あやえも研究所さん
加工元:norfolkdistrictさん
フォント:ほのか明朝。
ほのか明朝はIPAexフォントの派生プログラムです。
鍵が掛かっており、入ることが出来ません。
<鍵開け>などで解錠することは可能ですが、入るメリットも特にはありません。
それでも入った場合、綺麗に整頓された机や経理関係の資料を見つけます。
海鳴教は様々な企業から多額の寄付を受けていますが、それらの団体はどれも聞いたこともないものです。
それもそのはず、それらはトンネル企業であり、書類上にしか実体がないものだからです。
彼らは多方面に、神話的な恐怖を体感させることにより得た信者を抱えています。(あの液体は稀に、そのような目的にも使われていたようです)
また、首を突っ込んできた政府の調査員なども、やはり恐怖によって信徒と変えています。
狭い応接室。窓からは海の景色を一望することが出来ます。
こちらも鍵が掛かっていて入ることは出来ませんが、やはり<鍵開け>すれば入れます。
中にあるのは、それなりに立派なソファやテーブルといった、一般的な応接室といった光景です。
得られる情報はありませんが、置いてある茶菓子はなかなか美味しいものとなっています。
彼らの武器などを仕舞っておく倉庫です。やはり鍵を掛けられています。
ひんやりとした冷たい空間で、件のスタンロッドもここに数本保管されています。
持ち運ぶ場合、<小さな棍棒>(近接戦闘(格闘)扱い))として扱います。基本命中率は25%であり、命中すれば<ショック>の判定を行います。
ただし、このスタンロッドが役に立つ展開になることはめったに無いでしょう。
多くの場合、このアジトに入ってしまえば後は多勢に無勢の展開にしかならないからです。
この部屋のみ、電子ロックと物理ロックの二重の手段で防御が行われています。
ですが電子ロックは解除されており、物理ロックさえ渦波の鍵で開けてしまえば簡単に入ることが可能です。
明らかに不自然であり、嫌な予感がするプレイヤーも多いでしょう。
部屋の中にあるのは、分厚いガラス張りの巨大な水槽、その前面に取り付けられた奇妙な装置。
そして水槽に浮かんでいるのは、培養液に浸された全長50cmほどの灰色の風船のような忌まわしい物体です。
ウロコに覆われたゴムのような質感を持ったそれには小さな突起が数カ所生まれており、そこから緑色をした細い管が伸びています。
背中の管はコウモリの翼の骨のように折れ曲がっており、球体の上部……人間なら頭に類する場所からは小さな2つの眼球が胴体に埋もれるようにして覗いています。
上下左右に二箇所づつ……やはり人間に例えるなら両腕、両足に当たる場所にも突起は見られ、そこから弱々しい長さの管が頼りなく伸びていました。
両足の間にはマスクのような機械が取り付けられており、そこから水槽の前面にある装置へとケーブルが伸びています。
長方形の小さな黒っぽい色の装置にはフラスコが取り付けられており、そこへごくごく僅かな量の……おそらく、あの球体から抽出されているであろう……濃い灰色をした何かが『ぽとん…………ぽとん』と長い間隔を開けて落ち続けていました。
探索者がそれを見ると、奇妙な感情を覚えます。
それは久々に故郷を訪れた時のような安堵の気持ちと、慕わしさ。
目の前のそれが自分に安心をもたらすものだと感じ、さながら母へと向けられるような本能的な慕情が自然と湧き上がったのです。
……ですが、探索者が無意識にそれへと一歩近づいた途端、その感情は風に飛ばされたように消え失せ、本能的な嫌悪が一瞬の内に込み上がります。
心臓が異常に早く脈打ち、背中から汗が吹き出し……ただただ純粋な恐れの感情が、偽りの慕情を塗りつぶすのです。
探索者はこの異様な心変わりと、恐ろしい怪物を母のように感じた事実に対し、正気度を『1/1d4+1』喪失します。
なお、この水槽を破壊することは生身では到底不可能であり、少女に頼んでも破壊してもらうことは出来ません。
