮いてしまっています。
こちらは前原が持ち歩いていた、今や遺品となった書籍です。
よってこの本には出版社名が残されており、読んだことのある探索者がいれば、その記憶と同一の内容だとも分かります。
ぱらぱらとページをめくると、最初のページに文字が書かれている事に気づくでしょう。
震えるような、かじかんだ手で書かれたような文字です。
「なんという事だ。私は初めから間違えていた」
「この世界も、この空間も、全てはまやかしに過ぎないのだ」
「もう外のこともほとんど思い出せない」
「友人も消えてしまったが、今ならまだ助けられるかもしれない」
「今から間に合うかは分からないが、脱出方法を発見した」
「誰かがこの世界に引きずりこまれる事を考え、この手段を書き残す」
「……まず、3階の窓を大きく開け放て」
「そして、深呼吸して意識を研ぎ澄まし……」
「飛び降りて、死ね」
《精神分析》などで調べれば、これは正常な、真剣な心で書かれたのだろうと推測出来ます。
前原が書き遺した記述。彼は古里の死後、たった一人で情報を集めて、この場まで辿り着いたのです。
そして彼は集めた断片的な情報から、この世界の真実までをも突き止めました。
しかし無情にもタイムリミットが迫り、外の世界の記憶も消え(9割の消化による状態)、
手はかじかんで(5割の消化による状態)乱れた字しか書けず……
足も動かない(7割の消化による状態)ため、足元程度の高さに本を入れるのが精一杯だったのです。
……ちなみに書斎の鍵は彼が持っていましたが、死体と一緒に消滅してしまったようです。
ここまで来た探索者には、2つのルートが提示されます。
前原の遺書を信じ、窓から飛び降りるか。
紫苑の遺言を信じ、ショゴスに《退散》の呪文を掛けるか。
……正解はそのどちらでもあり、どちらでもありません。
前原の言うとおりに窓から飛び降り、この世界の外にいる本物のショゴスに、紫苑の言うとおり《退散》の呪文を掛ける。
それこそが探索者の助かるための、唯一のルートなのです。
この真相に気づくためには、情報の取捨選択と、ありえない可能性の排除が基本です。
全ての情報が開示されていた場合、探索者は以下の情報を得ていることになります。
望月紫苑は信用に足る(彼女に同情していれば、信じたい)人物。
前原誠一は誠実で、本人と直接対面したことは無いものの、信用に足る人物。
ここから導き出されるのは、「彼女らの情報はどちらも正しい」という事実です。
しかし、一見すると彼女らの情報は矛盾を起こしています。
紫苑は「玉蟲色の悪夢を打ち倒す」事で現実に戻れると説き、
前原は「屋敷の3階から飛び降りる=自殺する」事で現実に戻れると書き遺しました。
お互いが正しい前提で考えると、「紫苑たちが解放されるのは玉蟲色の悪夢を倒した場合のみ」。
つまり、《玉蟲色の悪夢を打ち倒せば、探索者も紫苑も解放される》。
《自殺を行えば、探索者たちは現実に帰還する》という事です。
前原は紫苑と出会っていないため、「彼のみが現実に帰還できる方法」を書いたのだろう、と。
ですが、実際には前原は現実に帰還出来ていないと考えられます。
もし彼が帰還に成功したのなら、少なからずニュースになるはずだからです。
では、何故前原は帰還出来なかったのか? その謎の答えは彼の遺した本自体に隠されています。
彼の本は、「足元程度の高さ」に配置されていました。
そしてメッセージは「震えるような文字で」書かれていました。
つまり、彼は……死の直前。「砂時計の減少による症状」を起こしていたのです。
彼が自身の死を予感できたのもそのためでした。
自身の脱出方法を試す事が間に合わなかった。だから死体は見つからなかったのです。
これらにより、「前原誠一の情報は真実であるが、その脱出手段は試されてすらいない」事が分かります。
次に、紫苑の情報。彼女の言っている事は、部分的には真実です。
具体的に言えば、「2種類のタイプ」「記憶を元にこの世界が生まれた」の部分です。
しかし、それ以外の部分は彼女の推測に過ぎません。
自信のなさ気な口ぶりからも、それは伺えます。
これらにより、「紫苑の情報を全て鵜呑みにするのは危険」という事がわかるでしょう。
そして、最後は探索者が今まで得た情報から。
自身の記憶が空白になっている期間……「ウサギのメイドを追いかけて穴に落ちてから、喫茶店に現れるまで」を考えるのです。
彼らは自身の記憶にない、「テケリ・リの声」「玉蟲色の悪夢の姿」をどこかで見たように感じていました。
それらを見る事が可能だったのは、よほど数奇な人生を辿っていない限り、「空白だった期間」以外にはありえません。
夢の中で突然「夢の中についての」記憶を失う、というのはあまりに不自然だからです。
よって、「喋るウサギを見た時から夢の中だった」という紫苑の言葉は間違いだと導き出せます。
さて。では何故、探索者たちは夢の世界にいるのでしょうか?