規則正しくテーブルや座席が並べられた空間。奥へ進むと、大いなるクトゥルフの巨大な像を見つけます。
材質は単なる石に過ぎませんが、その忌まわしい姿を彫り込まれた像は、有無を言わせない迫力とおぞましさに満ちあふれています。
ですが探索者が感じるのは、喜びと親しみの感情です。自然と体が動き、気づけば無言の内に手を組んで祈りを捧げています。
少女が同行していれば、彼女がどうして怖くないのか、と尋ねることにより正気へ戻ります。
これによる正気度喪失は培養室で既に行っていた場合は発生せず、逆の場合も同様に処理します。
ホワイトボードやパイプ椅子、折りたたみ式の机などが並ぶ、至って普通の会議室に見える空間です。
ボードには赤いマジックで『器は完成後、菜々潟近海に送られる。完成までの期間はおそらく3年ほど』などと書かれています。
本来、器は菜々潟近海へと送られる予定でした。ですが地球は公転し、宇宙における位置は変化し続けています。
渦波は何とか正しい位置に送ろうとしたのですが……やはり誤差が生じ、器は日登山へと届けられてしまったのです。
机の一つには議事録が無防備に置かれ、そこには彼らの会議内容が残され、それを読むことにより、彼らは人類を退化させることで滅びの日から守ろうとしていたということが分かります。
また3年前の会議の記録を調べれば、術式を使うプランの詳細についての情報を得ることが出来ます。
それは黄衣の王の付近の星から魔力を集め、地球へと送り、器とするという大掛かりなものです。
その星への移動手段には『黄金の蜂蜜酒』と呼ばれる霊酒が使われ、それを飲むことで人間は精神と肉体に分離され、精神のみで自由に動くことが出来るようになります。
ですが精神が殺されてしまえば、残った肉体は触れただけで崩壊してしまうような状態に置かれるのだというのです。
送られた術式は、『人類を救う存在を宿す<器>』とされるとのことですが、それがどういう存在かについては、議事録の中では触れられていません。
3年前にプランが実行に移されてからの記録も残されていますが、もしもの失敗のために計画されたいくつかのプランは、どれも実行に移せるものでは無かったようです。
この部屋に入ると、次のイベントへと移行します。
資料室には林立する資料棚や事務用の机などがあり、魅力的な情報の海となっています。
ですが、まず真っ先に目に入るのは、真正面で椅子に腰掛けている、厚着姿の老人……小室です。
彼は探索者に「待っていた」と言うと、ぱちんと指を鳴らします。すると会議室や資料室のドアから一斉に男たちが入り込み、探索者たちを取り囲みます。
包囲され、身動きの取れなくなった探索者の前で、彼は「まず、一つ言わせてもらいたい」と言い、探索者が同意すると一斉に頭を下げ、彼を巻き込んでしまったことを謝罪します。
……ここからは、探索者が情報を得るための時間となります。
小室は探索者に対し、彼が知っていることなら何でも教えてくれます。
少女が自我を持たず、単に探索者の望んだ反応を返すだけの存在であることも、そこには含まれます。
そして少女が『器』であること、それが人類を救うために絶対必要であると言い、探索者に彼女を引き渡すように頼みます。
小室は会話中、絶対に少女の言葉は聞こうとしませんし、彼女のことは絶対にそれといった代名詞で呼びます。
彼女のことを自我を持った存在であるとは、彼は認めていないのです。
また、小室から神話的な事象に関して説明を受けた探索者は<クトゥルフ神話>を5%獲得します。
彼は無理やり少女を奪い取らないことについては、「人間としての感傷」と出張します。
ですが、実のところは全くそうであるとは言い切れません。少女は現在、探索者の命令を最優先に行動するように定義付けられています。
力づくで探索者を叩きのめして奪いとっても、少女に器の役割を果たさないような命令がされてしまえば、何の意味も無いのです。
そして何より、彼らは自らが出した結論に絶対の自信を持ち、人類が救われる手段はそれしかあり得ないと考えています。
探索者が自分たちの出張を聞けば、例え少々渋ったとしても、人類の義務として、器を返してくれると盲信していたのです。
探索者は全ての情報を得た上で、選択することを求められます。
キーパーも彼の疑問に適切に、正直に答えることを求められます。
少女を差し出せば彼らの計画は実現し、人類はクトゥルフの復活以降も生き延びることが出来るかもしれません。
ですが、それは本当に人類なのでしょうか? 探索者は液体により部分的な退化を起こし、クトゥルフやクティーラに親愛の情を覚えたもう一人の自分を知っています。
自由な心を失った人生は、果たして本当に生きていると呼べるのでしょうか。
3年の間に人類が対抗手段を取れることに賭け、計画の実現を阻止する道が正しいのかもしれません。
少女を差し出さなければ彼らの計画は頓挫するでしょう。ただし、人類がクトゥルフの復活の日、彼と敵対しなければならないことは確定します。
人類は過酷な運命を背負う限り、人としての誇りを失わずに済むのです。3年の間に対抗手段を見つけ、幻視した未来を実現させないことも出来るかもしれません。
……しかし、それは個人のエゴではないでしょうか? そんなあやふやな希望に賭け、確実な救いの手段を放り捨てて良いのでしょうか。
何と言っても死んでは終わりなのです。多少の服従を強いられるにせよ、多くの人が生き延びられる道の方が正しいかもしれません。
そして推奨はされないものの、もう一つの選択肢も残されています。
少女を連れ、選択を放棄して何処かへ逃げるというものです。海鳴教は彼女が器として機能しなくなることを何よりも恐れています。
解放呪文の件などで脅し、アジトを脱出。世捨て人となり、彼らに見つからないように日々を過ごすという手段もないことはないのです。
ですが、いつかは彼らに見つかってしまう可能性は高いですし、今の社会的身分を放棄しなければなりません。
少女本人はと言うと、自らの創り手である渦波への思い、器としての自覚を得たことへの責任などから、自身では選択することが出来ません。
ですが、探索者が何も言わずに何も決断しないか、無謀な逃亡を敢行して倒されてしまったなら、彼女はやがて自身を器とすることに同意します。
人間は頼りなく、守ってやらなければ滅びてしまう、と考えたのです。それに、その道は彼女が使命を全うし、好きな人を守ることの出来る道でもあるのです。
少女を差し出すか、少女自身が生贄となることに同意した場合のエンディングです。
彼女は探索者に今までのことへのお礼を言い、感謝の気持ちを表すと施設の外へと移動し、自身を球体の状態へと初期化させます。
あの時見た、大きな光の塊。無機質なそれに、海鳴教の面々は培養液から取り出したクティーラの複製を近づけます。
すると、また出会いの時と同じように光が走り、変化し……現れたのは巨大な怪物。クトゥルフの秘められた子、クティーラの力を持った複製です。
それは探索者を威圧的に見下ろします。ですが、探索者には不思議と恐怖の気持ちは浮かびませんでした。
……それが、首筋に現れたもののせいであるのか、それとも別の理由であるのかは、きっと誰にも分かりません。
複製は海へと沈んでいき、父が蘇るその日まで、人類を深きものへと退化させる目的のため、鳥かごに閉じ込められ続けるのでしょう。
海鳴教の面々は探索者を気遣い、家まで車で送ろうかと提案します。
彼が好意を受け入れるか、拒否するかは自由です。
少女を差し出さず、解放呪文を使用した場合のエンディングです。
呪文を唱え終えた途端、彼女の体に亀裂が走ります。その隙間から流麗な光が漏れだし、不可思議な光彩を暗室に描き始めるのです。
小室は叫び声を上げ、彼女に掴みかかろうとします。探索者にもその動きは見えます。その最中も、『ひゅんひゅん』と軽いものの飛び回るような音が聞こえ、その音は加速し続けます。