それは、彼らが紫苑と同じ目に遭った……つまり、「現実世界でショゴスに飲み込まれているから」以外にはありえません。
これらを統合すると、
「前原誠一の脱出手段を取り、現実世界に帰還する」
「望月紫苑の呪文を使い、現実世界のショゴスを退散させる」
それが唯一の方法であり、手段であると分かります。
この場面に入ると、砂時計の進行が再開されます。
ショゴスが消化活動を再開し、最早一刻の猶予も無いのです。
探索者は「離れ」に行くか、それともこの場で「脱出策」を試すか、どちらかを選択しなければなりません。
もし探索者が「離れ」で正解ルートに気づいた場合は、3階に戻るまでに、1階につき1度の《砂時計の進行》ロールを行います。
前原の遺言が「死ね」と言っているのだと判断出来れば、1階の台所に行って包丁で割腹する。
2階の暖炉の部屋に行き、火かき棒で頭を割る……などの手段も取れるでしょう。
飛び降りを試みるルートの場合、窓の外の景色は、あまり見ない方がいいだろう。
ただし、「前原誠一」の遺体が外には見当たらないこと。
ここから飛び降りても「離れ」のショゴスにぶつからない事は教えておく必要があります。
「ショゴスを見ないように窓の外を観察する」などと提案されれば、それを受けるといいでしょう。
ここから飛び降りた探索者は、「夢の中でのHP」に24の固定ダメージを受けて死亡します。
また、死の体験によって5ポイントの正気度を喪失します(一時的狂気は発生しません)。
かくして夢から脱出した探索者のその後は、後述にて。
ショゴスの退散を試みるルートの場合、離れ小屋へは1階の裏口から向かえます。
離れ小屋は3m程度の高さの木造の建物で、ショゴスはそれに覆いかぶさるようにして蠢いています。
が、離れ小屋が壊れる様子も、探索者に襲いかかってくる様子もありません。
3階には、ショゴスにより破壊された、彼の暴力性を表すような空の部屋があるにも関わらず。
もちろんそれは、このショゴスが「NPC」に過ぎないからです。
この場所で《退散》を唱えた場合、即座に「ハッピーエンド」に移行します。
前述の選択肢において、夢の中での《退散》を試みた探索者たちが迎えるエンディング。
目が醒めると、そこはどこかの民家でした。
あなたたちは、そのことに何ら違和感を覚えません。
自分の体にも、違和感を覚えません。
毛糸と生地の腕、編み込まれた足。
砂の落ちきった砂時計。
根拠の無い多幸感が全身に満ち溢れていました。
うつろな目をした彼女が、探索者たちの前にいました。
無感情な笑顔で、彼女は笑いました。
「これからずっと一緒だね。ずっとずぅっと、しあわせだね!」
こちらへ進んだ探索者は全員ロストし、二度と解放されることはありません。
さて、無事に正しい選択肢を選べた探索者たちが目を醒ますと、まず映るのは穴の開いた天井です。
そして、背中を包み込むような不快な感触……食虫植物の体内に飲み込まれたような錯覚を味わいます。
じゅるじゅると音を立てて蠢く、玉蟲色の悪夢。音を立てて飲み込まれていく、自身の肉体。
冒涜的な声が、探索者の鼓膜を揺さぶります。その耳の中に、玉蟲色の悪夢が侵入していきます。
じわり、じわりと。……自らを食い殺すために。
「テケリ・リ!」「テケリ・リ!」と嘲笑う声が、背後から自身を覆い尽くすかのように響きます。
恐るべき「玉蟲色の悪夢」……「ショゴス」の存在を認識した探索者たちは、正気度《1d6/1d20》を喪失します。