光彩は光の筋となり、鞭のようにしなやかに宙を舞います。残光が暗室を塗りつぶし始め、音の間隔は失われます。
視界は純白の光に包み込まれ、絶え間なく鳴り響く音が、どこか現実味もなく鼓膜を揺らします。誰かの叫びが聞こえるも、それも掻き消えてしまいます。
視界を覆う光、無機質なエネルギーが、純粋な魔力が目の前で膨れ上がると、それは視界だけではなく、探索者の全てを飲み込みました。
……体の感覚は消えていました。目も、耳も、鼻も、指も、舌も、何も情報を送りません。
脳があるのかすら確証は持てません。一切の感覚が消え、ただ無だけが感じられました。
驚くほどに穏やかな思考の中、自分の成したことへの思いだけが虚空に浮かび続けていました。
……その最中、不意に瞼が開きます。
おぼろげな自分がそこにいました。情報の奔流が黒一色の空間に溢れかえり、ありとあらゆる、ひらがなやカタカナ、漢字や数字が視覚化され、認識不能な速さで渦を巻いていました。彼はその中で、ぷかぷかと浮かんでいたのです。
当惑する探索者の前で、奔流から何かが浮かび上がります。世界がぐるぐると渦を巻くような感覚とともに目の前の景色が変化し、すぐに長方形に似た形を作り出します。
それは自己の形を歪ませ、それから均整の取れた流線型へと変動し、人の形を作り上げます。最終的に光から現れたのは、150cmほどの背丈の、小さな……ほんの一日に満たない間に、あまりにも見慣れた少女でした。
彼女は探索者の言葉には何も答えず、ただその代わりに笑みを浮かべます。それを見た途端、意識は急速に冷え込み、感覚を失いました。
……さざなみの音が聞こえます。探索者の意識は元の部屋へと戻り、ゆっくりと体を持ち上げさせました。
探索者たちを取り囲んでいた海鳴教の面々は、床に倒れ伏していました。小室も信徒も、一様に床に倒れて静かな眠りにつき、浅い呼吸を繰り返していました。
光が溢れ、膨張し……不発弾が起爆したというのに、誰も死んではおらず、何も無くなりはしませんでした。
ただ、少女と培養室にいた存在……それだけが消えてしまっていました。
少女を差し出さず、呪文も使用しなかった場合のルートです。探索者はまず、アジトから無事に脱出しなければなりません。
<説得>や<信用>に成功すれば、彼らに解除呪文の存在を伝え、それによる脅しを使うことが出来ます。
無事にアジトから脱出することが出来ても、その先は困難な道です。仮に今、無事に彼らから逃げ出すことが出来たとしても、彼らは絶対に後を追うためです。
キーパーはそのことを事前に伝え、探索者としてはロストする形となることを教えておかなければなりません。
このルートの場合、探索者が菜々潟を少女とともに後にすると、エンディングへ移行します。
脱出に失敗し、気絶させられてしまった場合、少女が自らの意思で生贄となることを選択したことが、おぼろげな意識の中に聞こえます。
彼は海鳴教の応接間、そのソファの上で毛布を跳ね除けて目覚めます。その後は、小室から顛末の説明を受けることになるでしょう。
かくして、短い冒険は終わりを告げました。
探索者が選んだ道は、出した結論は果たして正しいものだったのでしょうか?
……その答えはきっと、誰にも出すことは出来ないのでしょう。彼女は確かに、そこにいたのだから。
探索者は選択に関わらず、1d10正気度を回復します。
しかし、少女とともに逃げ出したルートの場合、彼はもはや日の当たる場所へは出ることの出来ない身分となってしまいます。
そうなった探索者は、もはや通常の探索に参加出来る状態でないため、ロスト扱いとなります。
暗く、辛い選択を求められるシナリオです。
どのエンディングが最良か、なども決まっておらず、プレイヤーに委ねる形となっています。
(文章は解放ルートが一番多いですが、それは単なる展開の都合です)
そのため、人を選ぶ内容となっています。気心の知れた、そういう展開も楽しめる仲間と遊ぶと良いでしょう。
何かありましたら、コメントページやTwitterにてご連絡ください。