さて、ここからは戦闘の形式で処理を行います。
DEX順に行動が可能で、全員1度だけ行動を取ることが可能です。
呪文を唱える探索者は、呪文を唱える事を宣言し……
ラウンド終了前に、彼らのMPを合計した数値で対抗ロールを行います。
夢の中で体がぬいぐるみ化していた探索者は、意識不明の重体です。
《応急手当》か《医学》に成功しなければ、1d3ラウンド後に死亡してしまうでしょう。
もちろん、呪文を唱える探索者は《応急手当》《医学》を同時に使用出来ません。
ショゴスを《退散》させる事に失敗した場合、またはラウンド終了時、ショゴスは全員を飲み込んでしまいます。
飲み込まれた探索者に待つのは、死のみです。
ショゴスの《退散》に成功した場合、空中に裂け目が現れ、ショゴスはそこに飲み込まれて行きます。
全身を覆う緑の眼球が静かに割れ、そこから発光する球体が浮かび、洞窟の天井に当って消えていく。
裂け目はゆっくりと閉じ、洞窟には静けさだけが残ります。
完全にショゴスと裂け目が消滅した事を確認すると、呪文を唱えた探索者たちは意識を手放します。
……腰が抜けた。そう表現するのが最も近いでしょうか。
恐怖が去った事の安堵。呪文を使用した事による喪失。日常への帰還の実感。
様々な感情がないまぜになり、自然と安らぎの中に意識は消えていきます。
目が覚めると、そこは木陰でした。
起きていた探索者が洞窟の外へ彼らを運んだのか、あるいは誰かが運びだしたのか……
穏やかな木漏れ日が優しく探索者たちを揺り起こします。
木陰から見渡すと、そこは花畑。
薄紫色の一重の花が、探索者たちを祝福するかのように一面に咲き誇っています。
……実際はショゴスに溜まっていた死体の養分が、《退散》の際に吐き出されて起きた現象なのですが……そこはまあ、黙っておいた方がいいでしょう。
錆びた鉄柵から、ここがあの屋敷の跡地であると推測出来ます。
起き上がった探索者たちが自分の周囲を見ると、ぬいぐるみが落ちている事に気づきます。
クリスマスツリーの下にプレゼントを置くかのように、そのぬいぐるみにはアクセサリーが付いています。
「シオン」という花のアクセサリーです。
穏やかな陽光を浴び、爽やかな空気を吸い込み。
生きていることの喜びを噛み締めながら、シナリオはここで終了します。
それはきっと、生きている間にしか味わえない、誰にも平等に与えられた「幸せ」なのでしょう。
生還した探索者は2d8+4の正気度を回復します。
正しい道に進めるよう、懸命に推理に参加した探索者には、さらに3ポイントの回復。
紫苑と仲良くしていた探索者は、さらに1d4ポイントを回復する事が出来ます。
また、探索者たちは「シオンの花飾り」を獲得します。
この花の花言葉は『追憶』『遠方の人を思う』『忘れない』など。
ちなみにAF的な効果はまったく無いようです。
危険な生物の登場数は少ないくせに、難易度は極悪。
さらにはヒロイックな気分を煽るくせに、その通りに進むと即死。
非常に危険性の高いシナリオとなっていますが、その分クリアできた時の喜びは強い……はず。
当初はただのタイトルオチなシナリオだったはずが、一体どうしてこうなったのでしょうか。
これもきっとニャルラトテップの思し召しなのでしょう。
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